ぬくもりを追って。
ーーいつだって、背中合わせだったのです。
わたしの背中には、あなたの背中の温もりがあったのです。
それがなくなったことに気づいたのは、あなたがいなくなってから随分とたった頃でした。
「わたしの夢はなあに?」
ってわたしがあなたに聞いてみれば。
「わたしの夢は××よ。」
って返って来ていたから安心しきっていました。
「わたしの願いはなあに?」
ってわたしがあなたに聞いてみれば。
「わたしの夢は××よ。」
って返って来るから、楽だったんだと思います。
あなたがいなくなってしまってから、わたしはそれらがわからないのです。
川の向こうに、わたしのたくさんをあなたに預けたままわたしだけが帰ってきてしまったのです。
「探しに行こう、どこまでも。」
星が散りばめられた空でした。
きっと人は「きれい」って言うんだと思います。
だけどわたしにはわかりません。
あなたなら、わかったのかなぁ。
波の音が響く海でした。
きっと人は「すてき」って言うんだと思います。
だけどわたしにはわかりません。
あなたなら、教えてくれたのに。
そこはひどくくらい場所でした。
水の流れる音だけはわかります。
どんなに探しても、あなたはみつかりませんでした。
なんだかさむくなって、こわくなって。
わたしはまるで、水のそこに沈んでいったような感覚でした。
...その感覚には、覚えがあったのです。
自分から手をはなして、また見つけようとするなんて。
なんて強欲で、傲慢で、自分勝手な話でしょう。
伸ばした手はどこにも届かない。
叫んだ声は、泡となって消えていく。
夢でも見れば、また会えるかなあ、なんて。
目を閉じたわたしはあの温もりに包まれました。
「待って!」
懐かしいあの声が、背中越しに聞こえます。
「わたしを待ってる人がいる。」
そんな事を言われても、心当たりなんてありません。
...むしろ、なにもわたしにはありません。
「行こう、暖かい場所へ。」
あなたがわたしを抱きしめて、上へ上へと連れていきます。
冷たくて苦しい水はどこかへ行ってしまいました。
「もう、わたしを探さなくていいんだよ。」
そう言われても、わたしじゃわたしがわからないのです。
「大丈夫、ちゃんとまわりをみてごらん。」
あたりは暗闇でなにも見えません。
見えなかった、はずでした。
気が付けば、私は白い場所で横になっていました。
線が巻きついて動きにくいですが、さっきまでの水の中よりはずっと身体は軽いです。
それに背中は誰もいないけれどとても暖かく、なぜだかわからないけれど、とてもやさしい気持ちになりました。
「おかえり。」
泣きながら笑ったその人に、私は探し物は見つかったんだと思いました。
「ただいま。」
これからは私自身で気づかなくちゃいけないけれど。
わからない事も、たくさんあるけれど。
見つけられるように、笑ってみようと思ったのです。
探し物はたくさんあってわからなくなるけれど。
それでも大切なものは、案外傍にあるものですね。