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34 ストーカーのスカート(爆笑ダジャレ)

MF? 知らない子ですねぇ……

「……僕は、どうしたら良いんでしょう」

 翌日の昼。三葉家。現実逃避をするようにひたすら本を漁っていた寛は、ぽつりとこぼした。

 昨日、有無の告白を聞いてから、ずっと、ずっと考えていた。

 自分は、どうするべきなのか。

 したいようにすれば良い、と言ってしまえば簡単だ。でんきを救いたいし、有無も救いたいし、あわよくば寛自身だって救われたい。みんな元通り、宵闇特急の手のかかっていない状況に戻ったら完璧だ。

 しかし、そんなものは現実味のない、ただの理想だ。夢物語と言って差し支えない。

 寛たちはこの一週間、もう一度宵闇特急に会い、でんきを元に戻してもらうことを目標に探し続けた。きっと、きちんと話せば理解してくれると。こちらの思いを汲み取って、こちらの望む形で願いを叶えてくれると。そう考えていた。

 しかし昨日、有無に、その可能性は否定された。「神様が人間に都合の良いことをしてくれるなど、傲慢な思い込みだ」と。

 全くその通りだと思った。

「玉穂さんの言う通りかもしれないわね」

「……何がですか?」

「宵闇特急に頼るのでなく、私たちが私たちの力で幸せになるべきだって」

 うつむきがちに語る。

「昔、何かの漫画で読んだことがあるわ。『配られたカードで勝負するしかないのさ』って。配られたカードに文句を言って、もう一度山札から引こうとするから、こうやってより悪いカードを引かされるのかもしれないわね」

「それじゃあ、でんきちゃんの体質は諦めるんですか?」

「……あがいた方が、でんきにより深い苦しみを与えることになるのかもしれないわ」

 苦しげに言う。

 それは、たしかに、その通りだ。有無の言うことが真実ならば、今ここで宵闇特急を見つけても、状況が好転するとは言い難い。

「……もう一度、整理しましょう」

 寛はうなずきそうになる心をひっぱたいて、無理やり前向きになる。

 このままでは、真綿でゆるゆると首を絞められてゆくようなものだ。緩慢な死はある種、即死よりもえげつない。

「宵闇特急は、なんらかの基準でもって強い願いを持った人の前に現れ、才能の再分配を通じてその願いを叶える。僕たちが把握している範囲内で宵闇特急が叶えた願いは、僕の『愛されたい』、でんきちゃんの『大人になりたい』、玉穂の『忘れたくない』と、僕の願いをきちんとした形で叶える、の四つ。この中で最後のだけは、他人に関する願いなので少し例外っぽいですね」

「例外っぽいのは、あるいは、二回目だからかもしれないわね。あと一つ二つ事例があったらもう少し的確な判断が下せそうなんだけれど」

「被害者が少ないに越したことはないですよ」

「それはそうね。それにしても、玉穂さんの二回目の願いに関しては驚いたわ。まさか、宵闇特急は他人に関する願いまで叶えるだなんて」

「叶ったとは言いがたいですけどね」

 たしかに寛は記憶にある限り、両親にはとても愛された。優菜という両親の最大の関心がいなくなったことで、その関心が寛に向いたのだろう。そういう意味で、願いが叶ったというのは正しい。

 しかし、当時の自分が大切な妹を失い、その存在を忘れてまで両親の愛を一身に受けたかったかといえば、答えはノーだろう。記憶にはないが、そんなことはわかりきっている。

「僕はそれよりも、でんきちゃんのほうが気になりますね」

「あの子は相変わらずふさぎ込んでいるわ。無理やりにでも日の光に当てたほうが良いのかなとも思うんだけれど、あまり強引に連れ出すのもね……」

 ため息をついて憂う。

「いえそういうことではなくて。……でんきちゃんは大人になる代わりに触れたものの時間を遅くするじゃないですか。結局僕たちはそのことについて『自分の時間が加速する代わりに相手の時間を遅くする』っていう形だって結論つけましたけど、あれ、すごく違和感があるんですよね」

「違和感?」

「はい。……なんでしょう、なんか、こう、うまいこと言えないんですけど、手に触れた相手の時間を遅くするって、すごく違和感がないですか? ほかの、他人に触れられないとか、他人から忘れられるとか、そういう次元とは少し違う感じ。ないですか?」

 寛の問いかけに、しかし瞳は「ううん」と悩ましげに首をかしげる。

「こう、手に触れた相手の時間を遅くするって、たぶん、「口から火を吐く」とか「見つめたものを石にする」とか、そういうレベルの話なんです。それは才能っていうか、もはや魔法や超能力の類なんですよね」

「たしかに、他人に触れられない能力や他人に忘れられる能力というのはないでしょうけれど」

「それと、もう一つ。僕や玉穂の場合、得た才能と失った才能が継続していました。僕は愛され続ける代わりにずっと愛せなくなる、玉穂はずっと忘れない代わりに忘れられ続ける。どちらも『現在進行形』です。でも、でんきちゃんの場合、一瞬で加速して大人になり、その後通常通りの時間軸を過ごしている『過去形』と、触れたものを減速させ続ける『現在進行形』なんです」

「……んー、ごめんなさい、わからないわ。私からしてみたらどれもトンチンカンだとしか思えないもの。結局、五感が一方通行になっているのも御津君だけだし。傾向と対策が一つも役に立っていないわ」

 彼女の愚痴のような言葉を聞いて、寛は脳裏に思い出す。

『願う内容にもよるが、宵闇特急が才能の再分配を行う場合、五感のいずれかの、一方の才能を減らす多い』

 そういえば、瞳の祖父が書いた本にそんなことが書いてあった。寛はその言葉通り触覚の才能を削られてしまったわけだが、今わかっている四件のうち、五感を削られたのは寛の一回だけだ。

 まぁ、サンプルが少なすぎるこの状況では、ある程度偏りが出てしまうのも仕方ない。そういう意味では、でんきに対して抱いていた違和感も、結局のところ「たまたま」なのかもしれない。

 しかしそこで納得しては、ふりだしに戻ってしまう。寛は幼子のように首をぶんぶんと振って、手がかりとなる要素を洗い出し始めた。

 しかし、何度やっても成果は上がらなかった。

「御津君。今日は一旦解散としましょう」

 やがて、そんな寛を見かねたのか、瞳がぱんと手を叩いて提案した。

「同じ場所同じ環境でうんうん唸っているのは、とても非効率的だわ。私も御津君も、少し頭を冷やす必要がありそうだし、ここは少し休んでまた明日考えましょう」

「……そう、ですね」

 苦々しげに首肯する。焦燥に駆られる心と反比例するように、頭が回らなくなってきている。彼女の言う通り一度頭を休めることが必要だろう。

「お邪魔しました。今日は、いろいろ愚痴っぽくなってしまってすみませんでした」

 玄関口。今日一日の反省を込めて謝罪する。

「ううん。昨日、あんなことがあったんだもの。仕方ないわ」

「そういえば昨日、すごい気まずい状態で抜け出してしまいましたけど、あの後何かありましたか?」

「んー、そうね。たしかに、気まずいのは気まずかったわ。玉穂さん、ずっと私に申し訳なさそうにしていたし」

「……なんかもう、ほんとすみませんでした」

 瞳の苦笑に、寛は頭を下げるしかない。

「でも、あの後いくつかお話もできたわ。昔の御津君のお話を聞かせてもらったり、最近視線を感じることについて相談したり」

「普通に親しくなってる……って、視線について話したんですか?」

「ええ。ひょっとしたら宵闇特急がどこかから見ているんじゃないかと思って、玉穂さんもそういう経験がないかなって訊いてみたのよ。……なにかマズかったかしら?」

 寛の凍りついた顔を見て、心配そうに尋ねてくる。

「……いえ。マズくはないです。それで、玉穂はなんて言っていたんですか?」

「『あたしはそういう経験ないです』って」

「へぇ……」

「あと『あ、あたしじゃないですからね! たしかにヒロを三葉先輩から遠ざけようとあの手この手使いましたけど、ストーカーはヒロにしかしてないですからね!』って訊いてもいないのに勝手に弁明していたわ。御津君、ストーカー大丈夫だった?」

 軽く笑いながら述べる瞳の回答に、寛は今度こそ言葉を失った。

 でんきが大人になった日を皮切りに、頻繁に感じるようになった視線。その正体を、寛は一番最初から有無だと断定していた。特別これといった根拠があるわけではない。ただ単純に、彼女以外にストーカーをする動機を持つ人がいなかったからだ。

 だから、視線が寛ではなく三葉家の方に多く注がれていると知った時はかなり危機感を覚えた。有無は一体何を考えているのか、と。何か、危ないことをしなければ良いのだが、と。

 しかし、彼女曰く、視線の正体は有無ではないという。

 一体、これは、どういうことか。この期に及んで有無がまだ嘘をついているというのだろうか。あるいは彼女が本当のことを言っているのならば、では視線の正体は一体誰なのか。

 強烈な違和感。今日に至ってもいまだに感じる視線。その正体は。

「――ッ」

 寛はパンッと太ももを叩いた。

 一つの仮説を見つけた。根拠はほとんどないに等しい。

 ただ、ギリギリ筋が通る。

「……会長さん。すみません、ちょっと、でんきちゃんとお話させていただいても良いですか?」

「……いいけれど、急にどうしたの?」

「少し、確かめたいことがありまして」

 瞳は首を傾げながらも、素直に案内してくれた。

 これまで幾度か前に立った、でんきの部屋の扉。

 この一週間の間、寛はここを開けてもらったことがない。

「でんきちゃん。起きてる?」

「…………御津さんですか?」

 長い沈黙を挟んで、扉の奥から小さく声が返ってくる。

「うん。そのままでいいから、聞いてくれるかな? 今日は少し、僕の方からお話があるんだ」

 返事はない。構わない。寛は、話し始めた。


「まず、結論から言おう。でんきちゃん……今僕と会話している君は、宵闇特急なんじゃないかい?」

時代はHJなんだよ!!!!!!!!講談社でもいいけど!!!!!!どっちのほうがいいのかな!!!!!!!

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