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由と花  作者: かっぱまき
2/10

旅の目的



「で、何の話をしていたんだっけ?」


 因みに、先ほど私がとっさに登ったのは滑り台だった。

 今はブランコに腰掛けている。固まっているから、動かないけど。

 一ミリも動かないブランコというのは、なかなかお目にかかれるものではないだろう。

 ……つまり、今私達がいるのは、どうやら公園ということらしい。


「何処に向かっているかって話。でも、ことさんは決まってないって言うし。大体さ……」


 言いながら、怒りがこみ上げてきたらしい。

 このままだと、よつゆのお説教タイムに移行してしまう。

それは勘弁して欲しい私は、急いで話題を変えることにした。


「……まあまあ。私も、よつゆに質問したいことがあったんだよ」


 実は、ずっと前から気になっていたんだよね。


「よつゆは、どうして私に協力してくれるのかな?」


 私の質問に、よつゆは虚を突かれた様な表情になった。


「うーん、君がことさんだから……、かな?」

「……?」

「……まあ、ことさんが覚えていないなら、それでも良いや」


 なかなか気になる単語が出てきたけど、よつゆは「もうこの話題はおしまい」という様子で方向転換をすると辺りの探索に行ってしまった。


 ……私が覚えていないこと? 「あの子」に関すること位しか思い当たることがないけど、よつゆが知っている訳ないし。まあ、大したことではないのかな。



 あの狐の魔獣と戦ってから、今日で三日。

私達は代わり映えのしない土地を黙々と進んでいた。

あれ以降、運良く魔獣との戦闘には至っていないが、何時までその幸運が続くかも分からない。明らかに、辺りをうろつく魔獣の数が増えているということもある。

 因みに、この間の食料はよつゆが何処からか調達してきてくれた。


 ……召喚で狙ったものを呼び出せる筈もない私は、今日も一人でお留守番。


「ぐぬぬ……。どうしてくれよう、この役立たず感」


 体育座りをして呟く私の視界が翳った。


 ……よつゆだったら、こんなに広い範囲の陽光を遮れる筈がない

んだよね。


 恐る恐る顔を上げた私は、見たくないものを見てしまった。

 巨体に似合わないつぶらな瞳が、こっちを見ていた。

 その時、私の胸中を過ぎった内容は、「無駄なフラグを建てるんじゃなかった」の一言に尽きた。


「狐の次に熊とは。随分とこの辺りも賑やかになったものだね……」


 呟きながらも、私はこの状況を打開する術を考える。


 正直、よつゆが居ない状態で「召喚」は使いたくないんだけどなぁ……。

 まあ、そんなことを言っている余裕はないんだけどさ。


「うー、召喚!」


 今度こそは、まともなものを! という私の願いは届かなかった

らしい。

 光は例によって例の如く明後日の方向に……、あれ? 魔獣の顔の辺りが光っている……?


「もしかして、成功?」


 私は、少しの期待と共に魔獣を見守る。


 ――ックシュン!


 その時、少々場違いな可愛らしい音が響いた。


「……」


 くしゃみ……だと?


 「これが、ギャップ萌えか。今回に関して言えば、萌える要素を理解出来ないが」なんて思考が迷走していることにも気付かず、私は立ち尽くした。

 気まずさから自分の足元に視線をやった私の目に映ったのは、白くてふわふわとした羽根。所謂、羽毛だ。

 それを見た私は、何を召喚して、何故こんなことになったのかを瞬時に悟って無言で魔獣さんに合掌した。


「……っと、のんびりしている場合じゃなかった。魔獣には申し訳ないけど、チャンスだし」


 私は、懐から年季の入った短剣を取り出した。実は、これも以前召喚した物だ。

 珍しく「アタリ」の召喚だったんだけど、出てきた場所が私の真上で死を覚悟する羽目になった。


 いや、よつゆが居なければ本当に危なかったと思う。……やっぱり、何処まで行っても召喚は残念な子だった。


「せいっ」


 私は、声と共に短剣を正面――未だにくしゃみをする魔獣に突き出した。ほんの少しの罪悪感に耐えながら。

 短剣は、狙いすましたように魔獣の心臓を貫いた。


 ――ドサッ


 魔獣は、声すら上げずに倒れた。

 ……何故だか良く分からないけど、この短剣は魔獣に絶大な効果があるらしい。

 物凄く硬い筈の魔獣の身体でさえ、易々と貫いてしまうのだ。


 まあ、他のものもほぼ抵抗なく斬れるから、ただ単に切れ味が良いだけかもしれないけど。


 倒れた魔獣から、じわじわと色が抜けていく。

 数秒と経たずに、魔獣はただの大きな石像になってしまった。一度見失ったら、目を凝らさなければ見つけられないだろう程に辺りの景色に馴染んでいる。


 ……これこそが、以前「魔獣がこの現象と関係があるかも」と言っていた根拠だ。


「ふぅ」


 私は、額に浮かんだ汗を拭った。

 ……倒したとしても石になるだけだから辛うじて耐えられているけど、何かを斬る感覚は未だに慣れない。慣れたいとも思わないが。


「……あれ?」


 顔を上げた私の視界の端で、何かがチカッと瞬いた気がした。

 こんな場所に光を反射する物があるとは思えないが、私はそれがどうにも心に引っかかった。


 例え、鏡が在ったとしても石になっている筈なんだけどなぁ……。

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