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22 〇〇さんの第一印象を教えて? って質問、分かりやすい身体的特徴でもない限り『そもそも印象に残ってない』からやめてほしい

ブクマ数や評価は一向に増える気配しないですが、フォロワーで読んでくださる人が増えてきて、とても嬉しいです。読んだら僕に見える形か僕がエゴサしやすい形で呟いて頂けるとさらに嬉しいです。

「お邪魔しました」

「今日はありがとうね、何から何まで」

 結局あれから、料理を作って食べて皿洗いして、でんきと一緒に風呂掃除をして、でんきの宿題を手伝った。でんきはいろいろ家事を覚えたいらしく、洗濯ものを畳みたがったり掃除をしたがったりしたが、宿題に時間を取られてできず、悔しげにしていた。よく周囲が見えている聡い子だと思うのだが、いかんせん勉強という奴は苦手らしい。こればっかりは才能の問題だから、仕方ない。

 まぁ、寛にとっても、あまり他人の家の家事に手を出すわけにもいかないし、瞳のものが混ざった洗濯物を畳むわけにもいくまい。宿題を手伝うくらいがちょうど良い距離感なのだ。

「いえ、楽しかったです。ごはんもごちそうになりましたし、こちらこそありがとうございました」

 寛が軽く頭を下げると、瞳の横に立つでんきが笑顔で尋ねてきた。

「今度御津さんち遊びに行っていいですか?」

「うん。もちろん。ミツカンの工場のすぐ近く、青い屋根のアパートの203号室に住んでるから、好きな時に遊びに来るといいよ」

「やったー!」

 両手を挙げ、ばんざーいと言って喜ぶ。

「それじゃあその時は私もお邪魔しちゃおうかしら」

「ぜひぜひ。おもてなししますよ」

 冗談めかして言うと、瞳も小さく笑った。その笑みは、聖人君子のソレでもなく、でんきに向けるモノとも少し違う。初めて見る顔だった。

 寛はその驚きを胸の中にしまって、手を振った。

「会長さん、でんきちゃん。おやすみなさい」

「おやすみなさーい」

「おやすみなさい。玉穂さんによろしくね」

 帰ろうと踏み出した脚を止めて、瞳を見る。

 彼女はきょとんと首をかしげる。有無の名を出したことに、特別な意味はないのだろう。しかし、寛は逡巡した。

 今日一日、ずっと訊きたかった事。相談したかった事。それについて、言うべきか、否か。

 悩んだ末、口を開く。

「……会長さん。有無……玉穂について、どう思います?」

「え、どうしたの? 急に。告白でもされたの?」

 寛は思わず息をのんだ。

 いや、まさか、本気で寛が告白されたとは思っていないのだろう。今のは、こういう、改まった口調で尋ねられた時の模範回答だ。

 ただ、偶然とはいえ、ぴったり当たっていたから、少し、動揺した。

 寛はなんとか平静を装って、笑う。

「……はは。そんなことあるわけないじゃないですか。初めて話したのは一昨日ですよ?」

「冗談よ。冗談」

 瞳は表情を普段通りの聖人君子笑顔に戻して、笑う。

 それから、すっと笑みを消した。

「……そうね。私はあんまり他人を評するのが好きじゃないんだけれど……。んー。御津君。今から私が言うこと、玉穂さんに限らず、誰にも言わないでね」

「はい。もちろん」

 即座にうなずくと、瞳はそれからも数瞬悩ましげに沈黙。ようやく口を開いた。

「……玉穂さんは、とても明るくて、素敵な人だと思うわ。でも、何故かはわからないのだけれど、妙に印象が薄いのよね」

「学年も違いますし、まだ入学して二ヶ月ですし、そんなもんじゃないですか?」

「ううん、たしかにそうなんだけれど、それでも変なのよ。玉穂さんくらい目立つ子だったら、いくらか印象に残っているはずだもの。生徒会長という立場上、何かしら関わりがあってもおかしくないし、一つくらい彼女に関して話せるエピソードがあっても良いと思うの」

「ないんですか」

「ええ。全く。『なんか明るい子』っていう印象くらいしか、彼女について話せることがないわ」

 それは、寛にはにわかに信じられない話だった。だって、彼女は、男子トイレに入ってきて個室の上から直接覗いてくるような人だったから。笹の葉を両手に持って隠れているつもりになったり、迷彩服で寛をストーキングするような人だったから。出会って三日目で脈絡なく告白してくるような人だったから。

 少なくとも、寛にとって彼女は、15年間の人生で間違いなく、一番印象に残っている人だ。

「……分かりました。ありがとうございます。変なこと訊いてすみませんでした」

 とはいえ、それを口にしたところで、追加の情報が得られるとも思えない。だから、感情をつぐんだ。

「いいえ。それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 きょとんと見守っていたでんきに再び手を振って、寛は三葉家をあとにした。

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