第七話 突然ですが
音楽準備室で先生に言ったことは、嘘ではない――ただし、それが寝不足の要因の百パーセントではなかったという話である。
では、なぜ私が眠れていないのか。
(それは、先生関係)
基本的に、先生と生徒である以上、やはり公然にはできない関係であるので、秘密にしているのは当然である。
ただし、前にも述べたよう、先生はモテるのである――…非常に。そして生徒たちは、青春を送りたいお年頃。この二つの条件から想定される出来事といえば――無論、先生の噂である。
(大学時代は遊びあるいていただとか、美人な社長令嬢と付き合っていたとか、同僚の先生とホテルに行っただとか…)
高校生の好奇心とは恐ろしいものである。それなりに友達もいて、地味に学校生活を過ごしている私の耳にまで届いてくるのだから――川村充先生と鈴木麻衣子先生の恋人説のように。
二人が一緒にホテルに入ったところを目撃した生徒がいるという噂が流れたのは、去年のちょうどこの時期である。
この噂を聞いた時、そりゃ大いに動揺した。だって、ホテルに行ったとされる日は、確かに私は先生と会っていなかったのだから。どうしようか悩んだ。先生に直接訊こうかと思った。
だが、一方は生徒に人望のある大人の女性、一方は平凡の平凡の大人になりきれない女子高校生――どちらを取るかなんて言わずもかな。私だったら真っ先に麻衣子ちゃんを取る。
もし、そんなことを言われたら大ショックを受けるくらいには、先生のことが好きだった私は、それとなく先生に探りを入れたのだ。
「先生って、麻衣子ちゃんと仲良いの?」
「麻衣子ちゃんって…ああ、麻衣子のことか?」
「へえ~、呼び捨てしちゃう仲なんだ…」
「やきもちか?」
「はっ!違うし」
「そんなこと言いながら、耳真っ赤だぜ。これが噂のツンデレってやつだな」
「~ッ、いいから!話逸らさないでよ!」
「…っく。本当にお前飽きさせないね~、面白いわ」
「――ッ」
「ああ。はいはい。分かったから、機嫌直せって。麻衣子はな、俺の大学の後輩。だから、普通に仲いいよ。もちろんト・モ・ダ・チとしてな」
「やけに友達を強調するね」
「だって、はっきり言っとかないと、お前勘違いしそうだし。それに、麻衣子とそんな関係に思われることだけは絶対に避けたいからな」
「?」
「ま、また機会があれば話すさ」
といった具合に、先生と麻衣子ちゃんの恋人説は、先生によって完全否定されたのである。
全てに答えが出て、先生が完全なシロになったというわけではない。私が臆病だったから、尋ね方が曖昧だったのもある。
ただ一つ――私が好きになった人は、こういうことで器用に嘘を付いて二股するような人でないことは確かである。だから、私は私が好きになった人を信じることに決めたのである。
そして、このことを通して私は決めたことがある。
私はこの恋を守りきる――これは、女の戦いである。
そして、私は翌日、ある人から呼び出しを受けた。