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氷菓の時間ー2

「今日のお菓子も美味しいよ!」


「お姉さん、いっぱい食べてってね!」


「ありがとう、何がいただけるのかしら?楽しみね」


「あ、二人とも!実弦が買出しに行くそうだから手を貸してあげてくんない?」


「「はぁーい!!」」


お兄ちゃんとお出かけが大好きな双子はお客にバイバイと手を振りながら

作務衣から外出着に着替えているであろう実弦の元へと駆けていく。


「今日は蒸し暑いのでこちらをどうぞ!」


「わぁ!!」


平たい木の皿に並ぶ三色の球体。

中心には収穫したであろうミントの葉を飾っている。


「私、アイスクリーム大好きなんです!嬉しい!」


「そうですか、それはよかったです!ちなみに本日のラインナップは・・・」


店主によると、左上は胡桃入りのメープルアイス。

なるほど、これを作っていたからストックを作らねばと

さっき店主に殻を割らせていたのか。

で、その隣がピスタチオ入りクリームチーズアイス。白と黄緑が綺麗な彩りだ。

下にあるのはチョコチップ入りのかぼちゃアイスだそうだ。


「凡てクリーミーでこっくりとした味なので

 お飲み物は爽やかなベリーフレーバーの紅茶にしてみました。

 アイスで冷えた身体を温めるという意味でホットでどうぞ」


「ええ、ホント・・・ベリーのいい香りだわ・・・あら?その器は何かしら?」


店主がティーポットやカップと一緒に置いた白い器。

しかし中身は空っぽのようだ。

不思議そうにしているお客に紅茶を注ぎながら店主が説明する。


「こちらの器にアイスを入れて上から紅茶を注げば

 ティーアフォガードも楽しめるんですよ。

 勿論、別々にお召し上がりになるのも良しですしお好みで!」


「コーヒーじゃないアフォガードって初めてだわ!いただきまぁす!」


スプーンでアイスを掬い口に運ぶお客の顔は実に幸せそうだ。


「うーん、どれも濃厚で美味しいー!」と冷たいアイスの味と

「はぁー、温まる。そして甘酸っぱい香りが素敵・・・」と温かい紅茶の味を楽しむ。


そしてまた暫く見守った後、店主がここだと思うタイミングでまたお客に歩み寄り


「どうです?お悩みを思い出す味だったかな?」


と、店主曰く決め台詞を口にし、きょとんとするお客に

どういうことかを説明するという毎度恒例の流れにもっていった。


「よくわかりましたね、私が悩みを抱いているって・・・」


「このご時勢、悩みのない人間の方が珍しいですから」


「ふふっ、確かにそうね」


そして今回のお客は本当に人がいいのか、割とすんなり受け入れている。

少しは「何だそれは」という反応をした方がいいと思うんだが・・・

まあ面倒臭くなくていいか。


「悩み・・・か。実は、その、私・・・」


アイスをむぐむぐと口の中で転がしながら己のことを話始めてくれた。


何でも今回来店したお客はフルートの天才奏者といわれているらしい。

ぬいぐるみである私にはよくわからんが

店主は名前を聞いた瞬間、「ああ!あの!」と

声をあげていたから本当に有名人なのだろう。


後から店主に聞いたんだがトーク番組なんかにも何度か出演しているらしい。

幼少期、誰にも教わっていないのに滑らかな指先で一曲披露し

それから吹けば吹くほどそのスキルは上達していき、あっという間に

音楽界期待の新星として日本だけに留まらず

各国のコンサートに引っ張りだこなんだとか。


そうか、あの見たこともない横長バッグの中にはそれを入れていたんだな。



「では久しぶりに日本に?」


「ええ」


これだけの話だととても悩みを抱えてるようには聞こえんが・・・。

まさか恵まれすぎて困るという悩みではあるまいな?

もしそうだったらがっかりだぞ。


「でもずっと、フルートを吹けば吹くほど・・・

 心の奥底で何かが欠落しているのを感じるんです・・・

 子供の頃から今まで、ずっと・・・」


「ほほぅ」


・・・やっぱり自慢か?自慢なのか?


高みに上り詰めた人間の贅沢な願いというやつか?

人当たりがいい人だと思っていた分、余計にがっかりしてしまうぞ?


「何か、とても大切なことを忘れている気がするんです・・・

 それを探す為に私は演奏を続けているのかもしれません・・・」


おやおや?どうやらそうではないのか?


「時々、ふと思い出しそうになる時があるんです。

 でも、もう少しで掴めそうという時にフッとその感覚が消えて・・・

 だからこそより知りたくなるというか・・・」


・・・これはこれは私としたことが。何と失敬なことをしてしまったのか。

お客がろくに話してもいないのに、これまでの経験で

勝手に自慢と決め付けてしまったな。


これは反省しなければならんな。私は学習するぬいぐるみだ、賢いだろう?


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