第十四話 衝撃の事実が発覚しました
「嵐が去った…」
「ねえ、先生」
「あ!ごめん桜、ほったらかしにして…」
「忘れてたのね!ヒドイわ!」
「あのなあ」
「一回言ってみたかったの、こういうセリフ……それよりも優斗って誰のこと?」
「ハア…絶対、俺、お前に振り回されているよな……将来、尻に敷かれんのかな」
「何か言った?」
「いいえ。保科 優斗――俺の親友。小さい頃からの付き合いだ。ま、幼馴染ってわけだな。んでもって、麻衣子の本当の名前は『保科 麻衣子』」
「え?『保科』?麻衣子ちゃんの名字は、『鈴木』だよ?」
「結婚してんの。んで、麻衣子の夫が優斗」
「おっ、夫おぉー!!!」
「うるせっ」
「ま、麻衣子ちゃんって結婚してたの?!」
櫻高校仰天ニュースだ!
クラスの男子たちの残念そうな顔が目に浮かぶ。
「ああ。優斗の仕事が忙しくて中々式が挙げられなくてな…そんで、いい加減、我慢の限界に達した優斗が去年、籍だけ入れたの。ハア、マジであのお騒がせカップル。仕事のせいで麻衣子に会えなくて、暴れだした優斗を止めるのに俺、大変だったんだぞ。何とか優斗をホテルに詰め込んで、そのホテルに麻衣子を連れて行って、婚姻届まで用意して…」
ハァ~、と先生はまた溜め息をついた。どうやら、その時のことを思い出しているらしいーー眉間にしわが寄っている。
「…てことは…」
(あの噂の真相はそういうことだったんだ)
「どうかしたか?妙に嬉しそうな顔して」
「ううん!何でもない」
「ふ~ん、ならいいけど」
「あれ?でも、何で名字違うの?」
「何せ、急な結婚だったからな…麻衣子が優斗の婚約者であることは一部の者の中では周知の事実なんだが、優斗の立場上、きちんと正式に発表しておかないと、後々面倒になるし……もし、麻衣子に危害を加えるような輩が現れたら大変だからな――主に狙ったやつ側の命が。ま、そこら辺のこと、全て解決して周囲をがっちり固めて式を挙げるまで、結婚は秘密にすることになったんだ。というか本当はそんな大層な理由じゃなくて、俺には優斗が周りをがっちり固めて、麻衣子が絶対逃げることができないようにしているためだと思うけど。麻衣子も大変なヤツに捕まったよな」
「なぜ、先生は、その優斗さんを怖がってるの?親友なんでしょ?」
「アイツの麻衣子への溺愛ぶりはヤバいからな。麻衣子が俺と同じ職場に本当にたまたま決まった時、あいつ笑顔で『ねえ?充。麻衣子がキミと同じ学校に決まったんです…麻衣子のことくれぐれもよろしくお願いしますね。万一、麻衣子に手を出すような輩がいたら命がないと思え』ってどっちの命だよ!とか、かなり慌てたのは記憶に新しいよな……俺、親友なのに……爽やかな笑顔で脅してきやがった……。それに、桜も覚えてるだろ?四年前の日本の経済危機」
「うん!確か、『空白の半年』だよね。長らく不況にいた日本経済がある企業によって支えられてたんだけど、四年前の十二月から五月の間、安定した業績を上げていた企業が、急に業績を悪化して過去に類を見ない不況になりそうになったんだよね?」
「よく覚えていたな」
「何ですか、その心底感心したみたいな顔は……私だってあれだけニュースになってたのに忘れるわけありません!世界恐慌の再来か!とまで言われてたんだよ。ま、一ヶ月後の六月から八月にかけての間で急に業績が元に戻るどころか、以前よりもうなぎ登りのように業績を上げていったから大変な事態にはならなかったんだよね」
「ああ。それで、桜。その企業の名前は覚えているか?」
「もちろん。ホシナでしょ。何てたってこの御上市を拠点としてる保科グループの企業だもの…て!!」
「お!珍しく察しがいいねえ」
「珍しくは余計よ!それよりも、まさか!」
「ああ。お察しの通り、優斗は日本のトップである保科グループの跡取りであるとともに、ホシナグループの副社長だ。優斗は秀才だからな、あいつの不調はまんま企業の不調に繋がってしまう。当時、優斗は麻衣子とすれ違ってな、優斗と麻衣子は離ればなれになってしまったんだ。そしたら、あんなに凄い手腕を発揮していた優斗が取り乱して、仕事が手に付かなかったらしい……それで、業績がどんどん落ちた。ま、その後は麻衣子とも上手くいき、結婚までしているから、今では全くもってあのような状況には陥らないと思う……あの時の国のお偉いさん方の取り乱しようは面白かったな――ま、これが『愛の力』とでも言うのか、〝ふざけんな〟って感じだけどな」
「……」
保科優斗さんが仕事できなくなっただけで、日本の経済傾くなんて…どれだけ力もってるの――てか!
声を大にして言ってもいいだろうか―――否、言わせてもらおう。
(一人の力だけで傾くな!日本!!)
次で最終話です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。最後までよろしくお願いします。




