18 何も考えずにしゃべっても受け入れてくれる人っていいよね
短いです。繋ぎです。許してください。
短い付き合いだったが、有無といるのは楽しかった。彼女と過ごした数日を思い返しながら一夜を明かした翌日。平常通り早朝、誰も登校しない時間帯に学校への道を歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「おはよっ、ヒロ君。元気ないねぇ」
有無だった。
「えっ。……えっと」
「ん? どうしたの?」
あまりにも平然と、普段通りの笑顔を浮かべる有無に、寛のほうが戸惑ってしまう。
「いや。うん。な、なんでもない。おはよう」
数瞬の逡巡を挟んで、かろうじてそれだけ言う。
有無は満足げに笑って、寛の横を歩き出した。
その、あまりに普段通りの振舞いに、昨日の告白は実は夢だったんじゃないか、とすら思えた。
「……玉穂ってさ。兄弟とかいるの?」
とはいえ、「昨日僕に告白した?」と尋ねる勇気などあるはずもない。だから、とりあえず、ひょっとしたら双子の姉妹がいて交代で学校に来ているのでは……、という漫画設定の可能性について尋ねてみた。
「ん、お兄ちゃんが一人いるよ。今は住んでるとこ違うけどね」
そんな漫画にありがちな設定ではなかったらしい。もっとも、彼女が本当のことを言っているか否かを確かめる術はないのだが。
「そっか。兄弟がいると楽しそうでいいよね。僕一人っ子だから、昔から結構さみしかったんだ」
「兄弟はねー、いいよー。ヒロ君も将来子供を産むときは、きちんといっぱい産んであげてね」
「僕が産むわけじゃないけどね」
「そこはほら、あいぴーえす細胞とかいうやつで」
「たぶん全然違うよ」
くだらない話をしながら二人で学校へ向かう。何の身にもならない雑談が楽しい。彼女のこの、フられた翌日でも平然と会話できるあっけらかんとした性格は良いなぁと、寛はしみじみと思った。
もちろん本当は、いろいろ訊きたいことがある。君は今何を思っているのかとか、本当に僕のことが好きなのか、とか。それに、フったことに罪悪感だってある。有無の事は全く嫌いじゃない。どころか、むしろ好意的に思っている。そうでなければ、休み時間のたびにおとずれてくる彼女を拒まないはずがない。むしろ、できる事ならば、寛だって付き合いたいと思っている程度には、彼女を好んでいる。ただ、この体質になってからずっと縛られている、呪いのような思考が、それを阻む。
結局、何を言ってもこの楽しい空間、関係性が壊れてしまいそうで、それはやっぱり嫌で、だから、意味のあることは、何も言わない。意味のない彼女の言葉に、意義の無いツッコミを入れる。それが一番楽しいし、一番無難なのだ。
なし崩し的にこの関係を続けていくことになるのかな、と、そんなことを思った。




