第十二話 こうして一件落着
ピンポンパンポン。
ちょうどタイミングを見計らったかのようにこの空気にそぐわない、気の抜けた呼び出し音が校内に木霊した。
「秋野麗子先生。校長室までお越し下さい。繰り返します。秋野先生。校長室までお越し下さい」
ピンポンパンポン。
しばらく秋野は茫然としていたが、ゆっくりと動き出し、無言で音楽室を去って行った。
「ちょっとやりすぎてしまったかな。でも、尾ノ上さんだけでなく、私も我慢の限界だったのよね。校長には次の職を紹介していただけるよう手配しておいたから、次は心を入れ替えて頑張ってほしいものね、秋野先生には」
「麻衣子ちゃんって先生なんだね」
「えっ、それどういう意――」
「桜」
「へ?」
「今回は――」
(あっ、ヤバッ。怒られる……)
私は思わず目を瞑った。
「よく頑張ったな」
「!」
「ただし、こんな無茶するな。俺を頼れ。お前が退学届を貰いに来たと、進路の榎から聞いた時は、さすがに焦ったぞ」
「だって…」
「ん?」
「自分で何とかしたかった。そうしたら、私、一歩でも先生に追いつけるような気がしたから…」
「あのな」
顎に手を掛けられ、上を向かせられる。
先生の綺麗な切れ長の目が視界に飛び込んできた。
「年のことはどうしようもないだろ。俺だって、お前と同じ年齢だったらって思ったこともあるぞ。俺はお前が憧れているようなデート一つやってやれないからな。でも、こんなこと考えてもしょうがないだろ。ないない尽くしになっちまうんだから。だけど、それでも俺たちはお互いをパートナーとして選んだ。だから、俺たちは俺たちのペースで進んでいけばいいんだ。無理にお前が焦って大人になろうとしなくていいんだ。お前のペースで進んでこい。俺はそれを側で見守るのが楽しいんだ。だけど、お前のその素直さや思いやりに心が動かされることがあるんだよ。何気ない一言とかな――だから、俺はお前を手放せない。今の飾り気のない、大人じゃないお前に魅力を感じているんだよ」
「先生……」
「だから、桜。焦るな。お前のペースでやってこい。いつでも俺はそれを受け止めてやる」
「すごい自信だね」
「何たって俺だからな」
「自信過剰」
「今夜、覚悟しとけよ。俺に隠しごとをした罪は重いぜ」
「唯我独尊」
「桜、愛してる」
「――…充、大好き!」
「あのぉ、そろそろ私のことも思い出してくれると嬉しいです」