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23 子供がちょっとした怪我で泣くのは、それが死に繋がり得るから

更新遅れました。ま、研修行ってたから、仕方ないね。つーか就職したらマジで小説書けなくなりそう……。一生大学生やっていたい……。

 翌日、土曜日。夕方。

『ああ、よかった。御津君の家にいたのね。ごめんなさい、でんきが迷惑かけて』

 トイレの中、電話越しに、瞳の少し疲れたような声が届く。

「いえ、でんきちゃんとても行儀が良いですから、全然迷惑じゃないですよ。どうせ僕もヒマだったので、ちょうどよかったです」

 キッチンから聞こえてくる幼い歌声に耳を傾けながら話す。

『ありがとう。それで、でんきはなんて言ってるの?』

「お姉ちゃんには連絡しないでくださいって」

『あらあら。それは、あんまり長話するわけにはいかなさそうね』

 大体予想はついていたのだろう。特に傷ついた様子もなく、冷静に述べる。

「それで、どうしたら良いですかね。会長さんや親御さんさえよければうちに泊めても良いですけど」

『んー。そうね。できれば、そうしてくれると助かるわ。でんきも喧嘩して家を飛び出した手前、今日中に帰るのは気まずいと思うし』

「わかりました。それじゃあ、また何かあったら電話します」

「ええ。ありがとう、連絡をくれて。今度何かお礼するわね」

「いえ。お礼なら昨日いただきましたから」

 それでは、と言って電話を切る。

 ふぅ、と息を吐いて、少し状況を整理する。


 ちょうど二時間ほど前だ。まだ空が明るいころ。でんきが、寛の部屋を訪ねてきた。

 浮かない顔をしていた。

「すみません、今日、御津さんのお家に泊ってもいいですか?」

 手ぶらで、開口一番、そうお願いしてきた。

 その瞬間、なんとなく事情を察した。おそらく、家出というやつなのだろう。そして家出をする理由も、まぁ見当はつく。

 はたしてこれは、どうするべきか。やはり事情を訊いて、それから判断するべきなのだろうか。

 そう思い、でんきを見た。

 瞬間。寛は彼女の願いを聞き入れることを決めた。

 真剣な目をしていた。

 三葉でんきという少女は、まだ小学六年生だが、もう小学六年生だ。彼女は持ち得る選択肢の中で、ここが最もマシだと判断して来たのだろう。それは、でんきの眼差しからよくわかった。ここで「帰ったほうが良い」などと言うのは、彼女の否定に他ならない。でんきなりに考えて選んだならば寛はそれを支持したいし、その選択が正しかったことを証明するべきだと思った。

「でんきちゃん。上がって。お茶飲むでしょ? 今日暑いもんね」

「……ありがとうございます」

 だから、できるだけ平常通り対応する。彼女が気を使わないで済むように。

 そうして寛が何も訊かないでいると、やがて、おずおずとでんきが切り出した。

「……すみません。実は、お姉ちゃん……姉と喧嘩しまして……」

「うん」

「それで、その……えっと……」

「家出してきちゃった?」

「……はい」

 視線を床に落としたまま、肯定する。

 11歳としては小柄な身体が、より一層小さく見える。

 こういうときに、何を言ったら良いのか。15歳の寛にはとても分かりそうもない。

「……そっか。うん。それじゃあ、でんきちゃん。ごはん買いに行こうか。今晩は何が食べたい?」

「……オムライスがいいです」

 顔を上げて、少し明るい顔で言う。

「じゃあ、買いにいこっか。あと、せっかくだからでんきちゃん用の包丁も」

 元気づけるように笑んで言う。

「はい。……あと、すみません。あの、……姉には、連絡しないでください。わたしがここにいるって」

「うん。わかった」

 言って、でんきの頭をぽんぽんと撫でた。


 結局、それから二人で買い物に出かけ、食材と子供用包丁を購入した。その間、でんきと瞳の間にあったであろういざこざには一切触れず、くだらないやりとりばかりした。そのおかげかでんきは徐々に笑顔を取り戻して行き、今では鼻歌を歌いながら料理をしてくれている。

 とりあえず、表面だけかもしれないが、それでも平常通りに戻ってくれたのは助かった。おかげで、ある程度昨日と同じように接することができる。

 また、無事瞳にも連絡をすることが出来たし、差し当たっての心配事はなくなったと言って良いだろう。できれば瞳とでんきの間のいさかいもなんとかしたいが、今すぐどうにかできることでもない。デリケートな問題だし、でんきが自分の意志で話してくれるのを待つ方が良いだろう。

 とりあえず今は、でんきと楽しく過ごすことを考えれば良い。

 そう結論づけ、レバーを『大』の方へ回した。何も放出されていない洋式便所に大量の水が流れる。

 トイレから出て、キッチンで鼻歌を歌うでんきに声をかける。

「でんきちゃん、どう? にんじん、切れた?」

「切れました! 私の指も少し!」

「うわっ、血が出てる! 今消毒と絆創膏持ってくるから、水で血を流しててて!」

「そんな、大した怪我じゃないですよ」

「いいから!」

 慌てて部屋の隅の棚から消毒液と絆創膏を取り出し、でんきの手当てをする。

「ちょっとしみるけど、我慢してね」

「大丈夫です! あ痛!」

「全然大丈夫じゃなさそう!」

「よ、よゆーです!」

「なかなか頼もしいね。っと、はい。これで大丈夫だよ。ごめんね、やっぱり包丁は危ないし、ちゃんと見てればよかったね」

「トイレは仕方ないですよ。それに、こうやって失敗してうまくなっていくんだって聞きました」

「うん。その通り。それじゃあ、続きやっていこうか」

 誰から聞いたのか。それを訊くことはせず、料理教室を再開した。

このパートマジで何も描いてないので本当は続きまで一緒に描きたかったんですが、それやるとたぶん文字数がちょっと多くなってしまうので、おとなしく分割することにしました。一応一パートにつき3000字までっていう縛りで書いているので。

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