27 魔力の変質
「ちょ、ちょ、ちょ…、何してるのっ!?スイ!」
突然胸の下を触られたことで驚いたが、何故か私よりも先に、セイラ先輩が慌て出す。
「これぐらいで騒ぐな。残念ながらお前からは力を感じなかった。」
そんな私達を見ても、スイネグさんは対して気にした様子もなく、淡々と話を続けている。
「あ、あの…、いきなりここを触られたことについても言いたいことはあるんですけど、それよりも力を感じないって…、私は魔法を使えるようになるんですよね?」
私は、セイラ先輩が騒いでいて、スイネグさんがそのまま説明に入りそうだったので、せめてこれだけは聞かなければと彼に尋ねる。
「まぁ、すでに回路に魔力を通したことはあるようだし、素質はあるだろうな。」
「それなら少し安心です。それと、力があるのか確認するにしても、女の子の身体に触るんですから、ちゃんと一言断ってからにしてくださいね。」
質問に答えてもらって一安心するが、私はスイネグさんに釘を指すことを忘れない。だが、
「はいはい、次からは確認すれば良いんだろう。」
と、彼にあまり反省した様子は見られなかった。
けれど、今回は確認するのに必要だったみたいだし、今度からはちゃんと確認をすると言うことなので、これ以上は騒いでも仕方ないと、話の続きをしてもらう。
「魔力が変質するきっかけが何なのかって、分からないんですか?」
「一般的に感情の爆発が要因だとは言われているが、俺はそれだけではないと思う。もしもその通りなら、他にも魔力が変質していてもおかしく無い奴は居るからな。」
「先輩方は変質しているんですか?」
スイネグさんの話し方で、変質している方が珍しいのだとは感じたが、この3人が実際の所どうなのか知りたくて聞いてみる。
「俺達の中だと変質しているのはサクだけだな。あとは、今あいつが面倒を見ている1年か。」
「レイナちゃんの事ね。サクが調べて力を感じるって言ってたし、来年はSクラスに確実に上がるわよねぇ。」
「あの2人が…。」
ここに来てようやく私は、サク先輩がレイナに期待している理由を知る。
それと同時に、気になることが1つ。
「えっと、魔力が変質しているのって、そんなに影響があるんですか?」
「そうだな。恐らくは、お前が想像している以上に影響は大きいだろう。」
「まー、そうよねぇ。普通の人と比べて、少ない魔力で強力な魔法が使えるようになるんだから。」
「確かに、オゾンタイプの魔素が増えるってことは、それだけ魔法を発動させる消費が減るって事ですもんね。」
セイラ先輩の説明を聞いて、私は1学期後半、レイナに様々な競技で負けた事を思いだし、先輩達が、Sクラスになるのは確実だと言ってることに納得する。
そして、スイネグさんが補足するように説明を続ける。
「ここからは俺の推測になるんだが、俺はこの魔力の変質が2段階あると思っている。」
「2段階?1度変質した後、また何か変化があるってことですか?」
「あぁ、まずは1度目の変質だが、酸素タイプとオゾンタイプの魔素が同じくらいの割合になる。更に、心臓の下辺りに変圧器のようなものが生成される。」
「それがさっき確認したもの…。」
私は、自分でも胸の下に触れてみるが、何も感じることは出来ない。
「2段階目の変質。これの発生条件は分からないが、これが起きると、恐らく体内の魔素のほとんどがオゾンタイプに変質する。」
「発生条件は分からないんですか?」
「あぁ。だが、確実にこの変化が起きているやつは居るはずだ。特にSSクラスには、そうでもなければ説明の付かないやつも居る。」
「何て言うか…、本当に魔術と比べて色々と複雑なんですね。」
前置きされていたとは言え、魔法の説明は説明されるのも、理解するのにも時間が掛かる内容だった。
おまけに、スイネグさんでも理解しきれてない事もあると言う。
「まぁ、安心しろ。どうせ1年の間は魔術ぐらいしか教えるつもりは無いから、今日1日は単純にどういう種類があるのか、その違いは何なのかを説明したに過ぎない。」
「い、1年の間…。あのっ、魔力の扱いを、1年の内に覚える事が出来たら、魔法の方も教えて貰えるんですか?」
私は、まさかこの後は、完全に魔術の講義に移って2年生になるまで魔法の勉強はお預けなんて事も、この先輩ならやりかねないと思い、尋ねてみる。
すると、スイネグさんは片眉をピクッと動かし、私のことを面白い玩具を見付けたような表情で見下ろす。
「ほう?お前は、俺達が長年かけて習得しているこの技術を、残り半年足らずでマスター出来ると。しかも、その未熟な魔術練習の片手間で十分だと言うのか。なんとも傲慢な。」
「ち、ちがっ…そんなつもりで言った訳じゃ…」
彼にそう言われ、私は自分の発言がどういった意味に聞こえるのかを理解すると、決してそんな意図は無かったのだと慌てて弁明しようとする。
だが、スイネグさんは特に怒っている訳でも無いみたいで
「勝手に練習するなとは言わないが…、まぁ、どうしても分からないことがあると言うならば、そこのバカ女にでも聞いてみるが良いさ。」
と、溜め息を吐きながら彼女を指差しそう言う。
「セイラ先輩に?」
「あぁ、バカの知識でもたまには役に立つことが有るかもしれんしな。」
「あら、酷いわぁ。でも、天才さんの貴方があーちゃんに講義をするのに、私が教えられることなんてあるのかしら。」
「お前に天才と呼ばれても皮肉にしか聞こえないな。だがまぁ、聞いての通りだ。」
一瞬先輩達の喧嘩が始まってしまうかと思ったが、そこは長い付き合いなのだろう。お互いに何もなかったように此方へ向き直る。
「俺は1年の間は基本的に魔法、魔術の講義を行う。たまに魔術の実技もやるかもしれんが、それは一旦様子を見てからだな。」
「それ以外で分からないことがあったら私に何でも聞いてねぇ~。」
「よ、よろしくお願いいたします…。」
そうして、今日はここまでだと言うことで、この後の予定を軽く話し合い、私達はそれぞれの寮へと帰るのだった。




