過去から今を繋ぐ旅
最早タイトルが意味不明ですね。
次で完結ですので、もう少しだけお付き合い下さい。
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そういえば、最初にさくらに会ったのって五歳くらいの時だったっけ。
その時は、自分の居る世の人たちが殆ど動かないのが面白くなくて遊び相手を探していたんだよね。
それで、気が付いたら何だか変な所に居てさくらに出会ったんだ。
今思えば、あそこは夢に似た空間だったのかもしれない。だって、重力とかを無視したような幻想的で可笑しな景色だったのに、私もさくらも違和感を覚えたりしなかったんだから。
さくらと一度別れた後は、またつまらない日常で、私は度々親の言い付けを破って探検に出ていたんだ。
その時だった、干乾びたよつゆに会ったのは。
私は、退屈していたこともあって結構真剣によつゆの世話をしたんだよね。確か、この時はまだよつゆの翼と体のサイズ比に心配になっていた気がする。
もう一度さくらに会った時に、彼女も私と似ているようで真逆の願いを持っていることを知ったんだ。
「もっとのんびりしたい」と「もっと遊びたい」。どちらも、その世からは少し浮いた願いで、利害が一致した私達は自分の願いを叶えられるかもしれない世に移ったんだ。
さくらのことを忘れてしまったのは予想外だったけど、今は思い出せているのだから良しとしよう。……さくらの居場所が存外私にあっていたから、忘れてしまったのではないかと思う。
しかし、「動き回りたいから」という理由で移った先の世もまた止まってしまったのは、予想外とかを超えて私の運のなさに驚くしかないけど。
止まった世を歩くのに疲れた頃に、私はふと「召喚」と口にしたんだ。もしかしたら、記憶の隅っこによつゆのことが残っていたのかもしれない。思えば、よつゆが私のご飯調達係になったのもこの頃だった筈だ。何せ、よつゆを呼んだ時の私は、彼に初めて出会った時の様に干乾びかけていたのだから。
それにしても、私は全く覚えていなかったのに「恩返し」とか言って態々別の世まで来てくれるなんて、よつゆは随分と義理堅い性格をしているよね。
その後はまたこの世を旅して沢山のことがあったよね。
魔獣と戦ったり、密牙さんに会って、さくらを助けられる可能性を見つけたりして……。今や、世界に挑もうというのだから。
……人生、何があるか分からない。だからこそ面白いのだけど。
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私達は、矛盾を創るための方法を探して、未だに灰色の土地を歩き続ける。あれ以降も、密牙さんはやっぱり何処からとも無く現れてはアドバイスをしたり意見を言ったりと協力してくれている。
今も、密牙さんはのんびりと愚痴を零している。
一度、「そんなに頻繁に現れて大丈夫なのか」と尋ねたら、暇人といわれたと勘違いしたらしく拗ねて宥めるのが面ど……いや、苦労したんだよね。以来、その系統の質問は禁句扱いになっている。
「いやー、ことちゃんたちとお話しするのは楽しいんだけどねぇ~。オレだけどうしてこんな感じなのかなってたまに思っちゃうんだよねぇ~、こればっかりはどうしようもないしぃ」
「……前にも言ったけどさ。私はこの密牙さんだから仲良く慣れたと思っているんだけど」
「その言葉は素直に嬉しいんだけどねぇ~。オレの記憶の始まりって魔獣――同族のさ、モノを見るような目だったんだよねぇ。多分、処分するか否かを見極めるための、ね。……それでさ、オレは出来るだけ怪しまれないように一生懸命に感情を殺してさ。もう、あの目はこりごりなんだよねぇ~。最近は、ことちゃんたちと楽しく過ごしているから余計に。……もう、耐えられないと思う」
語尾を伸ばさない密牙さんは、今までに見たことが無いくらい真剣な表情で。
「……な、なにするのさぁ~!」
私は、思わず背伸びをしてかなり高い位置にある密牙さんの頭を撫でた。よつゆも、同じように(しかし翼を利用していて、少しずるい気もするけど)頭をぽふぽふとリズムをつけて撫でている。
今回も、密牙さんは照れたらしく顔を背けている。
……密牙さんって、何気に結構照れ屋だよね。
「愚痴ぐらいならいくらでも聞いてあげるよ。……それでも、辛いなら一緒に考えようよ」
「ことちゃん、安請け合いはしない方がいいと思うよぉ~?」
「さくらのことだって解決しようとしているんだから今更だよ。……私に、どーんと任せてごらんよ」
「そうそう、僕だってことさんと一緒にいるから巻き込まれるのも慣れっこだしさ。……もう一人分くらい軽いものだよ」
「よつゆもこう言っていることだし。……それにさ、私ってこれでも友情を大切にするって定評があるんだよ? 密牙さんだって、もう私の友達枠に入っちゃっているからね。……あ、拒否権は無いよ? 返品不可だし」
茶化すような口調で内心どきどきしながら言った。
……これで、「友達なんかじゃない」とか言われたら当分立ち直れない自信がある。
「……ありがとう」
まあ、そんなことは杞憂だったようで、密牙さんは撫でられた頭を両手で押さえながら柔らかい微笑を浮かべた。……何となく、これが本来の密牙さんだったのではないかという気がした。




