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妖華姫  作者: 莉那
3/7

*2*

「おはようございまぁーす!」

中学校の入学式で、新しい学級になるというのに茜音は元気よくあいさつした。

大半があいさつを返してくれた。

茜音は辺りを見渡したが見知らぬ顔がないのを見て満足げにうなずいた。

この学校は、妖と妖姫専用の学校でそのままの通り、『妖学校(あやかしがっこう)』と名付けられている。

小・中・高と試験をせずに進級することができる。

人間が入れないこの学校はその分人数が少ない。そのため、知らない人などいないのだ。中等部だけで140人なのだ。

高校生一年生になると、ほとんど全員と言っていいほどこの学校自体から卒業を迎える。

妖華姫だけではなく、他の妖姫もそれぞれ相手を見つけて16歳になればこの学校を出て行って暮らし始める者が多い。

暮らし始めたものは、妖のお偉いさんたちからいくらか支援をもらえて、苦しい生活はしてないそうだ。


「ん。あ!梓馬!!一緒のクラスみたいだね!良かったぁ~!」


梓馬と呼ばれた少年―――――香月(かつき)梓馬(あずま)はゆっくりと茜音に顔を向ける。この一連のことだけで大半の女子が茜音を睨みつけた。

それもそのはず、彼は学園きっての美男子なのだ。睨まれてもしょうがない。

だけど、茜音は気にしない。こんなことで気にしていたら生きていけないと自分で思っている。

梓馬はひやっとするような視線を茜音に向ける。だけど、茜音はその仕草から相手が怒っているわけではないとすぐに察知する。

そして何気なく梓馬にスキップで近寄る。

この少年もまた五華の一員だった。「鬼」に分類され、一番五華の中で力が強かった。他の人達はみんな同じくらいの力だ。

その強大な力故、他の生徒から『五華(いつか)鬼月(きづき)」と呼ばれていた。

しかもこの少年は一番強いのに茜音をあまり守ろうとしなかった。

いつも他の四人に任せきりと言ってもいいだろう。

そんな少年は近づいてくる茜音を双眸でとらえると、低い声でひとこと言った。


「当たり前だ。五華は絶対妖華姫と離れることはないようにされてる。だから小学校も全部同じクラスだっただろう」

「そうだね」


軽く頷いてみると自分の指定された席に着く。

その席は梓馬の横だった。

これで12回目だ。梓馬の隣の席になるのは。

自分が妖華姫だからか、この学校生活では五華のメンバーに席を囲まれて勉強した。席替えの日になったら五華のメンバーと自分の席とのシャッフルがある。

他の人たちはいろんな人と隣の席になっているというのに、自分だけ五華のメンバー以外となったことがない。

妖華姫だからいつどこで命が狙われるか分からない。というのを理由に学校でも外でも自由という自由になったことがない。

たまに、家の中でも自由を奪われる瞬間が来ることがある。


「はぁー・・・他の人と隣になってみたいなぁ・・・・」


妖姫には人間以上の色気がある。妖姫は人間とあまり変わらないが、その色気ゆえに狙われることが多々あった。だからここに召集されて守られているのだ。妖姫は自分の恋人、またはあらかじめ定められていた守護者に守られている。

それが妖華姫になるとその倍以上だった。

だから、彼女はいつどこから現れてもおかしくない敵に備え、いつでも守られていた。

そんな、周りの男を魅了する女が。

顔が美しく、周りの男を一瞬にして癒す女が。

『他の人と隣になりたい』と言ったのだ。

周りの男どもは一瞬にして大きな音を立てて総立ちになる。

が、海翔の睨みに全員が身をすくめて座った。


「そういう無責任な発言しないこと。ほら。バカはあんな感じになるから」


海翔に睨まれてもいまだに熱い視線を送ってくる男を参考にした後、「見るな」と海翔は一括した。

男はすぐに顔をそらす。当分、茜音のことを見ることにためらわれるだろう。


「はぁーい。」


茜音は素直に返事すると、ふと気になることがあって梓馬に聞いた。


「ねぇ、梓馬。ほかのみんなは?」


他の三人―――――いずれも五華―――――が来ていないのに気付いた茜音は先に学校へ来ていた梓馬に尋ねる。

返ってきたのはそっけない返事。


「俺は知らん。いずれくるだろ」


そういうと梓馬はそっぽを向いてこれ以上話しかけるなとでもいうように拒絶というのにふさわしいオーラを出した。

―――――昔から、こんな感じだ。

物心ついた時から彼は人とあまり話さなかった。話しかけてもそっけない返事をするだけで、茜音は小さいころ、彼が自分のせいで怒っているのだと思ってあまり話そうとしなかった。

五華に選ばれた時から五人は茜音の家で育てられ、今でも共同生活をしている。

たぶん、5年前くらいだと思う。

彼が怒っているわけではないと気付いたのは。

何か理由があったからこんな性格になってしまったのだ。と、茜音は自分で解釈している。

たぶん、その理由は彼の父親が死んだことが関係していると茜音は今でもずっと思っている。

彼の両親のうち、母親は梓馬が生まれると同時に他界した。

それから梓馬は父親に育てられた。その父親は、少ししか記憶に残ってないが、やさしかった。いつも、会うたびに私の頭を撫でてくれた―――――――。


まだ彼の父親が死ぬまでは彼らはまだ候補だった。

候補だった彼らは顔を見合わせてお互い知り合っているためにも何度か茜音の家を訪ねてきた。その時、いつも彼の父親に撫でてもらっていたのだ。

不思議に心が和んだ。

それから、1年経ち――――――――――――..............。

梓馬が五華に選ばれると同時に、彼の父親は他界した。

まるで、彼の生き様は息子のためだけにあったように思えた。

息子を五華にさせれば、息子は苦しまないで暮らしていけるだろう、と思ったとされる彼が最後に見せたのは、笑顔だったという。


昔を思い出して、目頭が自然と熱くなった。

それから、視界がゆがんでいく。

まだ4、5歳くらいの頃の話だというのに梓馬の父親の存在は自分にとっては大きなものだったんだ、と今更ながら茜音は思った。


「ん?どうしたん?なんで泣いてんの?」

「え?」


他とは話し方が違うよく知った人物の声に、茜音は自然とうつむいていた顔をあげた。

その上げられた顔を相手が見た瞬間、相手の顔は一瞬にして怒りに変貌する。


「ふぅーん?俺の嫁に何してくれんだろうね?梓馬?」


その声に梓馬は面倒くさそうに顔を少年へと向けた。


「あー!違うの!ただ、昔のこと思いだしてて!」

「あ、そうなん?」


博多弁混じりの軽い返答に茜音はがくっとなる。


「うん、そうだから怒んないでよ。まったく、短気なんだから」


苦笑交じりにそういうと、海翔とよりはましな方の童顔で、女子に見える彼は、肩甲骨当たりまである後ろに一つ結びで結っている金髪の髪を揺らしながら首を振った。


「違う違う。梓馬がおったら泣かされたと思うだろ?だって、昔よく梓馬の目が怖い~って泣いてたじゃんか」

「ちょっと!みんなの前で恥ずかしい過去公表するのやめてよ!」


わめく茜音を優しい目で見つめながら、彼――――――真田(さなだ)春陽(はるひ)はため息をついた。


「ったく、また茜音と隣になれるなんて羨ましいな、梓馬は。俺はまだ6回しかなったことないっつーのに」

「えー?そうだっけ?7回ならなかったっけ?」

「いいや、6回。俺はちゃんとここに覚えてっからな」

自分の頭を指差す

「そうだっけなぁ?」と、口に出しながら茜音は自分の記憶を訂正した。

この春陽も五華の一人だった。一番守りに対する情熱が熱く、いつでも一番最初に駆け付けてくれた。

一番守ってくれるのに、他のみんなに気をつけろって言われるのが意味分からないでいるが、今はそんなことより来ていない二人に気が行った。


朝家を出た時にはいないはずだったんだよなぁー。と、独り思いながら、「あ、そっかぁ。」と口に出す。

不思議そうに春陽と海翔に見られる中、茜音は苦笑した。

彼らは、きっとどこかでさぼっているのだ。

二人は昔から意味ないと思った授業には顔を出さなかった。きっといつものお気に入りの場所で居眠りでもしているのだろう。

なぜこのことがすぐに思い浮かばなかったのかと思った。答えはたぶん、入学式は出るだろうと思っていたからだと思う。

小学校の卒業式に出たのだから、たぶん、入学式にも出ると茜音は思っていたのだ。


「ね、まだ入学式始まるまで時間あるからさ、二人探しに行かない?」


唐突な提案に梓馬以外驚いた。


「別に俺はいいけど」

「僕もいいよ」


二人の声が重なって発せられた瞬間、双方の目の間に火花が散った。

この二人は何かあれば二人だけで競い合う性格だった。

周りはそれに慣れ、呆れ、ついには放置するようになった。

しかし茜音のことで競い合う時には梓馬以外の他の人は放置しなかった。

すかさず仲裁に入って自分が手柄を横取りしようとしていた。


はぁ~。とため息をつくと茜音は一人で教室を出た。

独りになるなと言われていたけど、学校の中ならいいだろう。と思って一人で行動した。

なんか、新鮮だった。

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