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TASさんは異世界にて自由に生きたいようです。  作者: 粗茶漬け
TASさんが異世界召喚されたようです
5/53

TASさん、謎空間に到着する。

2017/1/19 改稿

TASさんの喋りを平仮名にしました

「あーれぇー」


 ひゅぅぅぅぅ、と、私の体が風を切っている音が聞こえる。

 私は今、落ちている。

 具体的に言うと、雲を突き抜けるほど高く育った、色々おかしい巨木の中を一直線に落ちている。


 なんなんだ、あのボタンは。落とし穴か?

 にしても露骨過ぎるだろう。せめて最低限、目立たないような場所に設置してくれたら、勘違いなんてしなかったのに。悪質過ぎるだろう。何なんだ。…もしかして、あのボタンの近くに刻まれてた文章、『これは落とし穴ですよ』って書いてあったのか?そうなのか?


 …まあ冗談はこれくらいにするとして。


 真剣にこの状況を考察しよう。


 私は思考を加速させる。やり方は感覚で分かった。

 すると、私の身体が落下して行く速度は、丁度1/10ほどスローに感じられるようになった。


 やろうと思えばもっと大幅に処理能力を上げる事が出来る事も、感覚で分かっていた。だが、これ以上思考を加速させると、何か危険な事が起きるということも私の感覚は伝えていた。


 まあ、この状況なら十倍も速く思考できれば十分だろう。

 着地点は霧のような何かが視界に掛かっており、まだ視認できない。

 だが、そこまで濃いものではない。着地するのはもうすこし先だろう。


 そうして、思考を加速させた私は状況の考察を始めた。


 この状況で確率が高い案を順番に三つ挙げる。

 一、女神様が私に贈った、『救済装置』。

 二、この世界の人が作った、『頂上から地面までのショートカット』。

 三.この世界の人が作った、『罠』


 三は…まあ、おそらく違うだろう。

 あんな人が全くこなさそうな場所に対人の罠を仕掛けて何になるのか。

 落とし穴に文章なんて書かないだろうし。


 二も無いだろう。

 こんなとんでもない高さの木に登る人なんているのだろうか?いや、いない。


 一が妥当だろう。

 うん。そういうことにしよう。


 正直、こんな空中で状況の考察なんてしていても、落下を防げるわけでも無い。私は無力だ。一の案か二の案が的中していなければ、普通に死ぬだろう。


 私は思考の加速を切る。

 すると、私の落下していく速度はスロー状態から元に戻った。


 さて、どうなるか。

 私は目を閉じないようにして、受け身を取る。まあ、ただの気休めだが。


 さて、地面がぼんやりと見えてきた。

 はてさて、どうなる事やら。



 ◆◆◆◆◆



 結論から言うと、私は死ななかった。

 地表との距離が丁度300メートルを切った時点から、ゆっくりと、私の落下する速度が落ちて行ったのだ。最終的に、私はストン、と軽く着地することが出来た。


 …んー。

 これは、魔法というやつだろうか。女神様も『剣と魔法の異世界』と言っていた。つまり、まぁ、魔法なんだろう。


 という訳で私は無事、地上に到達する事が出来た。


 だが、安心は出来なかった。

 着地時の即死は(運によって)免れることが出来た。


 だが、ここにもし女神様の言っていた『化け物』が出てきたら。私に為す術は無いだろう。考えるだけで背筋がゾッとする。


 ここが安全だという保証はどこにも無い。警戒する必要があるだろう。


 私は辺りを見回す。


 樹木の壁で囲まれ、その中に普通の大きさの草木が生えている。


 ふと、地面を見る。草の葉っぱ。その上に。




ーーー草の上に赤い水滴がぽたぽたと垂れていた。


 数瞬、間を置き、私は直ぐに。


 それが何処から垂れているものなのかを、理解した。


 それは、私の鼻から垂れていた。


 赤い水滴の正体は、私の鼻血だった。


 そして、鼻血が垂れている事に気付いた数秒後。


「っーーーー!?…」


 ガン、と、頭を思い切り殴られたような頭痛が、一回、二回、三回。


 その後、頭の中に()()()と響く耳鳴り、痛みは激しく、さらに継続的なものへと変わる。頭が割れるようだ。


 鼻血もダラダラと、垂れる量を増してゆく。

 ボロ布の服が、私の血で塗れる。



 私は足に力が入らなくなり、地面に座り込む。


 はぁ、はぁ、と、肩で息をする。なにやら息も苦しい。


 ーーーこうなった原因は、恐らく。


 "思考加速"。


 …私の演算能力に、脳がついていけなかったのだろうか。多分、そんな理由だと思う。




 …暫く座り込んでいると、段々、頭が落ち着いて行った。


 私は座り込んだまま、少し休む事にした。


 暫くすると頭痛は引いて行き、鼻血も少しづつ出る量が減り、最終的に止まった。


 息をするのも少しづつ、楽になっていった。ある程度体力も回復した。


 ーーーよし。もう大丈夫だ。


 思考加速は、あまり使わない方がいいな。使うとしても、本当に必要な時だけにしよう。

 私は反省をしながら、辺りを探索し始めた。





 ◆◆◆◆◆





 探索していて、不思議だと思う点がいくつかあったので、纏める。


 不思議な点、一つ目。光がある。


 壁で囲われ、天井には蓋をされている空間。

 そんな空間、普通は真っ暗な筈だ。

 しかし。この空間はまるで頂上、つまり、外にいた時とほぼ変わらない明るさを持っている。


 まあ、それは今そこまで気にすることではない。

 なので考察は省略。


 不思議な点、二つ目。地面に草木が生えている事。


 普通に考えて壁に覆われた密閉空間に、植物の種などが混じりこむ可能性は無い。

 巨木に囲まれる前から生えていたとしても、雨、つまり水が入って来ない。

 普通枯れる筈である。


 …まあ、これは不思議な点だが、嬉しい点でもあった。


 木に成っていた果物を入手できたのだ。食料GET。


 指先ほどの大きさの実がいくつも集まり、掌サイズのボール状の形をして成っていた。色は青色。


 それは、私が探索し始めて、一時間二十九分経った時に見つけた木に成っていた。


 私はゆっくりと木を登り、果実をもぐ。


 シュタッ、と、格好を付けて地面に着地。まるで忍者である。気分だけは。


 念のため、毒があるかどうかチェックをしながら探索を続けた。


 そして三時間程経ち、チェックが終わる。毒は無いようだったので、私は果物を口に放り込んだ。


 ぱくり。


 噛んでみる。


 もくもく。


 甘く、酸味があり、ぷにぷにとした食感で、水分を豊富に含んでいたので、飲料にも困らずに済みそうだ。


 私はボール状に集まった果実をいくつかもぎり、口の中に放り込む。


 もくもく。もくもくもくもく。


 果物を口一杯に頬張りながら、私は実が成っている木がある場所に戻り、着ている服(ただのボロい布)の一部を破り、風呂敷の要領で即席の(かばん)を作り、その中にぷにぷにする実を出来る限り詰め込んだ。


 他の木にも他の種類の実が成っていないか探索ついでに探していたが、無かった。なので、いちいち道を戻ってまで、果実を取りに来る羽目になったが、それはまあいい。


 これで食料問題が解決した。

 この実ばかり食べていても栄養失調になりそうだが、暫くの間は食いつなぐことは出来るだろう。もくもくもく。


 因みに毒のチェックの方法は簡単だ。

 チェックしたいものを手の上に暫く乗せて、問題なければ唇、それでも問題ないなら舌の上、その次は噛んで暫く口の中に含んだり、まあ色々やって、物を当てた場所がヒリヒリするなどの異常が起きたりしたらそれは毒。何も起きなければ食べられる。


 ただし、かなり時間がかかる。

 手の上だけでも、一時間くらい置かないといけない。

 まあ、それを確認しながらでも出来る事はいろいろあったので、私は念の為にチェックをした。毒を食べて死ぬなどという格好の付かない死に方はしたくないのだ。


 まあ、食料の話はこれくらいにして、話を戻そう。


 不思議な点、三つ目。空間が広過ぎる。これが重要な問題なのだ。


 頂上から見下ろした幹の接地部分の太さを目算した結果は、半径183メートル。

 だが、この空間はそれより十倍ほど広く見える。

 …まあ、霧がかかっているため、円状の木の壁の一部を見て、曲がり具合やら誤差の矯正やら、そういう事をして算出した予測の結果だ。

 壁が円状に続いていなければ、大きく変わるのだが。


 それにしても広過ぎる。

 見える範囲だけで、軽く頂上からの目算を大きく超えている。

 これはなかなか面倒だ。

 すぐにここから出ようと思っていたのに、出口を探すのが大変そうだ。

 いや。出口があるのかどうか分からないが。


 まあ、探すしかないのだろう。

 幸い食料も手に入った。


 暫くはなんとか生きていけそうだ。


 取り敢えず眠いので、果実の成る木の近くに隠れられ、それでいて、何かあった時には一目散に逃げ出せる場所を木の枝や葉っぱなどを拾い集めて作り、そこで眠ることにした。葉っぱの布団を被ると、私の意識は自然と遠のいていった。

2017/1/17 文章の一部を修正

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