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ショコラの時間ー2

それからすぐ「お待たせしました」とお盆を客席に。


・・・って、今日は店主自ら運ぶのか?珍しいこともあるものだ。

普段は双子に運ばせているのに、どういう風の吹き回しだ?


「どうぞ」


「え?注文まだしてませんけど・・・」


「サービスです」


・・・随分一言でまとめたな。


何だ?やっぱりネットに書き込まれるのを防ぐ為か?

だが、店主がそんなことを恐れるとは思えない・・・うーむ、何だというんだ?


「そうですか、なら遠慮なく・・・わぁ!」


年齢の割には落ち着いていて淡々としている印象だったお客だが

店主が置いた不思議な柄の描かれた小箱をパカッと開けると

年相応の歓声をあげた。


「凄い綺麗ですね!形も可愛い!」


箱の中身は色とりどりのチョコレート。


ハート形、どこぞの惑星のようなマーブル模様の球体

ナッツが乗った細長い四角が縦二列で合計八つ並べられている。

ハートと球体のは二色あり、四角いものは乗っているナッツが異なっている。


「味も全部違うんですよ。作業の合間の糖分補給にどうぞ!」といいながら

店主は飲み物も隣に置いた。香ばしくローストされた匂いが私好みだ。


「これは?」


「当店オリジナルウィンナ・コーヒーです」


「すみませんが、甘いに甘いの組み合わせは好きじゃありません」


「そう思いましてコーヒーにも上に乗っている生クリームにも砂糖も不使用でっす!

 砂糖は備え付けのものもございますので使う使わないはご自由にどぞー」


甘くないと聞くと「それならいいです、いただきます」

といってチョコに手を伸ばすお客。

「いただきます」と挨拶をしたのはよかったが

目線は店主ではなくパソコンでその状態のまま右手を伸ばしてチョコを摘み

パクパクと食べていく様は、はっきりいって行儀が悪い。


おしぼりもテーブルにあるんだからせめて手は拭けばいいだろと思ってしまう。

しかも食べ終えた手もそのままタイピングに戻している。


「ここはこうして・・・いや、違う・・・

 こっちはこう・・・あ、ここもいいか・・・」


果たして味わっているかは謎だがな。次から次へと口に運んでいるが

何かブツブツいいながらで意識は完全にパソコンの方に行っているなあれは。

ただ噛んで飲み込んでいるだけだ。


「・・・回復アイテムはハートのチョコ・・・っていうのもアリかも」


いっていることも申し訳ないが意味がわからない。しかし、何はどうあれ

「アリ」という単語が出ているならお気に召してはいるのか?


「ふぅん、とても悩みがあるようには見えないねぇ?」


頬杖をついて「何だろうねー」と首を傾げる店主。ちなみに私も同意見だったりする。


パクパクとチョコを食べて、時々コーヒーを味わい

独り言やら鼻歌やら交えながらひたすらパソコンと睨めっこ。


・・・思いっきり寛いでいるな。


もしかすると、さっきの掲示板に書かれていた来店方法?

・・・実は当たっているのか?


「いや、それはないな」


店主は不思議そうな顔をしているのにサラッと否定する。

ふむ、やっぱりそうか。

だとしたらやっぱりお客が悩みを抱えているということだが・・・


「ふんふんふーん♪」



カタカタカタカタ・・・



「ふふんふーん♪」



カタカタカタカタ・・・



・・・肉声と機械的な音がアンサンブルを奏でているぞ。


「だねー。・・・よっし、お客さーん、お客さーん!」


店主がお客に声をかけると、お客は「はい?」とようやく画面から顔を上げた。

惑星チョコを放り込んだばかりでもごもごと口を動かしている。


店主はそんなお客に「ちょっとアンケートよろしいでしょうかねー」とまた声をかける。


「アンケート?」


「はい、こちらが質問をしたら答えていただくだけで結構です

 回答していただければお礼にお菓子とお飲み物のおかわりを無料提供します」


「そうなんですか。じゃあやろうかな、お得だし」


「ありがとうございます。では早速質問です!

 『貴方は今、何か悩みを抱えていますか?』

 YESでもNOでも理由を添えてご回答下さい!!」



・・・また新しい手法に出たな店主。



客も不思議そうにしながらもおかわりをタダで貰えるということで


「悩みかぁ・・・特にないですけど、強いていえば・・・」

と素直に考えている。そして、強いていえばの続きはというと・・・



「人から危ない奴扱いされることですかね」



ということらしい。


失礼だということは百も承知でいってしまうが、何となくわかるな。


「別に気にしてはいないんですが、一度に大勢からもしくは一日に何人も

 『お前変だよ』といわれたら気にするなという方が無理でしょう?」


まあ、そんな真剣に悩むことでもありませんけどと

涼しい顔でチョコにパクつくお客。


「人は皆、変わり者なのに貴方限定でいうというのは不思議ですねぇ?」


「ああ、きっと自分でいうのも何ですけど嫉妬してるんじゃないでしょうか?」


「嫉妬?」


「ええ」


話を聞くと少女はパソコンが得意で、趣味で作っていたゲームを

自身のブログで紹介したところ、瞬く間に評判になり

最近、某大手制作会社に声をかけられたらしい。


そのままサクサクと商品化が決まり、天才中学生プログラマーと

ネット世界で広まりゲーム雑誌にも一面を飾るほどになったとか。


「変だ変だといわれ続けて、一歩引かれた目で見られてきたけど

 それが今日の日の為と思えば、今は別に悩むようなことじゃありません」


そういっている時もチョコレートを食べつつ

カタカタカタと速くリズミカルにキーを叩くのを止めないお客に

店主は「ふわー、お見事お見事」と笑っている。


そして「アンケートのご協力ありがとうございましたー」とおちゃらけながら

飲み物のおかわりを作りに作業場へ。


その際に厨房に「追加持ってきて」と伝え、「ああ」と次弥の低い声が戻ってきた。


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