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11.〈ランダスの蒼竜〉

―――――

「それで、その後どうなったんだ? そのままだと死んでるじゃん」

「俺自身よく分からん。どうも山の麓で倒れていたのを搬送されたらしいが、そこまで歩いた覚えも無い」

「ええー……そっからがオモシレーのに」

―――――


 あの後、気がつけば治療院のベッドの上だった。命に別状は無かったものの傷は深く、丸一週間意識が戻らなかったらしい。あれで死ななかったとは不思議なものだ。

 折れた槍と共に握りしめていた青い鱗が、俺があのドラゴンを倒した証だとされた。それも取った覚えは無いのだがな。だが相討ちになったと言っても、誰も信じてはくれなかった。

 唯一ライラ様だけが、

「ロイドが格好良かったから、エルデン様が助けてくれた」

と、冗談なのか本気なのか計りかねることを言ってくださった。一国民でしかない俺に、国の守護神が目を掛けてくださるわけがないだろう。でも神の恩恵としか言いようのない結果だから、それ以来一層の感謝を込めて祈りを捧げるようになった。


 不可解なことは多々あるが、結局俺はこの一件がきっかけで〈ランダスの蒼竜〉などという大層な二つ名が付けられた。俺自身は釈然としないまま、尊敬の眼差しを向けられるのは居心地が悪くて仕方が無い。まあ、もし近衛騎士団に居たらすぐ動くことは出来なかったということで、一般兵団配属への非難を以前ほど口煩く言われなくなったのは幸いだったが。


―――――

(……わたしは知ってる。でも内緒。ロイドは生きてる。今もここに居る。それで充分)

 衝立の反対側で、寝たふりをしていた少女は密かに笑みを零した。別段隠しておく必要は無いのだが、いつだって傍に居てくれた彼女の騎士に、秘密の一つや二つ持ってみたいのだ。

(わたしはちゃんと教えた。分からなかったのは仕方ない)

ただの説明不足だという現実は、気づいていても放置である。



 鬱蒼と木々の生い茂る山中。そこを支配する痛いほどの静寂を破ったのは、新たな足音だった。現れた老人はしゃがれた声で呟く。

「……人の子よ。お主の覚悟、お主の祈り、確かに聞き届けた」

 視線の先には血溜りが広がっている。そして、赤の中に沈む濃紺が二つ。

 老人はドラゴンの骸から鱗を一枚剥がすと、もう一方の前に立った。血を流し続ける青年の命の灯は、今にも消えようとしている。何かを求めるように伸ばされた手に、老人はそっと触れた。

「どうか未だ幼き巫女と共に歩んでくれ。重い使命を背負わせてしまった我々でも、いずれ出会うだろう神の子とも異なる、徒人(ただびと)として、傍で支えてやってくれ」

皺だらけの手から柔らかな緑の燐光が溢れ出た。光は青年の身体を駆け巡り、零れ落ちた命を注ぎ直す。それと対比するように、周囲の植物からみるみる色が失せていく。やがて光が消え、青年の指先が一度動いたことを確認すると、老人はその手に先ほどの鱗を握らせた。

「若き竜の武を讃え、ランダスの親たるエルデンより祝福を。……ライラよ、お主の騎士を迎えてやりなさい」

 この場にはいない巫女へ声を掛け、老いたる神は姿を眩ました。青年の横たわっていた地面には、広がる血と枯れた草花だけが残されていた。

 青年が山の麓にて援軍に発見されたのは、その直後のことである。

―――――


 ドラゴンの鱗? 俺のハルバードに括りつけてあるのがそれだ。亡骸自体は軍で処理されたが、この鱗だけは勲章代わりに貰ったんだ。

 ああそういえば、約束はもちろん果たした。レーベン山に咲いていたものの中で、殊更綺麗なものを選んで渡した。造花も一緒にな。


 これで俺の昔話は終わりだ。とんだ長話になってしまったな。いい加減寝て明日に備えなければ。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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