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妖華姫  作者: 莉那
4/7

*3*

「ふんふふんふふ~ん♪」

 と、鼻歌混じりのスキップしながら茜音は教室を出た。

 その後ろ姿をあるグループの女子達が睨むような目つきで見ていたのを知らずに――――――――。



「・・・・・・・んー。なんていうのかなぁ・・・・。あっこうだ!!‟初めてのおつかい″!!」


 今の自分が、初めて、一人で親に頼まれたものを買いに行く。という小さい子を思わせる立場のような気がして今の時間を『おつかい』と称した。

 そのまま靴箱で靴を履き替え、外に出る。

 この学校は校舎からは見えない中庭がある。なぜそうなのかというと、今さぼっていると思われる二人直々の注文だからだ。

 この二人は実家がお金持ちで、その力で二人しか使えない用の中庭を作った。

 中庭なのにドアがついており、鍵がかけられている。そのカギを持っているのは五華のメンバーと茜音だけだ。

 五華のメンバーはどれも学園の中じゃトップ5を占領するほどのイケメン。つまり、このサボり魔たちも大変女子から支持をもらっていて、この二人が好きな女子は一度でいいから中庭に入りたいと願っている者も少なくはない。いや、むしろ全員の願いだろう。

 そんな中、女子の中では唯一一人だけ合鍵を持っていて、トップ5の四人からの愛を一身に受けている茜音はすべてと言っていいほどの女子から何かしらの恨みを買っていた。

 だが、愛されている少女に手を出せば自分たちがどうなるか分からないという恐怖心があり誰も近づかなかった。


―――――――カチャリ


 鍵を開けた茜音はそのまま中庭に足を踏み入れようとした。

 その時だった。

 茜音の背後から腕が伸び、そのまま口元を覆った。


「!?」


 今まで一度も体験したことのないことに動揺を隠せずにいる茜音。かろうじて口元を覆っている手を見ると、青白く細かった。


(女子・・・・・・?)


 自分を拉致しているのが女子だということと、何人かの女子が後ろにいることが分かった。


(もうっ!こんなことになるんだったら言うことちゃんと聞いとくんだった・・・!!)


 大声でも呼ばない限り五華はこないだろう。もともと守られてる妖姫が守護者より遠くにいる時は姫自身の色香によって区別されることが多い。妖と姫は性別の差から色香がずいぶん違うらしい。―――茜音にはわからないが―――つまり、守護者は自分の守っている姫に妖の色香が急接近してきたらすぐさま助けに行くのだ。

 しかし、姫同士は接近してもすぐさま駆けつけてくれることはない。やはり同姓だからか色香が似たような物であり、しかも女子同士は仲良くしていることが多い。

 つまり、姫が悪意を持って近づいて生きたとしても五華の人たちは助けに来てくれない。ということだ。

 しかもここは校舎からは見えないように作られている中庭だ。

 きっと、このまま自分はどこか倉庫に連れていかれて痛めつけられるんだ・・・・・と、思いながら目をつぶると、いきなり体が前方に傾いて、固いような柔らかいような物にぶつかって何かに身体をそれとはさまれた。


「え?」

「・・・・・お前はどこまで馬鹿なんだ。呆れる」


 目を開けて頭上を確認する。

 その瞬間サボり魔であり五華である、天塚(あまつか)浩央(ひろみ)と目があった。

 紫色の瞳に、可憐な女性を思わせる整った顔。だが、彼が男ということに違和感はない。薄紫色の髪は頭上でポニーテールにしてあってこの剣呑な雰囲気に合わず優しく風に揺れていた。

 彼は妖の中では「魔族」に分類される。ちなみに春陽は「吸血鬼」だ。


「あ・・・ごめんなさい・・・」


 素直に謝ると彼の冷たい視線はやわらいだ。だが、それも茜音を見ていた時だけ。女子たちに双眸を向けると、彼女たちは一瞬だけ顔を赤らめたが、すぐに青くなる。

 浩央は口以外の顔のパーツは動かさずまるでロボットのようなしぐさで冷たい声で言った。


「俺達の姫に何かしたらどうなるか分かってんだろうな」


 もはや疑問系ではなかった。

 そのことに気付いた女子たちは「ひっ」と喉の奥で悲鳴を上げると散って行った。

 それを見届けた浩央は茜音を離すとさっきよりは優しい声で言った。


「一人で行動するなと海翔にさんざん言われていただろう?・・・・それより、何か用か?」

「へ?」


 最後の言葉に一瞬茜音はきょとんとする。今の一度も体験したことがない出来事に本来の目的を忘れていたみたいだった。すぐに思い出すと茜音は明るい声で言った。


「呼びに来たの!一緒に入学式出ようって!」


 その言葉を聞いた瞬間浩央はため息をついた。そして、微笑を顔に作ると言った。


「そのために来たのか。・・・・ったく、いつまでも能天気なんだな」

「なっ?能天気じゃないわよ!」


 とっさに言い返すがその声に怒気はなかった。むしろ茜音自身も笑いながら言ったのだ。

 それを見た浩央は「せっかくだからアイツも呼んでやろう」と言い、茜音の良く知った人の名前を叫んだ。

 とたんに、ざわざわと木の葉擦れの音がし、人影が二人の前に立った。


「よし!薫もそろったところで行きましょっか!」


 薫と呼ばれた、梓馬より少し長い紺色の髪と目をした冷たいような優しいような綺麗な顔立ちをした少年――――藤野(ふじの)(かおる)は何が何だかわからないまま茜音に引っ張られて行った。



         ☆            ☆             ☆



「よしっ全員そろった!」


 茜音のどこか気合の入った声に浩央と春陽は微笑んだ。春陽に至っては「おう!」と元気よく返事した。

 だが、海翔がさっきの一連のことを許さなかった。


「あ~か~ね~~!!」


 いきなり茜音の声を呼ぶと、両頬を両手で軽くつねる。


「いっいひゃ(いたい)いひゃい(いたい)


 茜音の声に「強くしてないよ」と言いながら海翔は手をはなす。とたんに自分の両頬を茜音は手でさすった。


「それより!・・・言ったよね?あれだけ一人で出るなって!今回は浩央がいたからいいけどさ!」

「もとより必要ない争いをしていた二人の原因でもあると思うが」


 浩央の声にぐっとのどを詰まらせる海翔。だけど、説教はやまない。


「それもあるけど・・・・!妖姫が近くにいたんじゃ普通に友達同士でいるかもしれないと思われるからね!妖姫の色香は似てるし・・・・!!」

「俺はあの女たちの色香に邪念が混じってるとすぐに感じ取ったぞ。それにいつも女と一緒に行動しない茜音が女と――――しかも複数の女といることからおかしいと思うだろう。冷静に考えればわかるが?」

「そーそー。もう済んだことやけんいいやん?」

「あのねぇ!二人とも茜音に優しすぎるんだよ!特に春陽!」

「なんで俺なん!?」

「すべてにおいてだよ!」

「逆に海翔は厳しすぎる!」


 この二人は一度言い争い始めたらいつ終わるか分からない。そのため、この説教タイムは終了となった。

 終了となったころに、まだ昼寝(朝寝ともいう)から起きたばかりで、睡魔に取りつかれていた薫はやっとそれらを追い払ったようだった。


「・・・・・で、僕は入学式に強制参加させられるわけなの?」

「うん!」


 満面の笑みで拒否権をなくした茜音はいまだに言い争いをしている海翔と春陽に向き直って大きな声で言った。


「こら!入学式当日にケンカしないの!いーい?今日は良いスタートをする日なんだから!」

(でた。茜音のメルヘンじみた台詞・・・)

 と、梓馬以外の全員が心の中でため息をつくが、顔は心に反して笑みを作っていた。どっちが本心を表しているのかわからなくなるが、それでも茜音に対する気持ちは全員同じだった。


ピンポンパンポーン

 と、放送を始める合図が鳴ると、アナウンスが聞こえ始める。


『新一年生の皆さんは講堂にお集まりください。くりかえします―――――・・・・』


「ほら、行くよ!皆で入学して皆で卒業するんだから!今日終わったらあと一回しか入学式ないんだからね!」

 

 そういうと茜音は梓馬の腕を強引に引っ張って立たせた。

 驚く梓馬に笑みを向けながら、言った。


「梓馬も行くんだよ?皆でひとつなんだから!」


 梓馬は口説かれているような錯覚に陥ったが、いつもの無表情でやり過ごした。

 茜音はその顔にふわっとしたような何かが混じっているのを感じ取った。



          ☆            ☆           ☆


「よし、じゃ、一緒に入るよ?」


 茜音の問いかけに全員が頷いた。

 六人は横一列になって手をつなぎ、「いっせーの!」という茜音の掛け声でいっせいに講堂の中へと大きな一歩を踏み出した。

 茜音は満面の笑みで、海翔は楽しそうに、春陽ははしゃぎながら、浩央は微笑を顔にたたえながら、薫は眠たそうな顔の中に好奇心をちらつかせながら。

 そして梓馬はいじわるそうな笑みを浮かべながら最初の一歩を踏み出した。

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