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28 お金がいっぱい愛がいっぱい

そろそろサブタイトル思いつかなくなってきた(最初のころからずっとこんな感じ)

 結論から言うと、極めて普通の卵雑炊が出てきた。

「……なんか、こう、なんだろうな」

 寛は一口食べて、うまくまとまらない思考のままに言う。

「これだけフラグを乱立させておいて、全然まずくない、かといって特別美味しいと目を輝かすこともできない普通の料理を出されると、コメントに困るな」

「普通においしいって言ってよ!」

「普通においしい」

「ありがと!」

 投げやり気味に言って、ふんっとそっぽを向く。

「いや、ごめんごめん。ほんと、ちゃんと美味しいんだよ。ただ、正直、もっと劇物みたいなものが出てくるか、玉穂の指にいっぱい絆創膏が貼ってあるかってのを想像してたから、何事もなくてさ。驚いてるんだよ」

 有無のきれいなままの指を見て言う。

「あたしが電子レンジ使ったら爆発でもすると思ってたの?」

「思ってた」

「うわひっどい。じゃあいいよ今度の料理は隠し味に洗剤突っ込んであげるから」

「ごめんって。今度玉穂の部屋掃除してあげるから許して」

「お、やったぜ」

「こいつまさか、最初からこれを狙ってた……!?」

「ヒロ君、この本って面白い?」

 有無は話題をそらすように、無造作に一冊、近くに積んであったオカルト系の本の山から取り出し尋ねてきた。

 一瞬、ドキリとした。

 例の、宵闇特急についての伝奇だった。

「んん。ああ。別に、面白くはないかな。なんか、宵闇特急っていう響きが格好良かったからとりあえず買ってみただけだし」

 彼女が宵闇特急の本を手に取ったのは、ただの偶然だったのだろう。寛の説明に「ふーん」とあまり興味なさげにその本を置いた。

「ヒロ君、オカルト好きなの?」

「少しね」

「どんなところが好きなの?」

「どんなって、難しいな……。存在したら面白いなー、とか、そんな感じ?」

 寛は数秒間悩み、とりあえず模範解答でかわした。

 そもそも寛はオカルトというやつに対しまったく興味がない。神様というやつに至っては、宵闇特急のせいで大嫌いだ。すべて死んでほしいとすら思っている。

 ただ、宵闇特急について、有無に説明したくはない。説明したところで信じてもらえないと思うし、語りだすと愚痴が止まらなくなりそうだし、何より、彼女を宵闇特急に関わらせたくはないからだ。

 これ以上自分のような人は増えてほしくない。それが玉穂有無という人物ならばなおさらだ。

 だから、嘘に嘘を重ねてなんとかごまかすしかない。

 と、そんな風に考えていると、有無は少し顔をうつむけて、小さくつぶやいた。

「存在しても、おもしろくないと思うけどな。神様なんて」

 その言葉の真意は。尋ねようとしたところで、彼女ははっと顔を上げて、慌てたように言った。

「ごめんごめん。今のなし。ノーカンノーカン」

 明るい苦笑いを浮かべて手を振る。

「それよりヒロ君。高そうな本がいっぱいあるけど、これ全部買ったの?」

 先の言葉や表情について、いろいろ尋ねたいことはあった。きっと、過去に何かあったのだろう。それを知りたいという思いは、ある。

 しかし寛には、知識も、力も、思考力も、何もかもが足りない。彼女の事情を知ったところで、力になれるとは思えない。よけい傷つける可能性だってある。

 だから、結局、深く尋ねることはせず、彼女の作った話題に乗ることにした。

「んん。買ったりもらったりね」

「へえ。全然見たことない感じの本ばっかりだけど、どこで売ってたの?」

「地元の本屋でね。個人経営のところだからか、結構マニアックな本が置いてあるんだ」

「面白そうだね。今度連れてってよ」

「いいけど、隣県だし、面白くないよ?」

「大丈夫大丈夫。お金だけはいっぱいあるから、隣県くらいだったらひとっとびだよ」

「うわ自慢か?」

「ほら、だからあたしと付き合うと、いっぱいお金使った遊び方ができるよ? ディズニーとか行き放題」

「彼女のお金でディズニーとかクズの所業だな」

「ヒロ君がどんなにクズになってもあたしは受け入れるよ」

「重っ。なんなんだその無償の愛は。マザーテレサかよ」

「たしかに、街を歩いているとよく『ああっ、あの子はキリストの生まれ変わりよ!!』って言われるし、マザーテレサと名乗っても許されそうなとこあるね」

「ねーよ」

 言って、二人で笑う。それからもくだらない会話をつづけながら、寛は彼女の作った雑炊を平らげた。

 最後まで普通に美味しかった。

有無ちゃんは基本的に「やればそこそこできるけど面倒くさいからやらない」っていう子なのです。天才型というほどではない。

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