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私と先生と愉快な日常  作者: 月嶋ゆう
【番外編】私と先生と愉快な日常
16/41

【検証】 二人のお付き合いの件について

遅くなりましたが、番外編をアップしました。次作については、少しずつ書き進めているところです。春辺りに投稿できたらいいなと思っています。

 とある休日。


 私は先生の家に来ていた。

 勿論、先生は自立しておられる立派な社会人であらせられるから、セキュリティー万全のマンションに一人暮らしである。


「ねえ、先生」

「何だよ」


 目の前にいる先生はゆっくりと視線を上げた。


「私、ずっと思ってたんだけど……」

「勿体ぶるな。簡潔に言えよ」


 先生の目が細められた。


「あのね」


 私は先生の瞳を見つめて――。





「もうイヤ!数学なんて消えてなくなればいいのにッ」





 それはそれは、この世の終わりを垣間見たような悲嘆の声をあげた。





 

 本日、土曜日。快晴。まさにお出かけ日和。


 なのに、なぜ私は勉強しなければいけないのだろうか――いや、勉強などしなくてもよいではないか!何だか切なくなってくる。


 何故、数学というものが存在するのか……足し・引き・かけ・わりができれば十分生きていけるではないか!それなのになぜ、こうも捏ねくり回した難しい公式だの何だのがあるのだ!しかも数学とあるように『数を学ぶ』のだからXとかYとか関係ないだろ!

 そもそも…!!


 パコン。


「いい加減にしろ。そんなに勉強する気がないなら帰れ」

 何とも間抜けな音が響くとともに、先生の鋭い視線とともに、厳しいお言葉が降ってきた。ちなみに先生は、私の真正面で教材研究とやらを立派にこなしている。


(こんな休日にまで仕事を持ち帰ってするなんて真面目だよなあ――口は悪いけど)

 先ほどから先生は「ハァ」とため息をついたり私には絶対理解不能な数字だらけの分厚い本と睨めっこしたりしながら次の授業のノートを作っている。

 こういう先生の姿は尊敬に値する――どんだけボロボロに言われても、だ。

 大事なことなので二回言った。


 というのも、これまでの私と先生のやり取りは、私の都合のいいようにカットされている――主に私の精神衛生上のために。

(ふむ。これは、私の先生に対する自己防衛反応が出たのだな)


 正しくは、以下の通りである。

「ねえ、先生」

「何だよ。こっちは忙しいんだから、手間取らせんなよ」

「私、ずっと思ってたんだけど……」

「勿体ぶるな。簡潔に言えよ。この俺の貴重な時間を費やしてるんだからな。あ~、マジで五年目だからって仕事増やしすぎ。これ」



 頑張っている先生には悪いけど、やっぱりこんなにいい天気なのに勉強なんてやる気が出ない、あまつさえ「数学」なんて気が滅入るだけだ。



「ハア~、やる気出ないな…」

 うな垂れ机に体を伏せた私に呆れた視線が寄越される。


「なら、そんな桜ちゃんにとっておきの情報をくれてやるよ」

「へ?」

「もし、この課題があと一時間以内にできたら、お前が行きたがっていたお出かけに付き合ってやるよ。まあ、ドライブになっちまうがな」

「ホント!」

「さあ、できるかな?」

 先生の言葉にテンションが上がりすぎた私は、ニヤリと、悪そうな顔をしていた先生に気づかなかった。





 先ほどとは打って変わって、かなり集中して課題に取り組む桜の姿が目に映った。

(あいつは集中さえすれば苦手な数学もそれなりにできるんだよな――ま、集中するのに時間がかかるタイプだが…それにしても)

 あの豹変ぶりは傑作だったな。さすが、餌をまいてやれば勢いよく食いついてくる。面白れェ。ただ、あんなに喜ぶ桜の顔を見られただけで、この後まだ残っている仕事を今夜遅くまでしなければいけなくなったことなど、どうでもよくなってしまう。


(ま、馬鹿な子ほど可愛いっていうしな)


 結局自分は何だかんだであの娘に甘いのである。そして、そんな自分も悪くないと思うのである。




【結果】

 甘々。

 主に先生が。



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