旅の仲間……?
揃えたタイトルにしようと思っていたのに力尽きました。
……まあ、前話から限界の兆候はありましたが。
底無し沼を越えてから大分経っているが、未だに目ぼしい手がかりは見つかっていない。ただ一つ言えることは、私が見た光が目の錯覚などではなかったということだ。
それというのも、魔獣を倒して石になるのを見届けた後、ほぼ毎回同じような光を見るのだ。
しかも、段々と近付いてきている気もするんだよね……。
「ことさん、お客さんだよ」
よつゆの言葉に顔を上げると、私の視界の半分以上を黒い物体が占めていた。
「本当だね。ええと、今回は……、鴉かな?」
現れた魔獣は、私の知っているものより二回りほど大きいが、その漆黒の体といい恐らく鴉と見て間違いないだろう。
「よりによって、鳥か……」
私の唯一と言って良い、まともな武器の短剣が届かないなんて……。運が悪いね。
「仕方がないね。……召喚!」
段々と期待をするのも面倒になってきた私は、やや気の抜けた口調で言った。
……出来の悪い子ほど可愛いとは言うが、何にでも当てはまる訳ではないらしい。取り敢えず、私は「召喚」にそれを感じたことはない。
「よつゆー、そっちに行ったよ。回収頑張れ」
私も慣れたもので、今日も今日とて変な方向に現れた召喚物へとよつゆを導く。最近は目測だけで正しい指示を出せるようになってきた。
……嫌な慣れだね。
「ことさん、今回はアタリっぽいよ!」
「……本当?」
私は疑わしげな目でよつゆを見ながら、彼からのパスを待った。
よつゆが運んで来たのは、これまた年季が入っていそうな銃。
「私、銃の使い方なんか知らないよ?」
「多分、命中補正とかがあると思うよ」
……確かに、短剣の使い方も最初は分からなかったけど、何となくで使えたし。そういうものなのかもしれないね。
よつゆの意見に賛成した私は、取り敢えず引き金を引いてみた。
「うわわ! ……僕に当てないでよ! まったく、ことさんは」
「戦闘中にお説教は勘弁して……!」
銃から出てきた光が掠ったよつゆはご立腹のようで、私に向かって日ごろの恨みつらみを口にしてくる。
それらを意識の外に追い出して、私は今度こそ魔獣を狙って発砲した。魔獣は辛くもその攻撃をかわした。
今度は反撃だというように一声鳴くと、鴉は私の頭上をかなりの速度で飛んできた。
「……っと、危ない」
頭を下げることで攻撃をやり過ごした私が顔を上げると、鴉が再び突っ込んでくるところだった。
一瞬反応が遅れてしまい、鴉は私の頭の上にとまってきた。
……足の先が頭に食い込んで物凄く痛いんだけど。
私は痛みに堪えながら、自分の頭の方向に向かって再度発砲した。
この至近距離では流石の鴉も避けられなかったようで、頭に食い込んでいた足から力抜けて石になっていく様子を実感することが出来た。
「……誰」
戦いが終わって少し気の抜けていた私は、突然響いた警戒の滲んだよつゆの声に驚いた。
「そんなに威嚇することないんじゃないの~?」
返ってきたのは、何処か真剣みに欠けた声。
顔を上げた私の視界には、鋭い爪と犬歯の覗く口を持った青年が居た。アクセサリーを大量につけた姿に抱いた第一印象は、「無駄にジャラジャラしていて重くないのかな?」だった。
「なにー? 気になる?」
思わず自分のものと彼の爪を見比べて凝視していると、その青年は面白そうな表情で尋ねてきた。
「……それは、まあね」
普通の人間には無いものだからね。気にならない道理が無い。
私の反応に何を思ったのか、彼はいたずらっ子の様な表情になると私達に爪を向けてきた。
よつゆは警戒心を強めたようだが、私は殺意を感じられなかったので、ただその様子を見ていた。
青年が少しだけ表情を真剣なものにすると、彼の異様に長く鋭い爪は、「少しの間切り忘れていた」程度に縮んだ。
「じゃーん、収納もできるんだよねぇ~」
「……」
「……へぇ、凄いね」
私は、青年の期待の眼差しを無視しきれず、取り敢えず持ち上げておくことにした。
「そうだ、自己紹介がまだだったよねぇ。……オレは、密牙。よろしくねぇ~」
唐突に自己紹介を始めた青年――密牙さんの様子に、私達は顔を見合わせた。
……というか、彼、自由過ぎやしないか? マイペースと言えば、聞こえは良いかもしれないけど。
「そっちの名前は?」
「私は、こと。それから、こっちがよつゆ。……よろしく」
「うんうん、ことちゃんによつゆくんだねぇ~。ちゃんと覚えたよ」
「ところで、密牙さん。貴方は何者なのかな? ……基本的に動いている人は居ない筈なんだけど」
「えー? そうだなぁ……」
密牙さんがもったいぶる様に口にした言葉は、私達の予想していたもののどれとも違うものだった。
「キミたちがさっき倒したやつと似たような存在かなぁ~?」
途端に身構える私達に、彼は依然として緩い笑みを崩そうとしない。
「別に仲間だから敵討ちをしよう、とかではないんだよねぇ~」
その時、密牙さんの耳のピアスが太陽を反射してきらりと光った。
……毎回見ていた光は、これだったのか。
納得した私は、世界がこんな状態になっても変わらず眩しい太陽があるだろう方向を振り返った。
「別に、無理に信用しろとは言わないけどねぇ~? とりあえず、今のキミたちに話すことはもうないかなぁ……」
密牙さんは自分の中で何かを納得したのか一人頷くと、私達に改めて視線を向けた。また何か衝撃的なことを言われるのかと思わず体に力が入ったが、続いた言葉は拍子抜けするほどあっさりとしていた。
「じゃあねぇ~」
言うと同時に、密牙さんの姿は見えなくなった。
……なんだろう、嵐のような人だった。
因みに、鴉の話は実話です。
お菓子を食べながら自転車を漕いでいたら、頭にとまられました。……痛かったです。




