2.幼少期 立志編2
先ほどの麦がゆは朝ご飯だった。
昨日の夕ご飯(?)を食べ損なっていたみたいだ。
だからやたらお腹が空いてたのかな。
1日過ぎていたのでぼくは5さいになっていて、前世の記憶を少しだけ思い出していた。
ただ、全部思い出したわけではなく、強く印象が残っている出来事や人物を思い出したような感じだ。
それよりも、体と脳みそが新車になった気分といえばよいだろうか。
頭が痛い以外はほんとうに生まれ変わった気分で、とても気分がよい。
体もよく動く気がする。
「ロアン、気分はどうだい?」
母ロシュが心配そうにしている。
頭を触ると布でがちがちに固められている。
「お母さんが手当したの?」
「お母さんが手当したよ」
「うーん、しっかり手当できてると思うよ」
「そうかい。それなら良かった」
「ロアン、ケガはだいじょうぶ?」「もうあそべるか?」「なかなかにあってますね」
家の入り口には近所の子ども達がきていた。。
うーんと、こいつらの名前は、ミルル、ジョシュ、スネイだったか?
「もう、ジョッシュとスネーとは遊ばせない、危ないから!」
ミルルが腰に手を当てて、舌っ足らずに怒っている。
なんだ、ぼくは念願の可愛い幼なじみを、異世界でゲットしてしまったらしい。
「これくらいでおこるなよ。ロアンは"男"なんだからこれくらいでへこたれんなよ」
ジョシュ……。
見るからにジャ○アンキャラだ。
前世では絶対に関わりたくない人物だ。
「ミルルちゃんの言う通りだね、石合戦にはもうロアン誘わないよ。違う危なくない遊びならいいでしょ?」
スネイ……。
こいつはスネ○とデキ○ギをスネ成分を多めに混ぜたようなやつくさいな。
ミルルに気があるのが見え見えで、ミルルの肩を持ちつつ、ジョシュにもさりげなく気を遣っている。
敵に回すとやっかいなタイプかな。
味方にしてもやっかいそうだ。
「ロアン、5さいの神殿参りは、朝は止めてお昼に行こうか。しばらくみんなと遊んでおいで。ジョシュ、スネイ、石合戦だけは絶対禁止だよ。分かったね。」
「「はい、おばさん!」」「ロシュさん、ワタシが見てるから大丈夫!」
(子どもたちが遊ぶ余裕はあるから、割りと発展している世界ではあるんだよね……)
考え事をしながらジョシュとスネイの背中をゆっくり追いかける。
ジョシュとスネイはだいぶ前を元気に走っている。
ミルルはぼくの斜め後ろから付いてきている。
向かっているのは村の外れにある子どもたちの遊び場の方である。
「ジョシュのダンナ、何してあそびましょうか」
「スネイ、そうだな、"石合戦"がダメってことは、"すもう"か"鬼ごっこ"くらいしかないな」
「すもうと鬼ごっこはロシュがケガしているから、まずいかもしれませんね」
スネイの言葉遣いは、何か丁寧だな。
いいとこの坊ちゃんなのかもしれないな。
少し考えをまとめていた。
この前の石合戦のような遊びを今後続けていたら、ぼくの死ぬ確率が高い。
もしくは大けがをまたしてしまうだろう。
ぼく以外の子どもも。
まずは、自分のすぐ近くから、小さな改善をしてみるのはどうだろう。
元、日本の底辺サラリーマンとして。
もう、後悔する事はしたくないから。
そう思って何か提案してみようと考えた。
何か思い付かないかな……。
そうだ、あの超簡単なゲームはこの世界にあるのだろうか。
「マルバツゲームって知ってる?」
◆ ◇ ◆
「まるばつげーむ?」
キョトンとする3人。
「おう、ロアン。ちゃんと分かるように"せつめい"しろ!」
どうやって説明したら伝わるかな……。
サラリーマン時代に、いきなり上司にプレゼン振られた経験よ、いま蘇れ!
ぼくは落ちている木の枝を探し、ちょうどよさげなやつを見つけたので、拾ってみる。
「お、それでたたかうのか?」
「あぶないあそびはダメだよ! おばさんにおこられちゃうよ!?」
ふむ、これでいいか……。
地面の土に、タテとヨコに2本ずつの棒線をクロスさせて書く。
「みなさん、まずはこちらの地面をごらんください。何が見えますか?」
「何だ、そのみょうなスネイみたいなしゃべり方は。――つち? すな? 小石? じめん――」ジョシュ
「ひっかいたあと!」ミルル
「何かの"きごう"でしょうか?」スネイ
スネイ、お前、頭いいかもしれないな!
ジョシュ、お前、……おまえ……。
「この! 4本の線が引かれているのが分かりますか? そして、この4本の線を引くことで、陣地が9ヵ所出来たのが分かりますか? この9ヵ所の陣地を取り合う陣取りゲームがマルバツゲームという遊びです」
「「「??」」」
「頭を使った戦略的遊びです。遊ぶ事をゲームといいます。1対1の2名で遊ぶゲームです。陣を取り合いますが、ただ取ればいいわけでは無く、縦か横かナナメに1列そろった方が勝ちです。たとえばこういう風です」
「「???」」「!!!」
「先に打つ方を"先手"又は"先手番"といい、後に打つ方を"後手"又は"後手番"といいます。先手の形をマルといい、こう描きます。後手の形をバツといい、こう描きます。先手が有利とされています。交互にそれぞれの形を書きます」
「????」「「!!!!」」
「こんな遊びなんだけど、やったことある?」
「いや知らない。おもしろいのか?」
まだこの世界にないのか、それともこの村に伝わってないだけか。
とりあえず、ミルル以外の二人は理解したかもしれないな。
さっそくやってみるか。
「スネイ、やってみますか?」
「うん、やりましょう。」
「先手と後手、どっちをやりますか?」
「"センテ"がゆうりなんでしょう? センテをいただきます。」
「では、お願いします。さいしょに、かならず向き合って、頭を下げます。こんな感じです。」
ぼくは対面のスネイにちょっと深めにお辞儀をした。
一礼に関しては、ちょっとしたぼくのイタズラ心である。
さっそくジョシュとスネイが質問してくる。
「それには何のいみがあるんだ?」
「どういういみがあるんですか?」
「質問は手を上げてするように――」
――ゴツッ! 痛い!
ジョシュの拳骨がぼくの頭に見舞われた。
なんて血の気の多い奴だよ……ケガしてる頭に。
少しふざけて調子にのり過ぎたか(汗)
「「ジョッシュ!! ロアン!?」」
「なんかむかついた。てかげんはしておいた。」
「う、ひどい…」
◆ ◇ ◆
「それで、そのあたま下げるやつはどういういみがあるんです? あと、手を上げるポーズもせつめいしてください。」
スネイ、フォローありがと。
おまい、いい奴だったんだな……。
挽回のチャンス、いただきました!
うまく説明できるかな。
「これは、この遊びを教えてくれた大人に聞いたんだけど、この遊びは誇り高い人、貴族や騎士の遊びなんだって」
「だから、勝っても負けても過度に喜びすぎたり、悔しがり過ぎてもいけないらしい」
「最初に頭を下げるやつは、戦う相手に礼儀を尽くして戦います、という事を意味するらしいです」
「だから、礼儀を意味する言葉の”レイ”という名前がついているんだって」
「手を上げるのも同じ意味で、しゃべっている人の話を止めるのは礼儀が足りない」
「だから手を上げて、今しゃべってる途中の人に発言の許可をもらうまではしゃべっちゃいけないんだって」
「この手を上げるのは”キョシュ”っていうんだよ」
礼の話はもちろん適当、ちょっとした遊び心だ。
身振り手振りを加えて、全力で、且つ体全体で伝えてみた。
どうだろう、自分的には上手くプレゼンできた方だとは思うが、相手につたわらないとまったく意味がない。
追加の説明が必要かな?
うん? なんかポカンとした顔で見られてる……?
「ロアン! ロアンがこんなにしゃべるのはじめてみた!」
「ロアン! むずしいことばかりしゃべって、やっぱりあたまを強くうちすぎたようだな?」
がーん、評価が単に”急に難しいことをいっぱいしゃべる人”になっている…。
「ロアン!? 今まで気づきませんでしたが、なかなかみどころがある”えいぎょう”ですね。父上に"しょうかい"してあげましょう!」
お、スネイ、お前こそ見所あるね。
このおれの存在に気づくとは。
すばらしい。
しかし、話が脱線しまくりなので、そろそろ話をすすめましょうかね。
「ではスネイ、最初の”イッテ”をお願いします。」
「”イッテ”?」
「陣地に石を置くことですよ」
「うん、そうか。じゃあ、おくよ。……うん、ここだ」
果たして、スネイが置いた場所は――。