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4.幼少期 立志編4

 他の2組も子ども1人に親1人の組み合わせだった。

 ぼくの左隣に1人、しばらくしてもう1人は通路を挟んだ右側に座った。

 かなり厳かな雰囲気なので話しかけられないが、興味を抑えられず横目で盗み見る。


 左隣のお隣さんは一目みて、身なりがそこそこ良い、同世代(5さい)の男の子だった。

 おそらく町民の出身のお子さんだろう。

 向こうもこっちを見ていたらしく目があった。

 すると、こっちにむかって「ニコッ」と天使の微笑みを見せてきた。

 こいつはあぶない! あやうく何かに目覚めるところだった。


 右側の方を見ると、身なりがとてつもなく良い、同世代(5さい)の女の子だった。

 ドレスといってもよい服をつけている。

 顔は見えないが、とてつもなく美人の雰囲気がただよっている。

 おそらく町民の金持ち商人の娘さんか、それ以上のお家のお姫さんかもしれない。

 どうやら、この世界も前世に負けず劣らず、格差世界なのかもしれない。


 ま、どちらも5さいなのは確実なんだけど。

 しかも、今日が誕生日のはず。

 ぼくは昨日だけど。


 母ロシュと他のふたりの付き添いは、後ろ方に気配を感じる。

 付き添いのみなさんはそれぞれ離れて座っているようだ。


 3名がそろうまで目の前に居たはずの神官さんがいつのまにかいなくなっていた。

 どこに行ったのかな……?

 と考えていると、左側の男の子が話しかけてきた。


「ボクはジョアン。商人の子。きみは?」

「……ロアン。ただの子ども」

「ただの子ども? 初めて聞いた!(笑)」


 おおう、なんか失礼なガキだな。

 さっそくジョアンとやらがしょっぱなの自己紹介からマウンティング(相手の上に立とうとする行為)してきて驚いた。

 天使かと思ったが、天使の皮を被った糞ガキでしたか(白目)。

 ただしジョアンとやら、教育レベルは近所の子どもたちとは段違いな予感だ。


「ボクと名前似てるね」とジョアン。


 しかし、声は天使ボイス。

 くっ……!!

 共通点を言ってくるのは、コミュニケーション学的には親しくなりたいという無意識のサインだったっけ?



「……そうかな」

「どうして、今日なの?」

「……どうしてって?」

「ボクは昨日、”お熱”がでちゃってさ。キミのワケは?」


 身なりはいいとこのっぽいけど、”お熱”ね。

 年相応の可愛いとこあるじゃん。

 ぷふっ。


「あ、笑ったな! 何がおかしい――」


 ジョアンが顔を真っ赤にして何かを言いかけたところに、神官さんが戻ってきた。


「はい、お待たせしました。神殿では静かにするように」



 神官さんは色々と説明をしてくれた。

 説明を箇条書きすると、こんな感じだ。

(括弧の中はぼくの注釈です。)


 ・この神殿の神様は一般庶民神の一柱、トルアキ神。

 ・トルアキ神は「中庸、凡庸」の神とされる。

 ・「中庸」は過ぎたるは及ばざるがごとしの精神の神。「凡庸」は取り柄のない人々にとっての神。――という2つ役割を司っている神である。

 ・トルアキ神の神殿では、最初のスキル判定は3銀貨のお布施をいただきます。


(ここで各々の付き添いから3枚の銀貨を回収。)


 ・神官さんの名前はメランダ。

 ・これからスキルについての説明行う。

 ・5さいになったばかりの皆さんには難しい説明かもしれないが聞いて欲しい。

 ・1度聞いたきりだと覚えられないと思うので、いつでも話を聞きに来て良い。

 ・話だけならお布施は銀貨1枚、スキルを視て欲しいなら銀貨は5枚ですよ。

 ・他の神殿も同じくらいか、上級神の神殿ならもっと高いかもしれません。


(5さいにして、何か詐欺師の話を聞いているような気持ちになった……。)


 ・今日は初めてスキルを視ますが、初回は”国の義務”なので、銀貨3枚とお安くなっている。


(実質、銀貨4枚だけども。この人は知っているのだろうか。)


 ・世の中には最初の銀貨3枚を払えず義務を果たせない方々もいる中、あなたたちは恵まれている。


(そうだね。母ロシュがんばった。)


 ・ここからは、スキルについての説明です。

 ・人は何かしらスキル適正を持っているもの。

 ・ただし、ごくまれに「スキル適性なし」の人もいる。


(なんか、スキル適性なしのフラグが立ったような気がした……気のせいか。やめてくれよ)


 ・スキルは「職業スキル」とそれ以外の「技能スキル」に分けて分類されている。

 ・「職業スキル」と「技能スキル」の違いは明確では無い。

 ・「職業スキル」は職業っぽい名称だからではないかと噂されている。

 ・ごくまれに、「意味不明」なスキルがあり、何の役に立つのかわからないまま一生を終える人もいる。


(そんなひどい……)


 ・スキル適正があるスキルを先天スキルまたは先天性スキルと呼ぶ。

 ・先天スキルはほとんどの人が1つ持って生まれてくる。

 ・ごく稀に先天スキルを持たずに生まれてくる人がいる。

 ・ごく稀に先天スキルを複数持って生まれてくる人がいる。

 ・先天スキルが無くとも、努力次第で後天的にスキルを持つこともある。


 ・後天的に得るスキルを後天スキルまたは後天性スキルと呼ぶ。

 ・後天性スキルを得た場合でも、神殿のスキル判定で判明する。

 ・後天性スキルの場合にはスキル適正がある訳では無いので、成長度は低い。

 ・後天性スキルは、スキル適性外の事を仕事にしたり、修行したり、経験したりすると発現しやすいといわれている。


(このあたりで、左側から「スヤスヤ……」と寝息が聞こえてきた)


 ・スキルは神殿で見てもらう以外にも、ギルド証でも確認できる。

 ・ギルド証は冒険者ギルドや商人ギルドなどの、各ギルドに所属するともらえる。

 ・スキル適正が無い道を進む人はかなり少ない。

 ・なぜなら、スキル適正がない場合には、レベルの上限が5と言われているから。


 ・スキル適正がある場合にはレベルの上限が40~50と言われている。

 ・戦闘職の人はスキルレベルが上がりやすい傾向があり、まれに「転職」が可能となる。

 ・転職するケースはレアなので、今回は説明は省略します。


(右側をチラ見すると、こっちはちゃんとおきて話を聞いているようだった)


 ・スキル判定は5さいより前は分からない事がほとんど。

 ・逆に、5さいより後にスキル適正が変わる事はほとんどない。


(三つ子の魂、いや五つ子のスキル百までって事かな)


 ・まれに生まれながらや、お腹の中にいる間にスキル判定が出ることがある。

 ・このケースは王族などに多い。

 ・このケースがある為、王族は生まれる前や生まれた直後にスキル判定を行う場合がある。


(王族の説明までする必要があるのだろうか)


 ・この後、実際にスキル判定を行います。

 ・スキル判定の前に、簡単に私から、どんなスキルが欲しいか質問します。


(ここでやっと、左側のジョアンが「ピク……」と起きた反応をした)


「なぜなら、授かったスキルに対して、おめでとうなのか、残念なのか、どういう顔をしたらよいのかの判断材料になるから。」


「それでは、どなたからスキル判定を行いますか?」



 ◆ ◇ ◆



「それでは、どなたからスキル判定を行いますか?」


 神官メランダが呼びかける。

 ぼくは、典型的日本人考え方で、何事も最初と最後は避けたい。

 という訳で、2番目に手をあげよう。


「わたくしからお願いしたいですわ」


 右隣の女の子が手をあげた。

 5さいらしい、可愛いらしい高い声と、5さいと思えないほどしっかりした口調だった。


「サネイサ・ロドー、ではこちらへ」


 神官メランダの横に少女――いや、幼女サネイサが立った。

 これからどんな事が起こるのか、少々ワクワクだ。


「サネイサ・ロドーはどのようなスキルを望みますか?」

「わたくしは、商人の生まれですので商人系のスキルを希望しますわ」

「その願いが叶うとよいですね」


 神官メランダが右手をサネイサの額の前に構えた。


「では。”XXX XXX XXX”」


 おおーすげー。

 神官メランダが小声で何かをとなえると、右手が一瞬青白い光を放った。

 すぐに光はおさまって……。


「願いが叶ったようですね。おめでとうございます。サネイサ・ロドーに『(職業スキル)上級商人、オプション:経営』を確認しました」


「!! ありがとうですわ」


 幼女サネイサは小さく右手でガッツポーズのようなこぶしを作りながら、神官メランダに一礼して、戻ってきた。

 希望通りのスキルだったようだ。

 このサネイサって女の子、5さいよりぜんぜん大人びてしっかりしている印象ですね。


「次のスキル判定はどちらから行いますか?」

「ぼく……」「はい! つぎはボクからお願いします!」

「ジョアン・モゾー、こちらへ」


 ぼくも手をあげたけど、左の天使ボイス男子ジョアンの勢いに負けてしまった。

 トリは注目を浴びるような気がして苦手なんだよな……。


「ジョアン・モゾーはどのようなスキルを望みますか?」

「ボクも商人の生まれだけど、できたら剣士か勇者のスキルが欲しいです」

「ふふ。その願いが叶う事を祈りましょう」


 神官メランダが天使(ボイス男子)ジョアンに手をかざす。


「”XXX XXX XXX”」


「残念ですが、お望みのスキルではなかったようですね。でも良いスキルだと思いますよ。ジョアン・モゾーに『(職業スキル)中級商人、オプション:算術』を確認しました」

「!? ……ありがとうございます」


 天使ジョアンは希望のスキルが得られなかったようだ。

 天使の笑顔を曇らせて戻ってきた。


 最後はやっとぼくの番だ。


「ノンの村のロアン、こちらへ」


 おっと、自分だけがただの村人なのがバレて、なぜか羞恥心がわき起こりそうになる。

 他の2人は街の人、しかも名字持ちでしたからね。

 でも、冷静に前世で大人だった自分の考えでは何も恥じる事はないと、羞恥心を抑え込む。


「ノンの村のロアンはどのようなスキルを望みますか?」


 さて、ぼくはどんなスキルが欲しいだろうか。

 そして、ここで自らの望みを明かす事に意味があるのだろうか。

 まったく意味が無い可能性もある。


 でも、ここで願いを言う事に意味が無いとも言い切れない。

 この世界の仕組みはわからないが、裏に神のような存在がいて神に願いを伝える仕組みだったり……という事があったりなかったり。


 今、欲しいと思ったスキルは”商人”だ。

 理由は先の2人の家がおそらく商人であり、その結果が身なりに漂う裕福感である。

 正直うらやましいが、ここで正直過ぎる願いを口にすることは、ここに居る将来の商人2人+その親2人に変に目をつけられてしまいかねない。

 それは避けるべきだろう。


 他にも、商人なら現在の生活よりも本を読む生活に近づくのでは無いだろうかと考えた。

 そうだ、商人になった後は本を取り扱う商人になろう。

 ここは神様とやらの前で、うまく願いをぼかして伝えてみましょう。


「ぼくは生活が楽になるような、本屋とか、何か商売するのに向いた職業スキルが欲しいです」


 これで、どうだ……!

 うまくぼかせたのではないだろうか。

 まあ、神には願いが届いていない可能性が高いとおもうけど。

 神がもし存在していたとしても、人間ひとりひとりに構って居る暇はないのではないか、とぼくは常日頃前世で考えていたものだ。


「地に足がついた良い願いですね。その願いが叶う事を祈ります」


 おっと、その時がきた。

 神官メランダが手をかざす。


「”XXX XXX インフォ”」


 最後が”インフォ”なのだけは聞き取れた。

 ちょっと前世の英語に似てる?



「願いが叶ったかどうか微妙なところですが……あなたの役に立つといいですね。ノンの村のロアンに『(職業スキル)荷物持ち(迷宮)』を確認しました」

「?? ありがとうございます」


 なに、それおいしいの?

 なんとも言えない微妙なスキルに聞こえる。


 迷宮とな……?

 荷物持ち……?

 何それ?

 な、なんかハズレくさい――。


 と気持ちも微妙になりながらも、とりあえずのお礼の言葉だけは忘れずに述べて、自分の席にもどる。


「さて、私で答えられることなら答えますよ。質問があればどうぞ」



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