四日目 テストの時間
テスト前の一週間って、本当に嫌でしたよね笑
なんか魂が吸われるというか、全てにおいて絶望してました
勉強は、さほど嫌いじゃない。
新しいことが次々に学べ、将来に活かせる。これより素晴らしいことは他にはないと思う。
学校の算数や国語の授業は、僕の中の常識を壊し、他の見方を教えてくれる。それがたまらなく面白い。
そんな楽しい時間でも、趣味を削ってまで学習机に向かおうとは思わないが。
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「はじめ!今日テストだってよ!」
切羽詰まった表情で喚くこの少年。
名前は小山 純平。
幼稚園からの馴染みでちょっと意地っ張りな男子。
運動神経は群を抜いており、いつも明るくてクラスの太陽のような存在。
学校行事でも活躍し、周りの女子からも人気が高い。
欠点があるとしたら、勉強面はまるっきり駄目ということくらいか。
そんな人気者を最近、真希はどうも避けているようだ。
前に、図工の時間に作品を純平に馬鹿にされたからだろうか。
先程から後ろでふくれっ面をしている。
「ご、ごめんって真希ちゃん。あの日のことは本当に悪かった、と…思っ……て……ます………はい。」
徐々に口調が弱くなっていく純平。あんなに大きかった声は今では面影もないほどに小さい。
真希もまた、一緒に登校していた時に見せた優しい笑顔の面影も消え去り、背後から感じるオーラのせいで、声をかけることすらできない。
「ふんっ。もういいわよ。行こっ、はじめ」
「あ、う、うん」
背中を真希の小さな手に押される。思っていたよりも怒ってなさそうな口調に、僕は少し安心する。
「待ってよー、置いていかないでー!」
廊下に響く三人の声は、いつもより大きく聞こえた気がした。
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「チャイムと同時に、始めてください。テストの時間は45分間です。」
先生からいつものように念を押される。
静まり返る教室。先程までの騒がしさは嘘だったのではと錯覚してしまいそうになる。
『キーンコーンカーンコーン』
チャイムと同時に聞こえる紙の擦れる音。
全員、あらかじめ裏返されていたテスト用紙を一斉にめくり、問題に向かう。
そこには、授業で習ったものやそれを応用した問題がびっしりと並んでいた。
(今回のテスト、少し難しめだけど純平たちは大丈夫かな)
僕は、先程の純平の不安げな表情を思い出した。きっと今頃苦戦しているに違いない。
そんなことを思いつつ、僕は鉛筆を動かす。
1問、2問、3問。手は休まることなく答えを記していく。
なんとなく解けそうな雰囲気に、力んでいた力を少しだけ緩める。
―――40分経過。
全員がラストスパートに入る。みんな見直しに入っているのだろうか、鉛筆を鳴らす者はほとんどいない。
『キーンコーンカーンコーン』
終わりのチャイムが鳴り響く。みんな開放感から、喋り出したり机に伏せたりして、テスト終了の余韻に浸っている。
純平といえば、清々しい顔で海の彼方の水平線を眺めている。今僕が感じている嫌な予感が的中しなければいいのだが。
「はじめ、テストどうだった?」
横から聞き慣れた真希の声が聞こえる。
「今回は運がよかったかな」
「そんなこと言って、また100点とるんでしょ?」
「それじゃ真希も同じだね」
2人で笑いあう。
真希は女子の中で成績は一番。
学力でいうと僕と同じくらいだろうか。
いつも、テスト中はライバルとしてお互い良い刺激となっている。
これからも真希に離されないよう、頑張らなくては。
今日は長期連休明けのテストの日ということで、午前帰りということを忘れていた。
楽しみにしていた給食を味わえないのが少し残念だが、昼からは目いっぱい遊べると思えば全く苦じゃない。
午後は何をしようかとウキウキしながら校門を出る。
釣りをしようか、友だちの家に行こうか、もしくは秘密基地を作ろうか。どれもが魅力的すぎて一つに絞れない。
なかなか決められないまま、家まであと半分ほどの距離を歩いた。どれも譲れないくらい楽しそうだ。
「おーい!はじめー」
突然の声に体が跳ねる。よく見ると真希が道路の向こう側から手を振っていた。既に家に帰ったのだろうか、学校にいたときと服装が変わっている。それは白いワンピース姿で、周りの風景と違和感なく調和している。
「はじめ、今日暇?」
道路を挟んで真希が言う。
「うん、今のところは暇だよ」
僕が、軽めに答える。
「じゃあ、私の家にこない?」
僕は太陽の眩むような暑さに、体が火照るのを感じた。
やっと、新たな展開に差し掛かったなという感じです…!
次回もよろしくお願いします