11.幼少期 見習い編4
(前半からのつづき)
6の鐘(午後1時半)が鳴ったので、今日の労働はこれで終わり。
なんと1日4時間半勤務!
素晴らしい。
なんというホワイトな労働環境なんでしょう。
先輩ハレマに合図して上がらせてもらいます。
さっそくお手製の藁で編んだ塾用バックを背中に背負って、塾に向かう。
塾用バックからは木剣の握りが飛び出している。
塾はこの国の歴史だったり公務員(?)試験対策だったりといくつか種類があった。
もちろん、ぼくが通うことにしたのは『文字の書き方』と『数字と計算』の塾。
何事もまずは基本から……かな?。
塾に向かいながら、途中にある屋台通りの屋台に立ち寄るのが最近のぼくの流行り。
近頃は意識してお肉を食べるようにしている。
やっぱりたんぱく質を子供の頃から沢山食べておかないと、体が大きく成長出来ないと思ったんだ。
ぼくは目星をつけていた屋台2軒に立ち寄った。
「おじさん今日は何の肉? いくら?」
「水ウサギの肉だよ。1本、銅貨2枚(約200円)」
「2本ちょうだい」
「ロアン坊、焼きもろこしうめぇぞ! 銅貨3枚(約300円)!」
「ごめん、野菜はいいよ」
「おめぇバカだな、坊主は野菜嫌いは体に悪いって知らないのか!」
「おばさん、今日の肉は?」
「火ネズミの肉だね。2本で銅貨3枚(約300円)」
「じゃ、もらおっかな」
ぼくぐらいの最底辺の子どもが出せる金額ではない。
しかし、今のぼくは少しばかり小金持ちな状態だ。
(理由は後で書きます。)
お金を貯めるにしても、正直言って危ない。
銀行とかも無いし、商会の宿舎の枕の中や服の内側に隠すしかない。
という訳で、一部を残して、ガンガン投資に使う事にした。
何に投資するか考えたのだけど、真っ先に自分の身体の成長に投資する事にした。
その理由だけど、例えば村一番の身体が大きな子どもといえばジョシュ。
おそらく彼の家では食卓に多少なりの肉が出るのではないか。
前世ではこんな風に体を大きくする事など考えた事は無かったが、この世界は身体能力が結構重要になる気がする。
将来に備えてしっかりとたんぱく質を摂っていきたい。
実はこの屋台通りの屋台串焼きの肉、ほとんど旨くない。
固くて筋張っているんだ。
でも、顎の筋肉を鍛えるのに丁度いいと思っている。
ちなみに今日の2軒はこの屋台通りで、そこそこ腕が良い2軒だ。
肉の質も新鮮な気がする。
栄養を摂る為だけに食べているけど、「結構旨い」と思うことも多くなってきた。
ちなみにちなみに、肉はほとんどが迷宮産らしい。
つまり魔獣・魔物の肉という訳だ。
身体に悪くないのか? と初めは思ったけど、魔獣の肉しか出回っていないんだから、これを食べる選択肢しかない。
ぼくは肉の筋を1本も残さず、しっかり食べきって串をお店に返した。
意外とお店に串を返す人少ないらしいんだよね。
皆、食べながら歩いて行っちゃうらしい。
お店に串を返すとけっこう喜んでくれているようだ。
串代もバカにならないのかな?
さて、もう塾は始まっている時間だ。
急がないと。
◇ ◆ ◇
塾に着いた。
塾とはいっても、建物は無い。
青空塾と呼べばいいのだろうか。
街の外れの原っぱに座りやすい石がいくつも転がっていて、そこに座って塾の講師から話を聞いたり、個別に教わったりできるシステムだ。
ぼくは今『読み書き塾』と『計算塾』の2つの学習塾系塾を掛け持ちしている。
『武術の塾』も合わせたら3つの塾になるので、月謝は当初の予定より多い
銀貨6枚(約6,000円)になる。
――実は当初の約束から月給を銀貨6枚に上げて貰いました。
そして、何事につけての現金支給。
あのレイルズ兄弟、かなり良くしてくれています(汗)
(これが小金持ちの理由。)
最近は、塾代と屋台代以外は受け取らないようにしている毎日だ。
なぜかって?
こんな最底辺の5歳が大量の現金を持っていても危ないだけだからね!
読み書きを教えてくれるのは『髭眼鏡先生』と呼ばれている、顔のほとんどが髭に覆われた眼鏡を掛けた少し身形が小汚ない青年だ。
髭眼鏡先生は文字を木の枝で地面に自ら書き、生徒にも書かせる。
恐らく紙やペンなどの筆記用具がこの世界では貴重なんだろう。
そういう意味で、この青空塾は読み書きを学ぶのに最適と言える。
この1ヶ月で、ぼくはお店の看板の意味が大体分かるようになり、店頭のPOP広告をいくつか書けるようにまで成長している。
そしてPOP広告の効果が少なからずあり、レイルズ兄弟はウハウハが止まらなかったようだ。
あの兄弟の中で『ぼくへの報酬=投資』の方程式が成り立ってしまったのか、事あるごとにお金を渡そうとしてくる。
――そういえばPOP広告の「POP」って語源はなんだったんだろうね?
この世界にはグー○ル先生は無いから調べられない。
ポップコーンみたいに「跳ねる」みたいな意味なのかな。
跳ねてお客さんの目に飛び込む、的な。
きっとそうだろう。
そして計算塾。
読み書き塾と計算塾はすぐ隣に場所がある。
計算を教えてくれるのは『白髭先生』と呼ばれる、真っ白な長い髭を垂らしたお爺さん先生だ。
ぼくが今生で出会った人の中で、1番の高齢者だろう。
歳ははぐらかされて教えてもらっていない。
前世で4流大学中退までは進学しているので、初めは計算は教えてもらわなくてもいいかと思った。
しかし結局、その教え方が独特だったので教えて貰うことにしました。
どう独特なのか。
それは『計算スキル』に特化している講義内容だったのだ。
まあ、やっていることは前世でいう算盤の暗算の練習法になるのかな。
前世で算盤やったことないから分からないけど。
その練習方法はこんな感じです。
1.本物の算盤を使って計算をする。
2.まったく同じ計算を算盤を使わずに、算盤があたかもそこにあるかのように指を動かして計算をする。
3.1~2を延々繰り返す。
この他にも、算盤を使った掛け算の方法を教えてもらったり、とても楽しい。
白髭先生もぼくの事を気に入ってくれているのか、孫の様に思ってくれているのか、親身になって教えてくれている。
(お菓子も出してくれる。)
これはスキルが身に付くのも、もうすぐかもしれない。
もちろんスキルじゃなくても、普通に暗算テクが身に付くだけでもいいね!
ちなみに、この世界には既に前世の日本と同じ九九が伝わっていた。
もしかして同じ世界出身の先輩が先に広めたのかも知れない。
それともこの世界でも自然発生したのかな?
――こういう事ならインド式の掛け算でも身につけておくのだった……。
ぼくはこの2つの塾を行ったり来たりしながら両方の講義を受けている。
ぼくの他にも生徒が何人かいるが、毎日来ているのはぼくくらいなモノだ。
必然的に、ぼくはかなり熱心な生徒ということになり、1ヶ月で補助講師みたいなポジションに自然となっていた。
生徒の多くはぼくと同じ商会の見習い、肉屋の親父、宿屋の女将、酒場のお姉さん、冒険者のお兄さんお姉さんで、ぼくは補助講師をしまくった。
すると髭眼鏡先生と白髭先生はぼくに補助講師代を渡そうとしてきたので、もちろん辞退させていただきました(汗)
危なかった……。
という訳で、かなり、同じ生徒さんに顔が知られる事になりました。
人脈というやつかな。
前世では人脈とか人の縁とかいうモノに、それこそ縁が無かったので使い方が分からないけど。
誰かレクチャーキボンヌ……。
◇ ◆ ◇
7の鐘(午後3時)が鳴ったので、ぼくは武術の塾の方に移動する。
ぼくは今、街外れの道場の1つ『ザラ道場』に通っている。
ぼくはドラガンさんと同じ組み合わせを目指し、まずは『一本流 竜巻下段派』を学ぶ事にした。
どうして『一本流 竜巻下段派』を選んだのかというと、ずばり『イメージ』です(笑)
なんというか『下段』ってちょっと玄人っぽいイメージないですか?
この道場の師匠の名前はザラ。
女性ながら師範であられる。
残念ながら先天スキル持ちではない。
でもぼくはだからこそ、学びが多いと思い、この道場を選びました。
――けして、ザラ師範が美人だからじゃないんだからね!
不思議な事がある。
下段の剣を習うつもりだったぼくは、なぜか今、木剣を上段に構えている。
そして上段に構えた木剣を真下に振り下ろしている。
なんでも全ての流派で、上段から振り下ろす型が基本の型らしい。
この1ヶ月、ずっとこの型です。
最初の頃は腕がすぐ上がらなくなって10回素振りするのも出来なかったけど、今では20回の3セットはこなせる様になりました。
ちょっとこの道場は人気が無くって、生徒はぼくの他に4人いるかいないか、ってところかな。
日によってはぼくしかいない事もあります。
ザラ師範はこれでやって行けてるのだろうか……。
実に心配です。
でも、5才の子どもがクチ出す事じゃないですからね。
今日は、ザラ師範と2人っきりの日の様です。
ああ、ザラ師範に恋をしてしまったかも。
今世のファーストラブはザラ師範にささげましょう。
けして結ばれない恋だけど、心の中で想うのは自由ですよね。
結ばれない恋は得意だぜっ!
ちなみに、ザラ師範は健康的な17才の美少女剣士です。
栗毛のポニテです。
ポニテが揺れます。
ぼくは引き付けられそうになる目を必死にそらす……。
ザラ師範の汗の浮いた白いうなじ。
――雑念よ、去れ!!
◇ ◆ ◇
8の鐘(午後4時半)が鳴ったので名残り惜しいが、ザラ道場を後にする。
ぼくが帰る時は心なしかザラ師範も寂しそうに見える気がする……。
もちろんぼくは間違わない。
女子の思わせぶりな態度には前世で痛いほど勘違いしているので免疫あります。
勘違いは悲しい事件です。
元気良くザラ師範に別れのあいさつをして、宿舎に戻ることにする。
宿舎に戻ったら、宿舎の中庭で服を洗濯。
中庭にはぼく以外の宿舎暮らしの人の服も干されていてはためいている。
……あー、空が青いな――!
そんなこんなしていたら、もう9の鐘(午後6時)が鳴って夕ごはんの時間。
この夕ごはんの時間が特に幸せだなー!
夕ごはんを食べ終わったら、食後の素振りです。
また20回×3セット。
クタクタになって就寝。
こんな毎日を過ごしています。
あ、忘れない内に。
「ステータス」
今日も何も起こらないっと。
でもなにが起こるか分からないので実験続けてみます。
では、おやすみなさい。
もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がりますw