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氷菓の時間ー5

そしてようやく準備が整い、支払いという名のミニコンサートがスタート。


さほど大きくない店内にフルートのなめらかで優雅な高音が響き渡り

従業員皆、自然と目を閉じて音色に聞き入る。


喩えるならそうだな・・・脚が長く真っ白な鳥が湖を跳ね回るような・・・

そんなイメージかな。バレエのようなしなやかな感じじゃなく

何というか、子供がキャッキャッとはしゃいでいるような・・・


ううむ、形のないものを表現するのはなかなかどうして難しいな・・・。


しかし、音楽とやらに疎い・・・というより

まるで縁のない私のふわふわの耳でさえこの跳ね回る音色はとても心惹かれる。


世界的フルート奏者の名は伊達ではないということか。

これは世界から求められるわけだ。


「・・・お見事」


名残惜しいが、演奏終了。


短い曲ではなかったはずなのにあっという間だった気がする。


店主もパチパチと拍手しながら吐息混じりに賞賛している様子だ。

あまりに感動し過ぎて逆に声がでなくなっている感じか。

普段賑やかな双子でさえもキラキラと目を輝かせて余韻に浸っている。


「えっと・・・支払い忘れはないかしら?」


ついさっき説明した通り、既に演奏した曲が何なのか忘れたお客

(忘れたのは曲だけでフルートを吹いたことは覚えている)はそう店主に確認を取る。


店主も店主で「はい、素晴らしい大金を頂戴した気分です」と笑顔で答え

他の従業員たちも満足そうに頷く。


「そうですか、それならよかったです・・・では、私はそろそろ」


「はい、ありがとうございました。ちなみに、次の旅の行方は?」


「ハンガリーです。一週間後、知り合いが主催のチャリティーコンサートに参加を。

 その後も転々と。次に日本でコンサートがある際は是非いらして下さいね」


来週開催ということはすぐに発たないといけないな。ハンガリーという国まで

どれくらいかかるのかわからないが、遠い遠い異国であることは確かだ。


「それは素敵ですね。今度は一体どんな曲が聴けるのか楽しみです」


「基本、私はノンジャンルですのでそういう意味でも楽しめるよう努めますわ」   


疲れた顔を見せず、むしろ前向きな言葉の数々。それに感銘を受けたのか

「彼女の意欲はアイスのように溶けたりはしなさそうだな」と次弥のぼやきが聞こえた。


「ご自分の曲とかは吹いたりしないのですか?」


って、おいこら店主。そんな質問をしたらさっきの支払いの意味が・・・


「ああ、私はアドリブ演奏をすることはあっても、作曲はしないようにしているんです」


・・・お?


「何となくですけど・・・そういうのは向かない気がして」


おおっ!?


「今は世界各国にある沢山の曲に触れて、それらを吸収するのが楽しいんです」


おおー・・・!


「中途半端に手を出したら停滞しそうですし」


忘れているけれど忘れていない!こいつは驚きだ。


店主は見抜いていたのか?このお客がそういう人だろうということを・・・?


聞いたところでしらばっくれて終わりという流れが読めるけどな。

私も他の従業員たちも同じことを考えているのか口を開く者もいない。


そしてお客は「素敵な時間だったわ、ありがとう!」と明るく帰って行った。


忘れたことを取り戻す。たったそれだけの為に溶けない情熱を持って東へ西へ。


それはどれだけ大変で、どれだけ楽しいことだろうと私も想像してみることとしよう。


「おーい、おやつだよー!」


おや、もうそんな時間か。

今回のおやつもきっとアイスだな・・・っと、さっきと色が違うなぁ。


製作者である次弥に何味かと聞くとちなみにおやつの時間のアイスは

真っ赤なトマト。こちらは蜂蜜とヨーグルトを混ぜているとのこと。

緑色は抹茶かと思えばほうれん草・・・濃いな、色が。

真っ白なのはバニラではなく大根ミルク・・・らしい。


随分とまあ冒険したもんだなぁ。


「試作品だ」


お前、昨日もそういってアイスを作っていなかったか?店主が全部平らげていたが。


「可能性の数だけ、試してみないことには始まらないからな」


・・・ここにもいたな。職人気質が。


「取りあえず食べてみようよ!あのお客を見習って、

 いつも通りではなく、俺らも少しは道を変えないとね!」


その日はいつも通り、お客一人が来店して店仕舞い。

・・・ん?アイスの味だって?

それは・・・その・・・ぬいぐるみの私に聞かないでくれ。食べていないのだから。

食べた皆の反応もバラバラだったしな。説明し辛い。


まあ、「知りたい!」という気持ちがあるのなら

自分で挑戦するのが早いんじゃないか?やってみてどうなるかは保証出来ないが。

だからこそ面白いかもしれないぞ?




あと、実はこの話には続きがあるんだ。だが、さっきもいったが今日は店仕舞い。


この続きはまた今度、話すとしようか。




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