第六話 普通に雑談してました
「はあ~、ほんっとにあの人は…」
しばらくしてから、ごにょごにょ何かを言いながら麻衣子ちゃんは入って来た。
麻衣子ちゃんこと、鈴木麻衣子先生は、誰もが癒されるような笑顔と声が印象的な先生だ。素晴らしい美人というわけではないが、麻衣子ちゃんの周囲を明るくする雰囲気や生徒を思いやる心が好ましく、この学校で人気ナンバーワンの女教師である。もちろん、私も好意的に思っており、親しみやすい良い先生だと感じている。何せ着任して二年目と教師陣の中で一番若いため、鈴木先生と呼ぶよりも、麻衣子ちゃんと呼ぶ方がしっくりくる。ほとんどの生徒がそう呼んでいるのを、本人は、生徒に舐められていると感じているらしく、毎回毎回訂正が入る。
「さあ、尾ノ上さん。あなたを呼び出したのは、もちろんこの頃の授業態度のことよ。今、川村先生から聞いたけど、受験でプレッシャーを感じているんですってね――そんな時はね、少し休憩しましょ」
笑顔で言い切った麻衣子ちゃんは、何やら水道の近くで作業を始めた。
「あの…何をしてるんですか。麻衣子ちゃん?」
「麻衣子先生!」
(そんな目をしてむきになって言われても、可愛らしいなとしか思えないんだけど…)
「尾ノ上さん、頑張りすぎているみたいだから、頑張っているご褒美においしいお茶でもしようと思って。ちょうどおいしいケーキをもらったところなの」
「お説教しないんですか?」
「え?だって、川村先生にお説教されたんでしょ?私はどこかの先生のように意地悪じゃないし、褒めて伸ばすタイプだしね」
「……」
ま、こういう先生である。というわけで、お説教という名のお茶会タイムを満喫して、私は部屋を後にしたのである。
こんな放課後を過ごしたおかげで、私の嵐が吹き荒れていた心の中も、風が止まり少し落ち着いたようである。
家に帰り、ご飯を食べ、お風呂に入り、そこそこ勉強してから、いつも通りベッドに入る。
そして――…。
いつものように眠れない夜を過ごした。