3.幼少期 立志編3
果たして、スネイが置いた場所は――。
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「さあ、ロアンのばんですよ」
スネイに小枝を渡される。
さて、どこにしようかな。
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「どうぞ」
スネイはちょっと考えて。
「おきましたよ」
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ふむ……。
「この、”あと1つそろったら勝ちの状態”の事を”リーチ”と言うよ。もちろんぼくは防御する、っとぼくもリーチだ」
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「!! ぼうぎょして、あ、またリーチです」
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「また防御、っと。またリーチ」
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「…………あっ!?」
「スネー、どうしたんだ?」ジョシュ
「このままでは負けてしまいます」
「えっ? つまりどういうこと?」ミルル
「リーチが2こあるんですよ――」
そんなに深く考えて打っていた訳ではなかったけど、うまく決まってしまったな。
スネイの自滅だけど。
しかし、スネイは自分で詰みの状況に気づけるとは、頭の回転は悪くないかもしれんね。
「これはいったいどうすれば……」
「どういう状況か分かる?」
「こっちとそっちの2つがそろいそうです」
「そう。この状態の事を”ダブルリーチ”とよびます。どちらを防御してももう一方がそろっちゃうから、どうやってもぼくの勝ち。だからスネイが負け」
「こうなったら、”参りました”と言って、おとなしく降参してください」
「くぅー……”マイリマシタ”。くそー、くやしい!」
「イガイとおもしろそうだな。スネー、こんどはオレとやろう!」
「いいですよ! こんどは負けませんよ!」
これでマルバツが村の子どもに流行って、しばらくは村が平和になるといいんだけど。
「ロアン、そろそろ神殿に行く時間だよ~!」
母ロシュのお呼びがかかった。
神殿にGO!
◆ ◇ ◆
「ロアン、よそ見しないで、ちゃんと付いて来ているかい」
「うん、付いてきてるよー、お母さん」
母ロシュに付いて行くこと30分程。
想像以上にちゃんと街らしい街に来て、ぼくはしっかりとテンションが上がっていた。
よそ見しまくりである。
そんななか、ぼくは一つ発見をした。
「あ、お母さん、あれ何かな?」
「ん? あれは”酒場”だね。お酒を飲んだりご飯を食べるところだね」
「違うよ、あの、あそこにぶら下がっているのだよ」
「あれは”看板”だよ。絵と文字の組み合わせの説明だね」
マジか! 文明開化キタコレ!
「文字! やっぱり文字はあるんだ! お母さんも文字の読み書きができるの?」
「アタシは文字の読み書きなんて”学”は無いさ。でも看板があるから、生活には困ってないよ」
母ロシュは読み書きできないのか(哀)。
この世界、いや、この国の識字率はどれくらいなのか・・・。
唐突にこの瞬間、ぼくは前世の自分が本の虫だった事を思い出していた。
基本的に前世ではぼっちだったから、オレの友達は本とかマンガだったのだ(哀)。
「お母さん! ぼく読み書きを習いたいよ!」
「急にどうしたんだい。読み書きなんて貴族様か役人様か商人様以外には役に立たないよ」
「お母さん、ぼくその貴族様か役人様か商人様? に将来なるから、読み書きを習わして!」
「何バカな事をいうんだい。無理に決まっているだろう。それに、読み書き出来て何の役に立つんだい」
「お母さん、ぼく本が読めるようになりたいだ」
「本? ロアン、本なんて知っているのかい? というか、あんな文字だけ書いてあるの読んでどうするんだい。本なんか読んでも腹は膨れないよ」
母ロシュは読書の意味が理解できないのか(困惑)。
「それに本1冊分で、あたしら2人の何日分の食費だと思ってるんだい。少なくとも数年分はしたはずだよ」
さらに母ロシュの追い打ちが入ったところで、ふと蘇えった前世の記憶があった。
おそらく、前世のぼくは、このようなおねだりミッションを成功させたことが無い。
両親に何か欲しいものを買ってもらった記憶がない(ような気がする)のだ。
ぼくには親の説得スキルがほとんど無いのかもしれない。
今度の人生もあきらめるしか無いのか…………。
「いやだ、いやだ、いやだー! 本を読みたいよー!」
あれ?
気づいたら、地面に大の字に寝転がった状態で、手足をバタバタしていた。
「ロアン、こんな町中でみっともないだろう、やめな!」
「いやだー! お母さんが読み書き習わせてくれるって約束してくれるまでやめないー!」
一瞬、とてつもない恥ずかしさに負けそうになったが負けない。
今は無敵の5さいボーイ、ここはアピール時だろう。
「ロアン、神殿がしまっちゃうだろう? 今日行けなかったら、また明日になっちゃうけどいいのかい?」
母ロシュの鋭い一撃!
なかなかいいところ(弱点)を突いてきたな……。
じつは、けっこう神殿に行くのは楽しみにしてたりするのだ。
ぼくのだだっ子おねだりもここまでか…………。
「ロアン、いい加減にしな! 服が土ぼこり砂だらけになるじゃないか。この後、自分で洗う事になるんだよ」
母ロシュの痛恨の一撃!!
そういえば、自分の服はこの一着のみだった(たしか)。
これ以上は余計に自分の首を絞めるだけだ。
「また、神殿のあとでおねだりする事にする」
ぼくは、スックと立ち上がった。
いつの間にか、周りに出来ていたギャラリーの皆さん(3,4人)が、少し驚いた顔をしていた。
見世物じゃねーぞ!
「お母さん、先行くよ」
「ロアン、方向が違うよ、こっちだよ」
「解ってるよ! お母さんが知っているか試しただけさ」
ギャラリーの皆さんからクスクスと笑い声が起きたような気がするのは、きっと幻聴だろう…………。
◆ ◇ ◆
「さあロアン。神殿だよ」
「おお、ここが噂の…………」
目の前にはテレビとかで出てくるような石造りの建物があった。
(前世で海外どころか旅行なんてした事が無いので、あくまで想像。)
看板には家の様な記号が書かれている。
さらによく見ると、家の中には縦棒が等間隔で3本引かれていて、中央の縦棒だけ上向きの矢印になっている。
母ロシュは入り口らしき扉に近づくと、ノッカーのようなものをつかんで「ダン、ダン」と2度鳴らした。
そして、ノッカーのヨコの郵便受けに似た口を開き、中に向かって声をかけた。
「ノンの村のロアンです。”判定の儀”をお願いします」
しーん。
なんの返事も反ってこない。
それにも構わずに母ロシュがじっと待っているので、同じく待つこと2分くらい(?)、ようやくガチャガチャと音を立てた。
そして、ギシっと扉が開いた
中から顔を出したのは赤黒い髪と赤黒い髭を生やした30くらいのおっさんだった。
「判定にかかる銀貨3枚と予備の銀貨1枚はお持ちですか?」
「はい、ここに」
「では、私が確認しましょう」
母ロシュが銀貨4枚をおっさんに渡す。
おっさんは虫眼鏡のようなもので銀貨を調べ、その中の1枚を抜き取った。
母ロシュに銀貨3枚を返しながら、こう言った。
「この1枚は銀の質が悪いので、処分した方が良いですね。私の方で処分しておきましょう。処分料は無料で結構ですよ」
おいおい、このおっさん――。
しかし、母ロシュはおとなしく銀貨3枚を受け取った。
「ありがとうございます」
オレは空気を読んで黙っている事にした。
貧しいウチの家計で最初から1枚銀貨を余分に用意していたのいうのは、そういう決まり事が何かあるんだろう。
言い方は悪いが、チップのようなものなんだろう。
けして賄賂とか袖の下とか、そういうたぐいのものでは無いという事なんだろう。
そういう事なんだろう。
おっさん?
神殿の中に入った。
そんなに暗くなく、そんなに狭くない。
おっさんが「こちらです」と先導するので、おっさん、母ロシュ、おれの順で最後尾からついて行った。
正面の少しの段差を上ったところが、この神殿の中心なのかもしれない。
おそらく神様を象ったような像があった。
その像の前に、女性が1人いた。
「ようこそ、トルアキ神の殿へ。こちらにお座りになってもう少しお待ちください」
中心の通路の左側の1番前の席を案内されたので、そちらに飛びのるようにして、ちょこんと座った。
「お母様はその後ろの席にどうぞ。あと2人来る予定なので、少し待ってくださいね」
母ロシュは、ぼくの真後ろの席に座ったようだ。
この女性は神官さんなのだろうか。
前世でテレビとかでしか見た事のない、髪の毛を完全に隠すタイプの帽子のような布を被っている。
若くは無く、30代後半から40代半ばだろうか。
しばらくぼんやり待っていると、残りの2人もそろった。