10 「ありがとう」と「ごめんなさい」は似て非なる言葉
寛が宵闇特急にまつわる自身の過去を話し終えると、瞳は数瞬の間をおいて、どこかいたわるような目をして寛の過去をねぎらった。
「……へぇ、そんなことが。大変だったのね、御津君」
「ええ、まぁ、いろいろと」
中学時代の最後の一年についてはほとんど話を省いたのだが、ある程度想像はしてくれているのだろう。彼女は尋ねようとしなかった。進んで話したくない寛にとって、助かる対応だった。
「それでさっき御津君は、私が宵闇特急を希望だと言ったとき、険しい目をしていたのね」
「険しい目でしたか?」
彼女の納得したような声音に、寛は顔をしかめる。
平静を装い、あらゆる感情を身体の中にしまいこんだつもりだったのだが、できていなかったのだろうか。
「少しだけ、ね。ほかの人が見たら気づかないくらいよ」
「そうですか」
彼女の言葉にとりあえず一安心する。やはり聖人君子ともなると、他人の感情には敏感になるのだろう。他人の目を気にしすぎるあまり直視できなくなってしまった寛には、少し羨ましかった。
「……でも、そうなると結局、御津君にも宵闇特急との出合い方はわからない、ということなのね? まだ何か隠していることはない?」
「宵闇特急との出会い方がわかってたら、僕はとっくに呼びつけて一発殴ってやってますよ。ていうかまだ会う気でいるんですか」
目を丸くする寛だったが、瞳はきょとんとして答えた。
「もちろんよ。私にとって、宵闇特急は希望なんだから」
「どうして今の話を聞いてまだ希望だと思えるんですか……」
「まぁ、いろいろあるのよ。……そうね。御津君にだけ情報を出させるのも不公平だし、こちらからも出すべきよね」
独り言のようにつぶやいて、勝手にうんうんうなずく。
「御津君、これからうちに来ない?」
瞳の、唐突なお誘い。23時をとっくに回ったこの時刻に「うちに来ない?」とは、なんと不用心か。寛はどう反応したものか、数瞬だけ逡巡して、茶化すように言った。
「終電なくなっちゃいましたからね」
「今日、両親いないの……じゃなくて、御津君は徒歩通学でしょう」
なぜそこまで知っているのか。尋ねようかとも思ったが、おそらく「生徒会長だもの」という答えが返ってくるだろうと予想がついたため、口を閉ざした。
そうして反応に困っていると、瞳は腕時計を見やって、「あ、」と口を開けた。
「でも、時間が時間だものね。あんまり遅くなってしまうと、明日の授業に差しさわりが出てしまうわ」
「そ、そうですね」
「御津君、明日の放課後、なにか用事はあるかしら?」
「いえ、何も」
「それなら、明日の放課後、うちに来てくれるかしら。場所はまたあとで教えるから、LINE交換しましょう」
「わかりました。会長さん、部活終わるの何時ごろですか」
「部活は明日は休むわ。だから、帰りに直接寄って行ってくれれば大丈夫」
スマホを取り出して尋ねる寛に、瞳は当然のように言った。
「ごめんなさいね。本当は校門前あたりで待ち合わせして、うちまで案内するのが筋なんだけれど、部活を休んで御津君と一緒に帰っているのがバレると、どこにどんな影響が出るかわからないから」
「え、別に部活終わるまで待ちますよ? 宿題でもなんでも、暇つぶしならいくらでもありますし」
「ううん、心配しないで。もともと明日は休む予定だったし、それはもう伝えてあるの。だから、大丈夫よ。ありがとうね、気にしてくれて」
「……そうですか」
本当に大丈夫なのかいまいち心配だったが、彼女がそう言うのだ。寛が突っかかっていくところではあるまい。彼女の言葉が真相であったならばそれで良いし、嘘であったとしても彼女の厚意に甘えるのが筋だろう。
寛は数秒間の沈黙の間にそう結論付け、うなずいた。
「それじゃあ、会長さん。また明日」
「ええ。今日はありがとうね。それと、ごめんなさい」
彼女は苦笑いを浮かべて、軽く頭を下げた。
寛は曖昧に笑んで、言った。
「おやすみなさい」
ようやっとこの場面終わりです。字数にすると大したことないのに、やけに長く感じた……。無駄に分割しすぎたかなぁとも思うんですけど、まとめるには長いし、難しいですね。
特に執筆スケジュールとか決めてないけど、このペースだと明らかに月末に間に合わないのでどうにかしなきゃ。
せっかくの夏休みなのに昼過ぎまで寝て飯がないし風呂もはいらなきゃだけどだるくて動きたくないから夕方までぐだぐだして~とか阿呆みたいな生活送っているので、もう少し人間らしい生き方をしたいです。




