05 一触即発
「落ちこぼれって、誰のことを言ってるんだ?」
ワタリの発言に、真っ先に反応したのはタイガだった。
きっと、彼のその言葉に含まれる、私に対しての微妙なニュアンスを、敏感に感じ取ってしまったのだろう。
「何ですか、貴方は?」
「タイガ、気にしなくて大丈夫だから。遅くなる前に行こ?」
このまま2人を会話させると、私にとって一番望まない結果が生まれるのは想像に難くない。
そう思った私は、これ以上の会話を打ち切るために、タイガの背中を押して早めに教室から出ようとする。
「ああ、転校生だから知らないんですね」
「何を知らないって?」
だけど、ワタリがそう呟くのを聞くと、せっかく歩き始めたタイガが足を止めてしまう。
「彼女は、Aクラスで最下位の成績だと言うのに、Sクラスのスイネグさんと言う方の助手の座を、不当に独占してるのです」
「アルトが最下位?どう言うことだ」
そして、私の思いも虚しく、タイガはワタリの言葉に、私がより触れてほしくない方へ反応を返してしまう。
「どうもこうも無いですよ。彼女が去年、Aクラスの中でも最下位を争うような成績を取っていたのは誰の目にも明らか。だと言うのに、彼女は何故か、4年のSクラスの中でも上位である先輩の助手に選ばれたんです。」
「はっ、それがどうしたんだ。アルトの実力ならそんなの当然だろう。むしろお前の実力が足りていないのを、勝手にこいつのせいにして妬んでるだけじゃないのか?」
「タイガ、もう良いから!大丈夫だから」
タイガに悪気が無い事は、これまでの付き合いから、私が一番良く分かっている。
けれど、今のこの状況で彼に庇われるのは、私だけでなく彼の立場も危うくしかねない。
そう考える私は、必死にこの場を納めようとする。
「あっ!分かりました。きっとそうやって、スイネグさんにも色目を使って取り入ったんですね」
だが、そんなことは関係ないとでも言うように、私を非難するワタリの勢いはとどまることを知らない。
「ちょっと、いい加減にしな!」
「痛っ!」
そんなワタリを、フレアは彼の頭頂部へ拳を振り下ろすことで抑える。
「まったく、いっつもぶちぶちぶちぶち煩いと思ってるけど、そうやって女の子に八つ当たりしているの、カッコ悪いよ、ワタリ」
「姉さん…」
「大体、ワタリは…
「い、痛そう…だね」
「そうね…結構力強かったわね」
そうして、彼女に怒られている間も、殴られた箇所を擦り続けてるワタリを見て、私とカツミはそう言って顔を見合わせてしまう。
「ごめんね、レアっち。ワタリが酷いこと言って」
しばらくして、ワタリへのお説教が終わると、フレアがこちらへ向き直り謝罪する。
「ううん、大丈夫よ。そんなに気にしてないし」
『どちらかと言えば、校外学習の時にあなたに言われた言葉の方が傷付いたし』と言う言葉を、心の中に飲み込みながら私は彼女の謝罪を受け入れる。
「それにしても意外ね。フレアのお姉さんらしいところ初めて見た気がするわ」
「んー?そうかなー」
私達がやり取りしてる間、ワタリはムスっとした表情で何かを呟いてるようだったけど、正直なところタイガが居るこの状況で、今の話を蒸し返されたくは無いので、私はそう話を流していく。
「それで、アルトが気にしてないなら、その例の先輩の所へ行くのかい?」
私達の話が一段落付いたのを確認すると、途中から黙って様子を見ていたタイガが私に声を掛ける。
「そうね。一応Aクラスになったって事も報告したいし」
「隣の棟に行くんだっけ?」
「そうね。約束はしてないんだけど、スイネグ先輩の事だし、研究室に居ると思うから」
咄嗟に出た言い訳ではあったけど、元々近いうちには顔を出そうと思っていたので、私はこの際だからタイガの事も先輩に紹介しようかと思っていた。
そうして、自分の荷物を纏めたところで出発しようとすると、フレアから『ねぇ…』と、遠慮がちに話し掛けられる。
「どうしたの?」
「あのさ、何て言うか…さっきの事があって凄くお願いしづらいんだけど、今から向かうところに、ワタリも一緒に連れて行って貰えないかな?」
「それはっ」
まぁ、なんとなく予想が付いた話ではあったのだけど、それを聞いてタイガが何か言おうとしたので、私はそれを片手で制して『良いよ』と、返す。
タイガはその返事に、一瞬嫌そうな顔をしたけれども、私の性格を知っているからか、それを撤回させるような事は言ってこない。
「それじゃあ、案内するわね」
こうして、他の2人が納得しているかはともかく、私の先導でスイネグ先輩の研究室へ、珍しい組み合わせの3人で向かうことになるのだった。
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