第十一話 来年の事を言えば鬼が笑う
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自分の心の整理がつかなかったわたしは、どうしてもこの感情を誰かに聞いてほしくてスマホを取り出した。
もちろん、大学から出て一時間も経っていないことだし、あの幼馴染サマたちと連絡は取れるだろうが、彼らに話したところで大笑いされるだけなのは分かっていたから、その選択は端っからナシだ。となると、残る選択肢はただ一つ。
ダメ元で、只今バイト中の麻衣子に電話をかけてみると、予想外にワンコールで出てくれた。
どうやら、バイト先の喫茶店のマスター(御年六十歳)が、ぎっくり腰になってしまったらしく、今日から一週間ほど店は臨時休業となったらしい。
喫茶店のマスターにとっては大変不運なことだが、こうして麻衣子に今の心境を聞いてもらえたわたしにとっては何と幸運なことか!
全てを話し終えたわたしに対して麻衣子が言ったことが、先の言葉になる。
「やっぱり、そうだよな。わたしは知らないうちに尾崎さんのことを好きになっていたんだな」
「いや、むしろ、普通に好意を持ってもおかしくない流れでしょ。毎日のようにお家へ行ってたのは知っていたけど、まさか、仕事の帰りを待って、一緒に夕飯を食べるくらいまでいってたなんて―――それで付き合ってないと言われた方がビックリだわ」
「……」
「ま、とにかく、直接会って話しましょう。美味しいご飯でも食べながら、ね。明ちゃん、結局、夕飯まだなんだよね?わたしも丁度練習のキリがいいし、ここらで終わりにするから。尾崎家に行ってたなら、鴨川の方に来てくれないかな?いつもの場所にわたしはいるから。そこで合流して京都駅の方にでも行こう!」
「分かった。わたしは駅に向かって歩いていたから、あと五分くらいでそっちに着きそうだ」
「じゃあ、あとでね」
電話を切ったわたしは、麻衣子が待つそこへと少し歩調を早めて向かった。
麻衣子に思いの丈を聞いてもらったからか、先ほどより心に整理がついたわたしは、足取りが心なしか軽い気がする。
(やはり、持つべきは意地悪な幼馴染ではなく、優しい友達だな)
わたしは、尾崎恩という人が好きだ―――今、素直にそれを認められる。
簡単に騙されそうで、簡単に絆されそうで、簡単に利用されそう……て、これではダメだ!どんなにお人よしそうで……て、これも変わらない!!まあ、とにかく。
あの人は本当に心根の優しい人で、側にいると、こちらまで温かい気持ちにさせてくれる、まるでお日さまのような人だ。わたしは、確実に、彼に惹かれている。
(あの女の人のことは気になるが、まずは、尾崎さんに尋ねてみよう)
わたしは、わたしの目で見て、わたしの耳で聞いて、わたしの心で感じたことを信じる。
まだ、わたしは何も聞いていない。一歩を踏み出していないのだ。
今、わたしはスタート地点に立ったばかり。
迷わず駆け出そう。
きっと、彼ならそんなわたしを受け止めてくれるはず。
もし、当たって砕けたら、麻衣子に骨は拾ってもらおう。
(わたしは、わたしらしくやっていこう)
物事というのは、見方次第で、感じ方が変わってくる。大切なのは、全てを悲観的に捉え悲劇のヒロインとなるのではなく、少しでも前向きに捉え未来を真っ直ぐ見つめていくことである。
悔しいことに、このことを、わたしは、あの幼馴染サマたちから学んだ。
だから、わたしは、何だかんだ言って、あの幼馴染たちとの縁を切ることができないのだ。
そんなことをつらつら考えながら歩を進めると、鴨川に架かる「七條大橋」へと辿り着いた。
橋の上から麻衣子の姿を探すと、向こう岸に見付けることができた。
わたしは、すぐにスマホを取り出して連絡をしようとした、その時。
麻衣子が一人ではないことに気付いた。
(あれは、誰だ?)
遠目からはよく分からないが、夕日に染まる金髪を視界に捉えることができた。おそらく、若い男だろうか。何やら、麻衣子に話しかけている。
麻衣子が嫌がるそぶりを見せていないことから、どうやら観光客か何かの外国人に道でも尋ねられているのだろうか。
この京都は、日本でも有数の観光地だ。それは、多くの外国人を京の町で見かけ、道案内など、何かしら話しかけられることなど日常茶飯事だ。
だから、わたしはそんなに警戒せず、スマホをしまい、このまま合流しようと考えた―――その刹那。
わたしは目を疑うような光景に、全ての機能が停止したかのような衝撃を受けた。
何故なら……――先ほどまで、麻衣子と外国人が立っていた場所に、二人の姿はなかったのだから。
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急いで現場に向かい、まるで神隠しのように、忽然と消えてしまった友達を必死に探したが、一向に見付けることができなかった……。
今は、夕方、日暮れ時―――〈逢魔が時〉と呼ばれる時間帯である。
ようやく登場人物が揃い、ようやく恋愛っぽくなってきたというのに……何故だろう。何故、こんな展開に―――…。




