TASさん、思い出す。
2017/1/17 改稿 文章の一部を改変しました
目を覚ました私が最初に見たのは、青空だった。
どうやら、言われた通り異世界に来てしまったようだ。
異世界。そう、ここは異世界。
私が元いた場所とは、違う世界。
ぐちゃぐちゃに混乱していた私の記憶は、きちんと整理されていた。
そして、私は知った。
元の世界の事も、私自身の事も。
私の生まれた世界、地球では、娯楽が非常に発達していた。
その中でも、トランプやTRPGなどの物理的な形が存在する物で行うゲームではないもの。
所謂、コンピューターゲーム。
TVなどの映像機器にコンピュータを内蔵したハードウェアという機器を接続し、それにソフトウェアと呼ばれる様々なデータを記録した媒体を読み込ませてゲームを起動させ、コントローラーという機器を使い、画面内のキャラクターなどを操作して遊ぶ。
地球の支配者、人類の叡智をありったけ盛り込んだような娯楽。
そんな娯楽の楽しみ方の種類の一つ。
Real Time Attack。
略して、RTA。
目標を決め、いかに早くその目標に到達できるかを競う。
まあ、読んで字のごとく、タイムアタックである。
どこをどういう風に進めばこのステージは最短でクリア出来るのだろうか。
そんな事を思考し、実行。
成功すれば、また検証。
そうやって、少しづつ目標達成へのタイムを縮めてゆく。
だが、人間の操作では、完璧に、思い描いた通りに操作する事は困難だ。
なら。
コンピューターに操作を入力させればどうだろうか。
つまり。
コンピューターならば、人には到底目指せない、スーパープレーを連発できる。
コンピューターならば、人には到底成し遂げ得ないような、スピードクリアを目指せる。
ならば、やってみよう。
…その目論見は、成功した。
そうして生まれたのが、TASだ。
Tool-Assisted Speed-run。
又は、Tool-Assisted Super-play。
様々なゲームで、理論上は可能であるが、人間にはほぼ不可能、そう言われるような『机上の空論』をコンピューター上で実現させる。
TASは、RTAと比べ物にならないレベルの速さと操作の精確さで目標を達成する事が出来た。
そりゃそうだ。あらかじめ行動が記録されているTASでは、ミスをする事など全く無いのだから。
TASのゲームプレイや作成過程、行動理論などを動画にし、動画投稿サイトに投稿される様になると、TAS動画と呼ばれる様になり、人気を博した。
そして、多くの人がより短いタイムで目的を実行するために、試行錯誤を繰り返しーーー
これらが、私の思い出した記憶の一部分。
そう。一部分。
私は…此れまでに行われてきたTASの理論、そして、それを実行した記録を、知っていた。…覚えて、いた。
これらの事実から推測した結論を述べる。
———TASという概念が具現化した存在。
それが私こと、『TASさん』なのだ。