【02】 ≫ギルド・クエストヲウケヨウ≪
「ゆっくりしてって下さいな~」
今日はクエストに行く日だ。僕ら冒険者は、冒険者だからと言って毎日クエストに勤しんでいる訳ではなく、大抵の一般冒険者は、一週間の間でクエストに行く日を決めて行動する。
けどだからと言って、希望するクエストがいつでも受けられるわけではない。
クエスト受注は早い者勝ち、もしクエストをクリア出来なかった場合は、他の冒険者にチャンスが到来する。
つまり、クリアできる勝算があるクエストを受けたい場合は、誰かにクリアされるまえにクエストを受けてクリアする必要がある。それは冒険者をやっている者にとっては一般常識なんだ。
それなのに…
「はあ、クエスト誰かに取られてないかな…」
K「あんな雑魚クエ誰もとらないっしょ。」
「雑魚クエだから取られるんだよ。難易度低いクエストだけが減って、最終的に大型モンスターの討伐ク エストだけがボードの真ん中に残るんだ」
それなのにカミエラたちが、いつまでもベッドから離れようとしないから。今さっき、パーティーハウスを出たばっかりだ。本当は朝からいって昼過ぎには帰ってくるつもりだったのに、今はもう11時!、昼前からクエストに行くことになった。
昨日の夕飯時、シーさんが「私たちまだ、強いモンスターを相手に戦えるレベルじゃないわ」って言うから、確かに、シーさん、カミエラ、ユミーレはまだ冒険者になってから日が浅くて、いつも僕が一人で行くような中級クエストは、まだ初心者には荷が重いなと考えていた。
だから昨日しっかりと三人の前で、「じゃあ朝早くにギルドで簡単なクエストを受けようか」と言ったのに。今朝になって、クエストの事なんて誰も覚えてやがらなかった。
それどころか、休日気分で気持ちよさそうに二度寝まで決め込んでいたではないか、ホントヤバい。
「ギルドついたよみんな、速くクエスト取りにいくよ~」
KSY「はーい!」
やっと着いたギルドは、いつもどうりの賑わいだ。ここは僕らが住む町、「旧妖精街道 フェアリー」にあるギルド。
フェアリーのすぐそばにある大渓谷を超えると、僕の故郷「霧の舞う町ミストリア」がある。
一か月半前、僕はパーティーを組んだ時に、三人が住むこの町に引っ越してきた。そのため暮らし始めてまだ日が浅く、この町の事で知っていることはそう多くはない。
シーさんから聞いた話だと、この町は古の時代、妖精国の一部だったらしい。美しい妖精たちが空を飛びかい、今はもうその姿を視覚を通して見ることは難しいマナの結晶が、そこら中から湧き出て見える時代があったという。
マナの結晶というのはただのマナではない、膨大な量のマナが高密度に結晶化したもの。
本来は、異常な魔力暴走が日常茶飯事に起こっているような、危険地帯でしか目にすることはできないもので、中級冒険者風情の僕なんかが立ち入ったら死んでしまうような場所にしかない。
妖精族は高位種族で神の使いとされているため、実際に姿を見たことのある種族はほとんどいない。
妖精が住むは、普段見えている空のはるか先にある天空神殿だが、神殿は妖精たちがかけた最高位の魔法で姿が隠されているらしいから、実際に会うのはムリゲー極まりない。
太古の時代の伝承だから、本当にこの町に妖精が存在していたかどうかは分からないけれど、もし妖精たちに会えたなら夢のようだ。
まあ幻想の中の妖精たちの話は、今はいつか会えたらいいなくらいにしておいて、現実のクエストを早くこなそう、時間がない。
パッと見ると、クエストボードに残っているのは予想通り上級クエストばかり。だが何としても今日は、初級クエストを受けて報酬を貰わなければいけない。なぜなら生活費が底を尽きかけているからだ。
そろそろ本気出さないとマジでやばい、その為に頑張ってこいつらを起こしてきたのだから。
「みんな、簡単なクエスト見つかった?」
S「ないわね~」
おいおい、こんなバカでかいクエストボードなんだから、一つくらい余っててもいいだろう。
「ユミーレは?」
Y「ないよー」
やばい、とうとうやばい。残るはカミエラだけだ。あれだ、信じてるからな?
「カ、カミエラは?」
K「「あったよヨミ!」」
「ほ、ほんとう?カミエラッ!見せて!」
K「はいこれ」
カミエラが差し出したクエスト要請用紙を見ると、確かに「初級クエスト 下級ゴブリン10体の討伐」と書かれていた。カミエラ、普段はだだの巨乳なだけのプー子だと思っていたけど、やるときはやる女だと思っていたよ。
毎日のように食器割るし、なんど言っても僕を抱き枕にするのをやめないし、やめろって言っても人前でフレンチキスしてくるけど、やるときはやると思ってた。(あれ、迷惑しかかけられてなくない?)
「カミエラー♪よくやったあ!」
K(あれなんかハグしようとしてる? 可愛い!)「おいでぇ~♡ヨミ~」
(ひしっ!)
いい匂い。普段はくっつき過ぎて逆にほとんど汗の匂いしかしないけど、ちゃんとしてる時のカミエラはいい匂いなんだ。 薄いミカン色の髪の毛はとてもサラサラで、抱きしめられた時ほっぺたに当たる感触が止めどなく気持ちいいな。
あーもう、離れたくない。このままずっとハグしててほしい衝動が胸の奥から溢れ出してくる。
(なんで僕カミエラに抱き着いたんだろう。。。まあいいか、なんとなく幸せだし。。。)
SY「えー、カミエラだけずるいー。」
K「ヨミ~?あたしはいいんだけどさ~」
「なんだ~い?カミエラァ~」
K「すごい周りの人に見られてるよぉ?」
「へぇ~~~そぉなんだぁ~って、え?
え......。(マジで?)」
K「マジだよ~けど別にいいよね~あたししあわ・・・・・・」
「って!よくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーい!」
え?なんで僕はカミエラに・・・。あ、そうか、クエストを見つけてくれたお陰で少ない生活費を補充できるからか、ああそうゆうこと。
って、違くない?理由おかしくない?え、なんで??
K「きゃっ。もう、いきなりはなさないでよー」
『あのーすいません』
ギルドのおねえさんだ、自分の行動について考えてたら、いつの間にか背後にいることに気づかなかった。なんの用事だろう。
「どうかしましたか?」
『どうかっていうかその・・・・・・・。公共の場でそういったハレンチなことはちょっと・・』
「あっその!これは違くてっ、ただ……。 あっそうだ!このクエスト受けますっ!」
とっさに否定するにも、実際にハグしてたことは事実なわけで。どう言い訳していいか分からずに、ヨミはクエストの張り紙を渡したのだった。
『はあ・・・はい、では承りました。お、お気をつけてぇ~』
見よ、このおねえさんの対応に困り果てた目と、まるで絵に描いたようなぎこちなさを。本当はクエストを受けるための手続きを済ませなければいけないのに、手続きよりも楽な対応を選んだ。
だってこんな記憶に残ることした人間の顔忘れないもの、氏名を紙に控えなくても顔で分かるから間違いなく報酬を本人に渡せるもの。僕は何度も心の中で謝罪の言葉を言い続けた。
すいませんでした、ほんと申し訳ございませんでした。
S「えっとー、」
KSY「クエストいこっか?」
「ゔん、いぐっ。」
この日初めて僕は三人に気を使われた。
そして得た教訓は、「公共の場、怖いから気を付ける。」である。
S「しばらく…手、握ったげるよ。」
「ありがと、しーざんっ」
そして、もうひとつ学んだことは「大人は気を遣うのが上手い」
僕はクエスト地に着くまでの間の小一時間、シーさんにずっと手を握って貰っていた。
「手って温かいんだねシーさん」
「そうだね、温かいね。」
「ありあとーございました~」