5.幼少期 立志編5
「さて、何か質問はありますか?」
どうしよう。
せっかくだから質問しておこうか。
なんかここの神殿ってお金にがめつそうだからな。
後日の質問は絶対料金取られるし。
「わたくししつもんしたいですわ」
「サネイサ・ロドー、私に答えられるコトならば」
幼女サネイサはたちあがって質問した。
なんというか、立ち振る舞いがしっかりしてるな。
「わたくしが得た『(職業スキル)上級商人、オプション:経営』をどのようにそだてていったり、かつようしていくのがよいとおもいますか。あと、後天スキルでおすすめをおしえてほしいですわ」
「サネイサ・ロドー、上級商人に必要な勉学と実地に励むのがよいでしょう。スキルが無いものより成長が早く、成長限界も遠いでしょう。努力を怠らなければ、大商人にもなれるでしょう。『オプション:経営』があるので、経営に向いています。その方向に進むのが良いでしょう。後天性スキルは魔術または武術のいずれかが私のオススメです。商人もいざというとき自分の身を少しは守れた方が、助けが来るまでに時間が稼げます」
では、次質問しよう――
「ボクもしつもんしたい!」
――ぐぬぬ……天使ボイス男子め。
「ジョアン・モゾー、私に答えられるコトならば」
「ボクのスキルでしょうらい、剣士か勇者になれますか?」
さっきも聞いたような気がするけど、天使ボイス男子は剣士か勇者に憧れているらしい。
「ジョアン・モゾー、不可能とは言いません。あなたと同じように、先天性スキルに恵まれなかったにもかかわらずその道に進んでいる先達は多いです。先ほどのサネイサ・ロドーにも話しましたが、商人もいざというときには身を守る必要があるので、後天性スキルは魔術または武術のいずれかを取得するのがオススメです」
「ただし後天性で得たスキルと先天性スキルのソレ(性能)は天と地ほど違うと言われていますのでそこは気をつけてください。あまり多くを望みすぎないように」
「剣士やその他の武の先天性スキルを持った方達は、私たち武の先天性スキルに恵まれなかった一般人からすると”バケモノ”ですからね」
天使ボイス男子はすっかり下を向いている。
ちょっと可哀想。
神官メランダの声のトーンが少しやさしくなった。
「ジョアン・モゾーに与えられた『(職業スキル)中級商人』もなかなかのものですよ。支店長クラスの技能の習得に優れているといわれている職業スキルです。サネイサの『(職業スキル)上級商人』とどちらが優れているというワケでは無く、あくまで役割の違いがあると言われています。めげずに頑張ってください。また武の後天性スキルの習得に励むのもきっとムダにならないでしょうからどちらも努力するといいでしょう」
神官メランダの熱くて難しいトークが終わった。
5さい児相手のトークとは思えない。
しかし、この2人(サネイサと天使ボイス)は理解しているように思える。
恐ろしい5さい児共だ。
「はい! ぼくもしつもんしたいです!」
やっと手をあげれた。
「ノンの村のロアン、私に答えられるコトならば」
やっと出番だ。
幼女サネイサを真似て、立ち上がって質問する。
「ぼくのスキル『(職業スキル)荷物持ち(迷宮)』について、分かっていることをおしえてください」
「迷宮については、どんな事を知っていますか?」
「まったく何もしりません、はじめてききました」
「そうですね……ではまず、迷宮の説明から必要ですね。長い話になるかもしれないので、座って聞いてください」
神官メランダが語り始めた。
となりの天使ボイス男子が前のめりになっているのを見て、少々微笑ましい気持ちになった。
「まず、この世界には迷宮という存在があり、時に新たに発生し、時に消えていきます」
「迷宮を専門に研究している学者・研究者も多くいて、その研究者達によると、迷宮の正体についてはよく分かっていないというのが正直なところのようです」
「迷宮は魔物とアイテムを生み出します。すなわち、プラスとマイナスの両面を持っています」
「魔物を減らさないと迷宮の周りに溢れ、簡単に周りの村や町、国までも滅ぼします」
「未開の奥地であればそれほど危害はないですが、多くが人のいる街の近くに出現します」
「時には大都市の中心に出現する事さえもあります」
「自然と迷宮の周りには、魔物を駆除するための冒険者の街ができあがります」
「また、冒険者達は積極的に迷宮の中に入ります。迷宮の中ならアイテムも見つかりますから」
「迷宮で見つかるのは高品質だったり、希少だったりと高価なものが多いです。人の手では生み出せない”伝説級””神話級”のアイテムを手にした冒険者は、3代を遊んでくらせるとも言われています。」
「迷宮が生み出すアイテム以外にも、魔物を倒したときに得られる”魔石”という魔力の塊の石があります。また、希に魔物を倒したときにも”ドロップ”と言われるアイテムが出現する場合もあります」
「この迷宮産のアイテムを取引するため、迷宮の周りには自然と商人達も集まります」
「そして、自然と大きな街、国となっていきます」
「この街”ファース”も迷宮の周りに後から出来た街なのですよ」
おおう、そうなんですね。
なかなか興味深い話だ。
しかし、迷宮は魔物が出るのか。
やはり、危険な場所のようだ……。
魔物といえば父ユアンの敵ではあるが、別に敵を撃ちたいとかないし、今回の人生は楽しく有意義に、そして安全に過ごしたい。
どんなに高価なアイテムがゲットできるとしても、そんな危なそうな場所に近づきたくねー!
んでもって、そんな危険な場所限定そうなスキルいらねー!!
神官メランダが話す迷宮についての説明を聞く間に、なんというか、気持ちが落ちていく。
天使ボイス君、そんなに目をキラキラさせないで。
君のスキルと交換して欲しいよ。
「そして肝心のあなたのスキル『(職業スキル)荷物持ち(迷宮)』の特徴ですが――」
はいはい。
あまり期待はしていないよ。
「迷宮内において、"荷物持ち"という、その名前通りに荷物を持ち運ぶ役割の職業があります。迷宮を探索する際には、水、食料、回復ポーション、その他道具が必要ですが、それらを持ったまま魔物と戦闘するのは困難です」
「『(職業スキル)荷物持ち(迷宮)』のスキルがあると、迷宮内で荷物を持つ時にスキルの効果で、多くの荷物が持てるようになります」
「"(迷宮)"がついているので、スキルの効果は迷宮内に限定されるということです」
「迷宮関係の戦闘職以外の職業スキルとしては荷物持ちの他に罠師、地図師、料理人などがあります――」
「――すみません!」
「何でしょう、ノンの村のロアン」
「ぼくはめいきゅうには行かないのですが、その場合、このスキルは役に立ちますか?」
神官メランダは少し哀しそうな顔をした。
「役に立たない……と思います。この職業スキルは迷宮内だけで効果を発揮するスキルと言われています。ただし、スキルを成長させて上級職スキルに"転職"することで、"(迷宮)"が取れて、迷宮の外でも効果を発揮するようになったという話を聞いた事があります」
なるほど、転職というシステムがあるのか……。
「その転職というのは『(職業スキル)荷物持ち(迷宮)』をそだてるしかないのですか?」
「そのとおりです。スキルを育てた後でまた神殿に来て、神官に見てもらう事で、転職することが可能です」
「『(職業スキル)荷物持ち(迷宮)』をそだてるにはどうしたらよいですか?」
「『(職業スキル)荷物持ち(迷宮)』が育つ行動をすると成長します。迷宮内で荷物持ちをする事。他には確かではないですが、迷宮内で魔物を倒すと成長が早くなるという噂があります」
迷宮行かないと成長しない……ほぼ、詰みだな、これは。
「ぼくはさきほども言ったとおり、生活が楽になるような、本屋とか、何か商売するのに向いた職業スキルがほしいのです。後天スキルとしてロドーさんやモゾーさんのような商人スキルを得るためにはどうしたらよいですか?」
ここで、なぜか両脇の二人がこっちをにらんだようだった。
んん? なんだい、君たち。
やっぱり、商人になりたい発言がまずかったのかな(汗)。
既得権益を侵害しようとしてると判断されたか……。
しかし、こっちは追い詰められてるんだ。
こちとら人生が掛かってるんだよー!
――神官メランダはちょっと考えるポーズをして言った。
「何れかの商会に所属して見習い商人として働くのがいいでしょう。後天スキルが生まれるかどうかは努力と運次第ですが、商人スキル以外にも計算スキルや商談スキルなど生まれれば、商会から重宝されると思いますよ」
「そして、商人スキルが生まれたとしても、先天スキル『(職業スキル)商人』持ちの人とはスキルの力が違うので、そこは調子に乗らずに謙虚にしていくとよいでしょう」
なるほど、見習い商人ですか。
ちょっと希望がでてきた。
前世では一応サラリーマンしてたしね。
底辺の方のおちこぼれサラリーマンだったと思うけども。
「……よくわかりました。ありがとうございます」
「もう質問はないですか? それでは、本日の判定の儀は終わりとします」
神官メランダが終わりを告げた。
後ろの親たちが立ち上がる気配をみせたので、ぼくも帰ろうと立ち上がろうとすると、左の天使ボイスが小突いてきて小声で「話がある」とにらんできた。
そして、右側からも幼女サネイサが詰めてきた。
「あちらでおはなししますわよ」
が、眼力女子。
こえー。