09 泳ぎの練習?
私とレイナは今まで、2人とも魔法の練習ばかりに時間を費やしてきたせいで幾らか知識や経験が他の2人に比べて偏っている節がある。
恐らく私達の大陸でも泳げる場所はあったのだろうが、興味を持たなかったので、この学校にプールがあることも知らなかった。
メリッサはそんな私達を馬鹿にすることなく、どういう事から慣れていけばいいのか1から教えてくれている。
そして、サヤカはそんな私達の様子をプールサイドから静かに眺めていた。
何時から気付いていたのか、メリッサは私達にもう少ししたら一旦休憩するように伝えると、サヤカの元に近付いてく。そして、彼女が何か言う前に腕を引いてプールの中へと引き込んだ。
「ちょっ、まっ…」
ザッパーン
突然の事にサヤカも抵抗出来なかったのだろう、大きな水しぶきが上がる。
「ゲホッ、ゴホッ。いきなり何するの」
「悪い悪い。暇そうに立ってたからついな」
咳き込みながらサヤカはメリッサの事を睨み付けるが、メリッサは気にすることもなく彼女を抱えて私達の所へ連れてくる。
彼女達がこちらへ来る姿に私が何か違和感を感じていると、レイナが
「サヤカちゃん、服!」
と、叫んだ。
どうやらサヤカが着ているのは防水服ではなかったみたいで、ブラウスが体にピタッと張り付いて下に着ているものが透けてしまっていた。
「普通の服のままだったの?」
私は彼女がプールに入らないのは防水服じゃなかったからなのかと思ったが
「別に気にしていない」
と言う返事が返ってくる。
「言ってくれればアタシら別に着替えるの待ってたのに。遠慮したのか?」
「ここには私達しか居ないから、もう濡れちゃったしこのまま一緒に泳ごうか?」
「持ってくる服を間違えたから着替えなかっただけ。この服のまま濡れるのも想定してた」
私達に指摘されても、実際に気にしてないのだろう。彼女はメリッサの腕から離れると、そう言って表情を変えずにプールの真ん中辺りにいる私達の方へ進んでくる。
だが、
「着痩せしてるのかと思ってたけど、そーゆーわけでもないんだな」
メリダの言葉を聞いたとたんサヤカは顔を真っ赤にして胸元を隠し、ドボンとほっぺたの所まで水の中に沈み込むと、私達を見上げて
「エッチ…」
と一言だけ口にした。
その後私達は少し休憩を取り、いよいよ泳ぎの練習が始まったのだが、メリッサは自力で浮けるか試した方が早いと言って、ばた足だけを教えて1人で泳ぎだしてしまった。
一応、クロールやバタフライなどの泳ぎ方も見せてはくれたけども見ただけで真似するのは難しそうだったので、まずは簡単そうなのからとばた足からやってみる。
泳ぎはじめは本当に浮けるのか不安だったが、なるほど、試してみると思っていたよりもすんなり泳げるようになった。
レイナに至っては、泳ぎを魔法で補助出来るようになっていた。
「水の中でも自由に魔法が使えるようになれば海でも溺れる心配無くなりそうだね」
「つってもここは風魔法ぐらいしか許可されてないけどな。こっちのプールは泳ぎを練習する用だから」
「だから人が居ないのね」
そんな話をしながらしばらく経つと、お互いある程度泳ぐことに慣れてきて、自然と競争をしてみようと言うことになった。
「それじゃあっちの端がゴールね。手加減したら許さないからね」
「む。私だってけっこう負けず嫌いなんだよ?魔法は使っていいんだよね」
「アタシが合図を出してやるよ。ほら位置につけ」
「いくぞ。よーい、ドン」
合図と共に私達は一斉に飛び出す。
最初のうちは私の方が前に出ていたが、レイナは風魔法で推進力を上げて真ん中を越えた辺りから追い上げてくる。
そして、結果はほぼ同時にゴールだった。
「はぁ、はぁ…。負けちゃったー。魔法も使ってたのに~」
「まだまだ体を使うことでは負けないよ」
「今まで泳いだこと無いわりにはだいぶ速かったな。この感じなら海に行っても大丈夫そうだな」
競争が終わってプールから上がると、メリッサが私達にそう言うので
「水の中で動くのってけっこう疲れるものね」
「でも、プールで遊ぶのって楽しいね」
なんて私達も2人で頷きあう。
そんななか
「違う」
皆から少し離れたところでサヤカは
「これは、私の知っている遊び方じゃない」
と、1人呟くのだった。