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Facebook

作者: 三笠佳

先日、行きつけの店で酒を飲んだ。

行きつけの店なんて言う方をすると、いかにも通な感じがして妙に自惚れた気持ちになる。


だけど実際は、10回も訪ねたことは無い。そもそも足を運ぶようになったきっかけは恋人の知人が切り盛りしている店だから、という理由だ。たぶん私そのものは店主に顔さえ覚えられていないような気がする。

そんなグレーゾーンの「行きつけの店」には何店か心当たりがある。

恋人には飲食店を営む友人知人が多い。恋人自身、自営業で飲食業界に携わっているからだ。


さて、その店で食事をしている最中、店員から「Facebookに写真を上げても大丈夫ですか?」と尋ねられた。客の写真をSNSに投稿する理由は、恐らくコロナ禍を乗り切り営業を再開しているという宣伝のためだろう。「いいですよ」と返事をすると店員はスマホのレンズをこちらへ向けた。


写真を撮られると、ついその画像を確認したくなるものだ。とはいえその場で写真を確認するのも店員の手を煩わせるので、投稿された画像を確認すれば良いと思った。

しかし私はFacebookのアカウントは持っていない。


酔った勢いもあり、さっそくFacebookに登録した。普段からプライベートの連絡先を職場の同僚にも教えない自分としては、随分大胆な行動だった。


連絡先を教えない理由は一人の時間や親しい人間との時間に何かが割り込んでくることが大嫌いだからだ。

内向的で排他的な性格のくせに、処世術として他人と陽気に話す代償で、「楽しい奴」という誤解を招く。そのため仕事終わりに飲みや遊びに誘われることが多い。連絡先を教えれば勤務時間外の連絡が増える可能性もある。それが嫌だった。


Facebookのアカウントに基本情報などを登録すると、どういう仕組みか知らないけれど「友人かもしれない」リストに人の名前がずらりと並ぶ。

恋人が店主と話し込んでいる暇に、何人か高校の同級生の名前を見つけて友達申請をした。とはいえその友人達はもともと数少ない連絡先を交換している知り合いだ。わざわざFacebookでの繋がりは必要ないのだけれど。


ところでFacebookは最近あまり流行っていないらしい。何人か見つけた知人の投稿を見ると、どれも直近の投稿が数年前、というものばかりだ。近況を知るにはあまりに古い情報に思った。


一通り「友人かもしれない」リストを見終わった後にふと、ある考えが浮かんだ。

同時に中学生の頃に好きだった女の子の名前を検索していた。

中学生時代、ケータイを持っていなかった私は当然、彼女の連絡先など知らないし、卒業後の足取りも知らない。

人伝に聞くこともない。中学時代の知り合いの連絡先は持っていないからだ。


今、何をしているのだろう、そんなことを考えたのか。

どんな美人になっているのだろう、そんなことを考えたのか。

どうしても知りたくなった。自分は一体何を期待したのか。

衝動で検索した名前は見つかった。珍しい名前だったのでその人物で間違いなさそうだった。


プロフィール画像は、ぬいぐるみの写真だった。

それだけで、顔は見れなかった。

もう十分なはずなのに、覗き見の後ろめたさを感じながらプロフィールに目を通した。これもほとんど何も書かれていなかった。

ほんの一瞬、逆上せた頭はすぐに冷えた。


もうあの子のことを少しでも知る術は無い。

ほんの少しの心残りを辛口の酒と一緒に飲み込んだ。


「ねえ」


カウンターで横並びに座る恋人の声に気づいて、笑顔で顔を上げた。

SNSを抜け出して、日常の中に戻っていった。


しばらく文章を書いておらず、リハビリも兼ねて。

これだけの分量に1時間以上かかりました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 私小説はその人の私生活を覗き見ることができるようで、読んでいて面白いです。ちょっとした日常の話は好きなので、また読めると嬉しいです。
2020/06/23 20:19 退会済み
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