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20 友情の無い友人関係は成立しうる

このパートは時間軸が昨日に戻っています。少しややこしいのでご注意ください。

 昨日、初めて瞳の家へ上がり、書斎で情報収集をした後。帰ろうとしたところで瞳に引きとめられた。

「晩ごはん、食べて行かない?」

「いえ、さすがに悪いです。食材も余ってますし、帰ります」

「ううん、気にしないで。むしろ、食べていってほしいの。うち、母子家庭で母が夜遅くまで働いてるから、基本的に妹と二人きりなの。それも楽しいんだけれど、やっぱり少し、寂しいのよ。だから、たまに友人を誘って一緒にご飯食べたりするの」

 一緒に食べてくれた方が助かるのよ。そう続いた彼女の言葉に、寛はううんと首をかしげる。

 相変わらずの聖人君子笑顔で言うものだから、「うまいこと言うなぁ」と感心してしまった。

 しかし寛は、そういった社交辞令の類を好まない。古き良き日本の伝統など面倒くさいだけではないか。そう思っている。

 だからか。少し、声に棘が入った。

「それならご友人を誘ったらどうです? こんな得体のしれない後輩じゃなくて」

「あら、御津君はもう友人のようなものよ。私の聖人君子外の顔を知っているのだから」

 知っているって、一番最初の時以来ほとんど聖人君子の顔を崩していないじゃないか。そう思ったが、それを言うのは憚られた。

「なるほど。そういう意味では僕も、僕の触覚の一方通行を知っている会長さんを友人と言って良いのかもしれませんね」

「あらあら。期せずして友人が増えてしまったわ。これはお祝いしなきゃ」

「それじゃあケーキでも作りますか」

「あら、いいわね。妹も喜ぶわ」

 ただお互いの秘密を握っているだけの関係に友情などあるはずもない。15歳の寛でも、その程度の事はわかる。

 秘密を握りあう二人の間に存在するのは、打算的な関係だけだ。……本来ならば。

 ここで一つの疑念が、首をもたげる。本当にそうなのか、と。

 そもそも瞳は、寛に聖人君子外の顔を見せる必要がなかったのだ。

 初手で寛の潔癖症が嘘であること、触覚が一方通行であることを知っている旨を話せば良かったのだ。その上で情に訴える頼み方をすれば、寛は情に流されしゃべりだしたかもしれない。あるいはそうならなくとも、彼女が知っているという事実が脅しになり得るという発想に至り、勝手にしゃべりだしただろう。そうすれば彼女は聖人君子であるという体を保ったまま、寛から情報を引き出すことが出来たる上に、「寛の体質を黙っておく」という貸しまで作ることが出来たのだ。

 彼女の考えが読めない。可能性として考えられる中で、『瞳が底なしの良い人』という線が最も濃厚である辺りに、かえって不気味さを覚える。

「まあ、無理に、とは言わないけれどね。食材を悪くするのも良くないし。でも、できれば食べていってもらえると助かるわ」

 人の好い笑みを浮かべて予防線を張る。ともすれば逆に誤解されかねないほどの気遣い。そこまでされて断るのも気まずく、寛は、その好意に甘えることにした。

 結局、瞳のことはさっぱりわからないが、とりあえずひとつだけハッキリとしている。彼女との間にある関係が、決してまったく友情などという温かいものであるはずがない、ということだった。こんなに気を遣わせる友情があってたまるか。

 そういう経緯で、昨日すでにでんきとは会っていた。会って、一緒にご飯を作って、ホットケーキを作って、食べて、宿題を手伝った。

 でんきは明るくて人懐っこくてそれでいて礼儀正しい、誰もが理想とする子供だった。寛が潔癖症装甲を解いていたのもあって、すぐに打ち解けることができた。

 そうして良い気分で今日を迎え、LINEで「またうちに来ない? でんきがまた一緒にご飯作りたいって言ってるの」というお誘いを受けたのだ。

本当はこの後の日常パートもまとめてうpしたかったんですが、書くのにちょっと時間がかかりそうだったのと、まとめると字数が結構多くなりそうだったのでとりあえずここまで。

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