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32 『愛』は生存確率を上げる手段

このお話は有無の独白となります。少しややこしいかもしれませんが、有無がこの地の文の通りにしゃべっていると思っていただければ大丈夫です。

 昔。ヒロ君が小学生のころ。ヒロ君には仲の良い、双子の妹がいた。女の子にしては短い髪の毛が特徴的な、元気な女の子。

 ヒロ君たちは一年前に祖母を亡くした。なんか、よくわからない、難しい名前の病気だった。

 二人とも祖母が大好きだったから、他界してからしばらくは毎晩のように泣いてた。ヒロ君が泣いては妹が慰め、妹が泣いてはヒロ君が慰めた。

 でも、一年もすると、二人とも、泣くことはほとんどなくなった。それどころか、妹は、祖母に関する思い出を次第に失っていっていることに気付いた。

 別にそれは、祖母への愛が薄れていったとか、祖母よりも大切なことができたとか、そういうことじゃない。当たり前に生きていれば、どんな人でもそうなる、当然のこと。

 でも、彼女はそれが、たまらなく嫌だった。

 そもそも彼女は、祖母に限らず、『忘れる』ということ自体に強い恐怖を抱いていた。忘れるということが自分の存在の否定につながることを、漠然と感じていたから。

 忘れたくない。おばあちゃんも、何もかも。そう強く願った彼女は、気付いたら知らないプラットホームに立っていた。

 どこだろう、ここは。不安げにをあたりを見回していると、古臭い列車がやってきた。

 やがてホームに止まると、中から宵闇特急と名乗る神様が現れた。

「あなたの願いは、なに?」

 神様の問いに、彼女は「誰も、何も、忘れたくない」と答えた。

 宵闇特急は彼女に魔法をかけていった。

 最初はどんな魔法なのかわからなかった。でも、一年もすれば違和感はハッキリとしたものになった。

 彼女は完全記憶の力を持ち、その代償としてすべての人の彼女に関する記憶が十日しか保たないようになっていた。

 それが発覚すると、両親は彼女と思い出を作ろうと、躍起になった。週末は必ず遊園地や映画館へ遊びに行った。また、娘と作り上げた思い出を忘れないように日記帳を作り、毎日欠かさずどんな些細なことでも書いた。いっぱい写真を撮って、片っ端からアルバムに貼り付けていった。

 たぶん、大切な娘を忘れてしまうという恐怖を紛らわそうと、必死だったんだろうね。

 結果、お父さんもお母さんも彼女にかかりきりになってしまい、ヒロ君は両親に構ってもらえなくなった。

 それでも、ヒロ君はとても優しい人だから、大切な妹のことをとてもよく気にかけ、一緒に遊んだ。不満なんて、絶対に言わない。寂しいなんて、口が裂けても言葉にしようとはしなかった。

 だって、一番苦しんでいるのは妹なのだから。小学生としては物わかりの良すぎるヒロ君は、いつもにこにこと、彼女を元気づけようと楽しげにしていた。

 でも、中学に上がったあたりで、ヒロ君の心は限界に達した。気づいたら、知らないプラットホームに立っていた。

 翌朝、ヒロ君はイケメンになる代わりに、他人に触れることができなくなっていた。

 学校で孤立し、日に日に元気がなくなっていくヒロ君を、妹は見ていられなかった。元気づけようと、いっぱいお話をした。

 そんな中、彼女はヒロ君から、ヒロ君が宵闇特急に出会い、触角を一方通行にされてしまったことを聞いた。

 彼女は怒り狂った。大切な兄に何をしてくれてるのかと。あまりにひどい仕打ちではないかと。

 そして、同時に、悟った。宵闇特急が叶えようとした、兄の願いを。

 自分が両親の愛情を深く受けすぎているがゆえに、孤独になってしまった彼が、心の内で、強く、強く、強く、強く、『愛されたい』と願っていたことを、理解した。


 兄の触角の一方通行が、自分のせいであることに、気付いてしまった。


 深くショックを受けた。自分の記憶が一方通行になってしまった時と同等か、あるいはそれ以上に悲しく、辛かった。最愛の兄が、自分のせいでずっと苦しんでいて、自分のせいで宵闇特急の毒牙にかかってしまったから。

 だから、一つの決心をした。

 何としてでも宵闇特急をもう一度呼び出し、兄の願いを正しく叶えさせてやる、と。それが、せめてもの贖罪だと。

 彼女は宵闇特急を探し始めた。いっぱい調べて、考えて、宵闇特急に出会うためにあらゆることをした。

 やがて、不幸にも、宵闇特急に再び出会うことに成功した。

 開口一番、言った。

「ヒロの願いをちゃんと叶えろ」

 そうしたら。

 彼女に関する記憶が、両親と、ヒロ君から全て綺麗さっぱり消え、代わりに彼女には豪運の才能が与えられた。




「ヒロ君の妹の名前は、御津優菜。今は、玉穂有無って名乗ってる」

 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああしまったあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!

 本作はこのお話を書きたくて書き始めたと言っても過言じゃないくらいなんですけど、この部分、もともと二人称で書くつもりだったんですよ。『二人称小説』でググって頂ければわかると思うんですが、要は『あなた』や『君』が視点者なんです。

 一度二人称小説ってものを書いてみたくて、「おっ、ここできるやーん」って思って一番最初からそのつもりで書き進めてきていたんです。で、いざ二人称『君』で書こうと思ったら、強烈な違和感……。

「しまった!!!!有無ちゃん、寛のこと『ヒロ君』としか呼んでねえ!!!!」

 というアレで、仕方なく二人称小説化は断念……orz 公募に出す際にはここより以前の部分でちゃんと『君』っていう呼称を使って、二人称小説化したいです。そもそも公募に出す時に書き直す時間があるかっていうとかなり微妙な感じになってきましたけど。どうしてこうなった。

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