TASさん、現状を確認する。
2017/1/16 改稿
大木→巨木
2017/1/19 改稿
TASさんの喋りを平仮名にしました
2017/1/21 改稿
文章の一部を変更しました
……自分の正体が分かった。それはいい。
頭の中も、何か憑き物が取れたようにスッキリしている。
それよりも今解決しないといけない問題があった。
上を見上げると青空が見える。
極々当たり前の事だ。
だが。
何かおかしい。
女神様は、私は『森林の中に召喚される』と言っていた筈だ。
なのに、何故青空が見える?
森に召喚されたはずなのに、青空を遮るものが何も無かった。
私は、小さい身体をがば、と起き上がらせる。
目に入るのは、円状に広がった地面。
それが途切れた先には青空があった。
私は地面の端らしき場所まで駆けて、下を見下ろす。
……数瞬、私は思考を停止した。
目に入ったものは。
雲と、それを突っ切って、大地から私のいる場所まで伸びている、物凄い太さの木、らしきもの。
あと、雲の合間から覗ける、遥か下。
そこに、森があった。
私はーーー今、雲の上にいる。
……どうやら、雲を突っ切る程高く背を伸ばしている巨木の頂上に、私はいるらしかった。
◆◆◆◆◆
———数分後。
ようやく、思考が落ち着いてきた。
私は状況を再確認するために、辺りを見回した。平らな地面。ただし木製。
……この場合、足場と述べた方が正しいか。
足場の広さ、目測でおよそ半径三十二メートル。
どうやら、巨木の頂点が輪切りにされており、その上に私が立っているらしかった。足場のバランスなどは気にしなくて良さそうだ。
何でこの木の頂点は輪切りにされているのか、気になる所ではあるが、今私が真っ先に考えるべきは、自らの身の保身の事だろう。
とんでもない高所にいるせいか、少し、いや、かなり寒い。
それだけではない。気圧や低酸素の問題もあり、私の体力は何もしなくても勝手に削れてゆく。全く、とんでもない悪所に召喚されたものだ。
責任者をフルボッコにしてやりたい。
いや、誰が私のことを召喚したのかなんて分からない。諦める事にしよう。
探し出すのも時間の無駄である。面倒だ。
それより。
私はなるべく早く地上に降りなければならない。
食料が無い、水も無い。これではすぐに飢えて死ぬ。
だが、低酸素や気圧などの問題もある。急に降りても体調を崩す。
女神様の話だと、地上にある森は魔物的なアレの巣窟だ。
ただでさえ勝てる気がしないのに、不調な状態では逃げることすら儘ならないだろう。
いや、その魔物的な奴らが非常に弱ければ……いや、そんな事はないだろうな。
あの異様にファンキーで大雑把な女神様が忠告する位だ。
きっととんでもない化け物達なのだろう。
話を戻すが。
つまり、これは時間の勝負だ。
私はTASさんではあるが、精密な体の操作も、乱数の調整も、今は何も出来ない。
今すぐに行動しないと、死ぬ。
かといって、早く降りすぎても死ぬ。
最適な時間の中で、いかに素早く降りれるか。
ペース配分が重要だ。
……女神様からもらった能力、それがあれば何とか出来るのかもしれないが、今の私はそれをどうやって使うか、全く分からない。
そもそも、使える能力なのかも分からない。
なら、それに頼るのは愚策というものだ。
せっかく人として生きれるのだ。満喫する前に死んでたまるか。
私は、己の力で生き延びてみせる。
◆◆◆◆◆
約三十分後———
はい。無理でした。
幹の凹凸やツタを掴んで下に向かって降り始める所までは、なんとか出来た。
だが、寒すぎて手が悴むわ、貧弱な腕力が災いして何回も滑り落ちそうになるわ、体力が切れるわ、色々と散々な目に遭った。
何がペース配分だ。何が時間との勝負だ。
話にすらならない。ダメだこりゃ。
バカなことほざいてた三十一分前の自分を殴り飛ばしてやりたい。己の力で、何だって?
貧弱な少女の腕力で雲の上から木の幹を伝って地面に足を付けるなんて、そもそも物理的に無理な話なのである。
TASは出来ることをやっているだけだ。
何でも出来る訳じゃ無い。
さらに、TASの動きを現実でしようとすれば、相当な筋力と体力が必要なのだ。
今の私にはそれが無い。
いくらTASとしての処理能力があろうと、ほぼ役に立たない。
そう。これは現実なのだ。
今まで私がプレイしてきたゲームとは違う。
私は少し異世界を舐めて掛かっていたのだろう。
気を引き締め直さねば。
という訳で、私は今ぜぇぜぇと息を切らしながら、再び巨木の頂上へと戻ってきたという訳である。全く、骨折り損のくたびれもうけだ。
暫くして落ち着いてから、私ははぁ、と、大きなため息をついた。
◆◆◆◆◆
しょうがないので、何か辺りに使えそうな物はないか、調べてみることにした。
すると、何やら足場に円を描いた切れ込みのようなものを見つけた。
丁度、大人の人一人が入れそうな大きさの円である。
そして、その円の中心に、何やらボタンらしき突起が付いており、文章らしき何かが刻まれていた。
……何処からどう見ても人工物である。
誰がこんな物を作ったのか気になるところではあるが、今はスルーする。
……このボタン、押した方が良いのだろうか。
結構周囲を探索したのだが、これ以外に何も見つからなかった。
「おすしかないかぁ……」
何もしないよりマシである。
私は円の中に入り、スイッチを恐る恐る押した。
すると、ポチッ、と、非常に間抜けな音がした。
その数秒後。
私の立っていた円の内側の床が抜けた。