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私と先生と愉快な日常  作者: 月嶋ゆう
【過去編①】世にも奇妙な猫物語
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第十六話 触らぬ神に祟りなし


 わたしの瞳には、まるで赤子の手を捻るかのように嬲られている全身傷だらけの猫又と、ソレを追い詰めている火の鳥の化身と火の蛇神の化身の姿が映し出された。


「さっきの異様な鳴き声は『朱雀スザク』のモノだったのか。ああも簡単に猫又が防戦一方だなんて…」


 先ほどまで対戦していたわたしだからこそ分かるが、確かにあの猫又のレベルはわたしのソレを軽く超えていた。

 だが。


「これでも俺だって一族の修行を受けた身だから、防御と治癒にはある程度の自信はあるが、あそこまで高位の異形相手に渡り合えるかと問われれば、俺にはムリだろうな」



 わたしよりも陰陽師としての力が格上である充がそう評するほど、優斗は強いのだ。



 そう。

 猫又が決して弱いのではない、優斗がツヨスギルのだ。



「天才だからな、優斗は。『先祖返り』ってやつだよ。十二天将を召喚できる力なぞ、優斗以外持っていない。アイツが本気でやれば、きっとこの京都はひとたまりもないだろう」


 優斗は人の身でありながら、その力はバケモノ並みと言ってもいいほどの強大なものなのだ。


 はっきり言って、桁外れの力だ。


 だから、我ら一族は、優斗を「先祖返り」と結論付けている。

 それゆえ、優斗には幼い頃から様々な試練が降りかかっていたが、「星斗の力が彼に優しく働きかけ、人々も自分自身も優しさと幸せで包まれますように」と両親が願い、名付けたように、優斗は多くの壁を乗り越え、その力を以ってして人々と自分自身に安寧をもたらしてきた。

 

 しかし。


「なあ、充。これは少々やりすぎではないだろうか…まるで、辺りが地獄絵図になっているかのようだ」

「ああ、俺も感じていたんだが…これは、やべェ」

「ああ、このままじゃ、本当に此処はひとたまりもないのデスガ…」

「今日の優斗は何かおかしいなと思っていたが、あれは相当キレてるよな……やっぱり、麻衣子が関わっていたからか…――麻衣子の御魂は喰われることなく、傷一つなかったが、麻衣子自身が狙われ、命が危険にさらされたことに変わりはない。ここ最近の行方不明事件は、恐らくコイツの仕業だろう。俺たちみたいな能力者や『若い女性』の御魂っていうのは、バケモノたちにとって極上なものだ。特に、麻衣子の魂は、きっとヤツらにとって相当魅力的に感じただろう……ただ、手を出そうとした相手が『麻衣子』だったってことが、アイツにとって運のツキだったってことさ」

「ッて!そんな冷静に分析している場合じゃないだろう!優斗の顔を見てみろ!何故か生き生きしている。ウウッ、見ているだけで寒気が…これは魔王が降臨している!このままいけば、此処は…いや、この京都は壊れてしまうのだぞッ!」

「とはいっても、この優斗の暴走を止めようと思ったら、俺の命がいくつあっても足りないし…唯一止められそうな人物は眠ったまんまだしな」


 チラッと充は、結界の中にいて未だ目覚める気配のない麻衣子を見た。


「本当にどうするのだ!このままでは万事休すではないか!」


 わたしたちが頭を抱えていた時、いきなり充の張った結界を突き抜けるほどの強い、新たなる気配が全身を貫いた。


「―――ッッ!」



 この妖気は、それこそ猫又とは桁外れである。



 充も感づいているようで、わたしたちの周囲には緊張感が走った。


(新たなる敵か、それとも…)


 このピリピリした空気の中、それを意にも介さないような、この場にはそぐわない、のんびりとした柔らかな声が耳に響いた。



「――これ以上はやめてくれないかな。このままでは、この京の地は崩れ果ててしまう」



 突如出現した彼は、優斗の肩に手を置いて、少し困った顔をして言った。



「貴方は…」

「もう一度言うよ。これ以上はやめてくれ。僕はこの京の地を――…何よりこの知恩院を壊されるわけにはいかないからね。知恩院は僕の先祖が恩恵を受けた大切な場所だから」

「……なるほど。その姿、その力…。貴方はかの有名な濡髪童子の子孫というわけですか」

「流石だね、僕の正体を一瞥しただけで見抜くなんて……やはり、かの高名な陰陽師の一族、安倍の血を継ぐ者といったところか…――否、君はあの『安倍晴明』の『生まれ変わり』だから、かな」

「貴方にもこちらの事情は筒抜けというわけですか」

「まあ、これでも永い時を生きているから、ね。色々な情報が僕の耳に入るんだよ」


(何故、あの人が、優斗は『安倍晴明』の『生まれ変わり』である、と……それはともかくッッ!!)


「ねぇ。あの娘を救う……君の目的は達したんでしょ?なら、この後は僕に任せてくれないかな?もちろん、アイツを葬り去ることは約束するよ――…君の力は巨大すぎる。もうこの知恩院が耐え切れないレベルに達しているからね」



「どうしてここにいるんだ!尾崎さんッ!!」



 そう、優斗の側には、いつものように誰かには必ず一度は騙されていそうな、人の好い顔をした、ほぼ毎日顔を合わせる青年の姿があったのだ。





 ようやく出てきました、彼。

 ここまで、長かった…。


第十六話 別名「触らぬ魔王サマに祟りなし」



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