そんな俺でも武勇伝
でもそんな俺にも 1度ぐらいいいことをしたことがあった。 中学生の時だったか
「髪を切ってきなさい」
と母親から5000円もらった それで 当時 ドロップと言われる 自転車で、2kメートル ぐらいあるところにできた その床屋が2000円で切れるということを知ったから。自転車でその店に行って威勢よく
「髪切ってきたよ 母ちゃん」
といって1000円渡した。
母ちゃんは床屋代は4000円だと思ってるから。1000円のおつりだけどその床屋に行けば 2000円で切れる自分の小遣いになる そう思ったのだ。
2000円 浮いた 2000円持って 商店に行った 商店 っていうのは 酒が置いてあったり食品が置いてあったり 駄菓子が置いてあったり 今みたいにコンビニ やなんかがないから 駄菓子のあんこ玉が食べたくて。
あとは 古本屋で漫画を買いたかった 定価 360円とかの時代だったから中古だったら200円以下で買えるはずだった
あと ゲームソフトの中古店で ファミコンソフトが欲しかった 中古だったらもしかしたら 2000 あれば 2本 もしかしたら3本買えるかもしれない シューティングゲームかアクションゲーム それと 野球ゲームいや、 話題のロールプレイングゲームの旧作も欲しかった
商店行ったら 商店のちょっと手前の十字路にある 商店 専用の駐車場あたりで女の子が高校生くらいの3人の不良に絡まれていた
年の頃は俺と同じ中学校生だろうか 見たことないから他校だと思う
ポニーテールのよく似合う清楚な感じの女の子だった 美人かブスかと言われれば美人 当時 よく使った言葉 マドンナがよく似合う子だった
「やめてください」
「何を今更」
「······いけないの」
「可愛いこと言ってんじゃないよ」
「······ いけないんだから」
(かわいそうに 萎縮して言葉が 思うように出ないようだ)
俺はその状況を見て思う 助けてあげたい
「先生にいいつけてやるんだから」
「やれるもんならやってみな」
「だからやめてよ」
「いいね そそるね」
「やめて」
「いいから来なよ」
「私······」
「照れちゃって可愛い」
「これから行かなきゃいけないところがあるんです」
「お兄ちゃんが色々教えてあげる」
「だから離してください」
「スカートの下は何色かな」
男の手がスカートの裾に伸び、
「やめて」
3人いた不良のうちの男の1人が女の子の手首を握っていた。場所移動してよからぬ場所に連れて行かれるのではないか 女の子がかわいそうだと思った だから俺は叫んだ
「警察が来たぞ」
もう1回 今度 大きな声で、
「警察が来たぞ」
2回連呼した 大声で その声を聞いて不良たちは慌てふためき 女の子 の つかんでいた手を ほどいて そのまま一目散に走り去った
俺は勢い余って すっ転んで 地面に地べたをついた その時足の膝に 痛みが走った 擦りむいたらしい 夏だったからハーフパンツ だった 意外に痛かった
女の子は声のする方向を見て俺の存在に気づく。目があった。 改めて可愛いと思った。 クリッとした大きな 瞳だった。
「助けてくださってありがとう」
女の子は懐からハンカチを取り出した 可愛いハンカチだった レモンの刺繍が 4隅の右端にだけついていた 白地の 周りが 花びらのような形に縁取られた特徴的な ハンカチだった
「これで拭いてください 怪我してますから」
「ありがとう」
素直に受け取った と同時に女の子が名前を名乗った
「八繋木杏南と言います。あなたは?」
「如木月京太郎」
お返しに 俺も 名前を名乗った
「早く行きなよ」
俺は言った 緊張していた この場から立ち去りたかった それもあった
「どうもありがとう」
そう言って女の子は足早に去って行った
「あ!」
その後ろ姿を見送りながらハンカチを 返していないことに気づいた どうしよう?!
38年間の人生の中で あんなにいいことをしたのは最初で最後かもしれない それぐらい 誇れる出来事であった。