糖花の時間-2
「ささ、どーぞ。召し上がれ!!」
珍しくお客を交えた六人のティータイム。
ちなみに私は物が食べられないが参加している。
いつも双子姉妹が私を抱いて自分の膝の上に乗せるのだ。
今日は姉の梓雪の順番らしい。
・・・それはいいが、今日はクリームやらカスやらは落としてくれるなよ。
私自慢のふわふわな毛がカピカピになってしまうから
どうかそれだけは気をつけておくれ。
「いただきまーす!!」
今日のおやつはフルーツサンドだ。
普通の食パンに生クリームが次弥作だな。
そっちは苺、黄桃、キウイフルーツが入って彩り鮮やかな定番スタイルだ。
抹茶のパンに漉し餡クリームが実弦作か。
入っている果物は栗の甘露煮、バナナ、みかんとシンプルだが工夫を凝らしている。
「あれ?お兄ちゃんたちとしぶきたちと飲み物違うねー?」
梓雪が不思議そうに自分たちのグラスと店主たちのカップを見ている。
冷たいものと温かいものに分かれているのが気になるんだろうな。
「ああ、梓雪と乙季それとれっちゃんのは特製ミルクセーキだよーん!
今回はシェーカーで作ってみた!」
ああ、だからさっきやたらとシャカシャカ鳴っていたのか。
「で、大人組は俺お得意のロイヤルミルクティー♪」
お前たち紅茶まだ苦手でしょ?といって店主が笑うと
「そっか」と双子も笑い返す。
ん?なら実弦、お前はミルクセーキの方がいいんじゃないか?
「ガキ扱いすんな。僕はもう大人だからこっちでいいんだよ!」
ふぅん、コーヒーでも紅茶でも角砂糖二つないと飲めない子が大人ねぇ?
「うっさいなぁ・・・」
私たちがこんなやりとりをしている間に
梓雪は早速ストローでミルクセーキを飲んでいる。
「あまーい!!おいしいー!!」
確かに見るからに甘そうだ。
黄色みがかった白はいかにも濃厚です!といっているようで。
しかし、おこちゃまにはそれがいいのかもしれない。乙季もお客も
「これ美味しいね!れっちゃん!」
「うん!」
満足げな顔をしているし。
というかお前も「れっちゃん」呼びか乙季。真似っこさんめ。
「遠慮しないでこっちも食べていいからね!どうぞどうぞ!」
だから店主、そっちはお前が作ったわけではないだろう。
次弥も涼しい顔で紅茶啜るな。
「じゃあいただきます!」
「「まーす!!」」
お客はまずシンプルな方を手に取る。まあ、最初はそうだわな。
梓雪も同様だ。一人、和菓子好きの乙季だけは実弦のを先に取った。
パクッッッ!!!
「「「んーんんんん!!」」」
一口頬張ると三人とも何と幸せそうな笑顔だろうか。双子姉妹のこの顔は
毎日飽きるほど見ているが、それでも美味そうと思ってしまうから悔しい。
「懐かしい味!昔を思い出すわ!」
おいおい、ランドセル背負う年代がいう言葉か?
「美味しいよ!次兄!!」
「そうか」
こういう時だけは笑うよな次弥。
客の前でその笑顔見せればファンが増えるだろうに。
「お兄ちゃんのも美味しいよ!栗ほくほくであたしこれ好きー!」
「そ、そう?よかった・・・」
妹のコメントにあからさまにホッとする実弦。
さっきから様子伺ってたもんな。
それから「次こっち食べる!」「じゃああたしはこっち!」と
サンドイッチは減っていくのは早かった。
ほとんどが双子姉妹の胃袋に入り、合間に実弦と店主も摘んでいた。
その光景を次弥は飲み物を手に眺めているだけ。これも日常風景だ。
何でも、甘いお菓子を作るのが得意ではあるが食べるのは苦手なんだそうだ。
なので新作を作る際は店の誰かが味見をしている。
それで大丈夫か?と思うかもしれないがそこは次弥の腕だ。
毎度絶品を生み出しているので何ら心配はいらない。
「ふぅー、美味しかった。このお店の味は昔も今も変わってないわね!」
安心したという笑顔でそういうお客。さっきから思うんだが、子供の割には
妙に発する言葉が大人びているな。双子がより幼く見えてしまうほどだ。
「お茶美味しかったわ。それじゃ、そろそろいかなきゃ」
「そうか」
「それじゃ、お気をつけて!」
「ええ、ご馳走様!」
無邪気な笑顔でタタッと小走りに店を後にするお客。
「あーあ、れっちゃん帰っちゃったぁー」
「もっとお話したかったね・・・」
久しぶりの同世代のお客が嬉しかったのか
双子は残念そうに兄にくっついている。
「それにしても悩みがない人がこの店に来るなんて何年ぶりだろう?」
双子の頭を撫でながら首を傾げる実弦。その三人を見ながら
「もう悩む必要がなくなっただけだよ」
何か知っている風なもう一組のでかい双子がどこか意味深に微笑を見せた。
「こんにちはー!いっちーいるー?」
おお、本日二人目の来客とは!今日は稀な日だな!
そして店主のことを「いっちー」と呼ぶということは・・・