25 願いは口にしないと叶わないと言うが、口にした願いばかりが叶うとも限らない
ぜんかいまでのあらすじ
でんきちゃんが、おとなになっちゃった!!
寛はまず瞳に連絡し、簡単に事情を説明してから駅へ来てもらった。幸い近くまで来ていたらしい彼女は、ものの2、3分程度で到着した。そして乗ってきた自転車を放り捨てて駆け寄り、大人となったでんきを力いっぱい抱きしめた。
「でんき! 大丈夫? 身体痛くない? 宵闇特急よね? 何されたの? 痛くない?」
「……お姉ちゃんの腕が痛いよ」
まとまりのない言葉を矢継ぎ早に繰り出す悲痛な声に、先まで泣きそうなのをこらえていたでんきが、小さく苦笑いしながら言った。取り乱した人は、自分より取り乱した人を見るとかえって落ち着くものなのだ。
「ああっ、ごめんねでんき。でも、大丈夫なの? こんなに急に成長して、関節とか、筋肉とか、痛くない?」
「大丈夫だよ。ぜんぜん、何ともない。でも、これじゃあ学校には行けないね……。どうしよう……」
「そう、ね。……でんき。何があったのか、教えてくれる?」
柔らかく、優しく尋ねる瞳の言葉に、でんきは首肯した。足元に視線を落とし、数瞬の沈黙。言葉を選ぶように話し始めた。
「あのね。その。すごく、悔しかったの」
大人になってしまった目に宿る感情は、悲しみか、怒りか、動揺か。少なくとも、普段の彼女の明るさは一切感じられない。
「悔しくって、悔しくって、どうしようもなくて。それで、外に出たの。ちょっと頭を冷やそうと思って」
ぽつり、ぽつりと言葉を重ねる。悔しい、という強い言葉とは対照的な、弱い声音。
何がそんなに悔しかったのか。寛には察しがついたが、瞳は怪訝そうに首をかしげた。その様子から察するに、おそらく、数時間前にでんきが話してくれた内容を、ついぞ瞳に話しはしなかったのだろう。
「すぐに戻るつもりだったの。御津さんに迷惑かけちゃだめだから、御津さんが寝ている間に戻ろうって。ちょっとだけだって思って、出かけたの」
でんきは両の手でお茶をぎゅっと握りしめ、言葉を続ける。
「でも、なんとなく、星空を見ながら歩いてたら、いつの間にか知らない場所にいたの」
でんきの言葉に、寛の背筋が凍った。あまりにも身に覚えのあるシチュエーションだったから。
「街灯もなくって、真っ暗だったの。だから、近くにあったプラットホームに向かって歩いたの」
でんきはたった数時間の間に大人になってしまったのだ。だから、その原因について、確信に近い予想はできていた。
「プラットホームに立ってぼーっと周りを眺めてたら、列車がやってきたの」
ただ、目をそらしていた。
信じたくなかったから。
「宵闇特急って、書いてあったの」
でんきが、宵闇特急に出会ったなど。
それからの話は、概ね寛の経験したとおりだった。寛と違った点は、でんきは素直に願いを口にした点と、起きたら駅のベンチに座っていた点だった。
「でんきちゃん。……何か、身体に異常ない? 僕みたいに他人に触れられないとか、においがわからないとか」
「えっと、とくには、分からないです」
尻切れに言う。寛の時もそうだったが、他人と関わって初めてわかる才能であった場合、なかなかそれが判明し辛いのだ。
「そっか。まぁ、どっちみち、これからどうするかってのはいろいろ考えないといけないし、ゆっくり探していこう」
未だ俯いたままのでんきを元気づけるように立ち上がり、明るく言う。
「それじゃあ、もう明るくなりそうですし、帰りましょうか」
「……ええ、そうね。むやみに落ち込んだところで状況は改善しないものね」
本当はもっとたくさん尋ねたいことや確かめたいことがあるのだが、でんきには気持ちの整理を付ける時間が必要だ。
「おやすみなさい。会長さん。でんきちゃん」
プラットホームを出たところで別れ、寛は自分のアパートへの帰路を歩いた。その間、誰かから見られている感覚が離れなかったが、気づかないフリをして部屋へ帰った。
その日の午後3時過ぎ。瞳から電話がかかってきた。
『でんきの才能がわかったわ。……手に触れた相手の時間を、減速させるわ』
やー、こんなに間が空いてしまうとは思ってなかったです。東京に遊びに行っていたのが最大の理由ではあるんですけど、しかし書く内容もかなり苦戦しました。このパートは結構何度も書き直しましたし。誰だよあとは一直線とか言ったバカは……。
とりあえず明後日からまた3日間くらいpcのない生活に入るので、今日明日で一気に進めなきゃですね……。




