~第二章~
「やっと終わった」
短く言葉を発したのは、藤野薫だ。
「やっとって・・・まだ20分くらいしか経ってないよ?」
茜音は呆れながら薫に言う。
「20分は俺にとって長い」
「・・・・・・」
返答する気のなくなった茜音は自分の席に着く。
そして、二人専用のサボリ用中庭に行く浩央と薫を見届けて、教室全体を見回し始めた。
「・・・・・・・中学生・・・かぁ」
考えたことはあったが気にはしてなかった。
みんなといるだけで楽しく、ずっと続くと心の中で期待してた。・・・・・・・だが、それもあと何年かで終わろうとしている。
進学するのは大人に近づいていることだと思って今まで苦と考えたことはなかったが、この五人の中の一人と二人きりになる運命が近づいていると思うと気が重くなってしまった。
「なに悩んでるの?」
海翔に聞かれ、どう説明しようかと一瞬迷う茜音だったが、馬鹿馬鹿しい悩みだと思い、「なんでもない」と答えた。
「・・・・・それよりさ、今朝の女子だけど・・・誰だったの?」
「んー・・・あ、あの人たち」
軽く教室を見渡して、例の女子たちを見つけると指差した。
「同じクラスだったのかぁ・・・」
見覚えは、もちろんある。
この学校の人数は少ないから、同じ学年の人たちは全員覚えていた。
「暁美恵子ちゃんだよ」
「あぁ、あの三位内に入るほどの美人っていう・・・」
「覚えてなかったの?」
「覚えてたけど、僕は茜音以外に興味ないから」
「なにそのしれっと口説くの・・・」
「あ、口説いてるってわかった?茜音鈍感だから気づかないと思ったんだけど」
「中学生にでもなればわかるって!」
「じゃあ、小学生まで分からなかったの?」
「なんでそうなるわけ!」
海翔のドSぶりに少々腹を立てたが、それよりも今朝なんであんなことされたのかを考えることにした。
暁美恵子と言えば、学校一・・・いや、世界一香月梓馬を慕っている人物だと言っていいだろう。バレンタインデーとなれば高級な材料を使った手作りのチョコレートを梓馬に渡していた。
そのチョコレートの表面には「愛してます」だ。
茜音はその堂々たる台詞に感心してしまったことがある。
「彼女、自分が世界一美少女とかって言ってたよね・・・・」
「あー・・・やけん梓馬に一番好かれてるってあれ?」
海翔の言葉に春陽が追って言う。
「そうそう、そんなことあるわけないのにねー」
「どっちかっつーと梓馬は誰にも興味ないからな」
海翔と春陽の久しぶりに仲の良い姿を見てなぜかうれしく思ってしまう気持ちを無視して、茜音は頭の中で今朝の動機を考えた。
(つまり、梓馬にいつも親しくしている私に嫉妬しての行動だったってこと?)
そうとしか考えられないと茜音が考えていると海翔が茜音の考えを読み取ったのか、付け足して言った。
「小学校のころは子供だったからそこまで気にしてなかったんじゃない?茜音は恋愛とかするタイプじゃないし。」
「う・・・・それは否定できない」
茜音はこの五人からしか恋人を選べないと知ってから、極力男子をそういう感じで見ることがなくなった。
「だけど、中学生になったらさ。そろそろ本格的に五華の中から相手選ばないといけないでしょ?だから梓馬を選ばせないために何かするつもりだったんだよ。―――――例えば」
「例えば?」
どこか嫌な雰囲気を海翔から読み取った茜音は聞き返した。
「例えば、梓馬を相手に選んだら五華の中の誰かを殺すとか・・・ってね」
茜音はその言葉を聞いた瞬間、鳥肌を立つのが分かった。
暁美恵子と言えば、気に食わない相手を何かしらの方法で貶めたという話もある。
「まぁ・・・その場合、自分たちじゃ殺せないのは分かっているから男を使ってくると思うけどね」
「そうだな。暁美恵子は男子からすごい支持がある。俺等の中の誰かからいじめられたとか言ったら男どもは即殺しに来るだろうな」
「そんな・・・!」
茜音の心配した顔に海翔と春陽はいじわるそうに笑うと、言った。
「心配しないでよ。なんのための五華なの?」
「自分自身守れない奴が茜音を守れるわけないだろ?」
「つまり、僕らはそこらへんの男子と違って心配されるほど弱くないってこと」
「誰かを殺すとか言われても気にすんな。なんなら殺してみろって言ってみな?」
「あ、でも・・・梓馬を相手に選んだらって話でしょ?逆に選ばないって言ってほしいな」
「ま、とにかく!俺等はやわじゃないから気にすんな!」
「うん、ありがと」
どこか不安な気持ちが消えない茜音は二人の言葉を信じることにした。
もし、誰かが殺されると言われたら自分はどう答えるんだろ・・・と茜音は考えるが、なにも思いつかなかったし、不吉なものを感じたため即考えることをやめた。
「そだ。帰ったら入学祝いしよーや」
「あ、それいいね」
「春陽ってば、ごちそう目当てでしょ」
「なんでそうなるん!?」
「だって、いつもそうじゃない」
「ば、ばれたか・・・」
「やっぱりそうだったんだね」
さっきの重い空気は嘘のようになくなり、いつしかいつもの明るい空気が流れていた。
茜音はこの中学の3年間は何事もないようと心の中で願うのだった――――――――。