4 進化する熊の日常に強襲
2012年4月25日
午後7時23分
人の時間の概念は時計が創っているとしたら、
時計を持たない熊は、
日照以外の時間を知らないのだろうか?
そして時計が止まれば時は止まるのだろうか。
秒針が2と3の間をうろうろしている腕時計を見ながら御子は神と熊に問い掛けた。
神の答えは
自分で考えろ!
という投げやりで無責任なものだった。
熊の答えは
時間?なにそれ?魚?
+はくマネだった。
まあ止まる訳ないし
熊もはかないのだが、
自らに考えさせる神と熊に誠意をかんじた。
そして自らが考えるのが今の状況を打破するのには最善な気がした。
とりあえず前を向く。
目の前に広がる異様な光景は、絵になってそうだったので、調べてみようと御子は思った。
検索ワードは鎧 デカい人だろうとも思った。
真っ暗な夜に、デカい月の下で、デカい人とこれまたデカい鎧が、殴り合っている。
御子は時計の針を巻き戻して時よ戻れと念じた。
まあ戻るわけないが。
剣はあの時
『片付ける』
と言った。
そして彼は空に向かって手を伸ばした。
すると御子の数十メートル先に、どこから現れたとも知れない、30メートルはあろうかという、
巨大で尊厳な風格のある洋風の騎士のような鎧が現出した。
灰色の全身に対し、
やたらと目をひく、
胸の辺りの、
洋風の装飾の施された、黒い扉は鎖で縛られていた。
頭には、十字架の下が欠けたような装飾がついており、目の辺りは空洞になっていた。顔の右側には酷い損傷が見られた。
御子が呆気にとられていると、
とうの剣は、
満足げに頷き、
それからヘリウム入りの風船のように、
軽やかに宙を駆け、あっというまに鎧の胸の高さまで上り、鎧の扉に手を当てた。
すると鎧の扉が一瞬光を放ち、鎧を包み込んだ。
暗い夜中に、久々の光の登場で、鎧を凝視していた御子の眼は、目潰しを喰らったような状態になった。
御子はぼやける視界の中に剣の姿が無いことに気付いた。
そして鎧を見つめた。
あの中に剣がいる事を確信していた。
僅かに光を放った鎧は、内側から黒々とした炎のようなものを吹き出し、20年ぶりにエンジンが入った車ばりに、轟音を轟かせた。
灰色が黒く霞む。
肩や腕、足や顔の頬の部分からは黒いモヤモヤを出し続け、モヤモヤの先は夜の闇と溶け合い、消えていく。
そして軋むような音をたてながら、
身体の動かし方、歩き方を思い出すように、デカい人に向かって、ゆっくりと歩みを進めた。
デカい人は最初こそ謎の鎧の登場に驚き、血走った眼をギョロギョロさせていたが、鎧に向き直ると、叫び始めた。
そして両者激突の末、
今の殴り合いにまで針は進んだ。
御子はそういえば兄ちゃんはどんな状態なのだろうと想像した。
2012年4月26日
7時22分
剣は愕然としていた。
窓からこちらを覗くドデカい眼があったからだ。
御子を探しと、家をうろちょろしている内に、
窓の外が白くなっていて、さらに赤い線があるのに気付いた。
よく見るとそれは、
でかい眼球だった。
剣は、身体から力が抜け落ちるのを止められなかった。情けなくへたりこむ。
そして走馬灯を見た。
その中に、
両親の記憶が少ししか無いのに失望し、それよりも学校の割合が多いことに怒りを覚えた。
短い人生を捧げて行っても、学校は、窓の外に眼球があったときの対処法を教えてくれなかったじゃないか。
そして走馬灯は終わりを告げ、眼球を直視する。
御子のことが案じられた。
無事なのか心配だった。
こんな状況でも、妹を心配できるなんて、兄の鏡だなと剣は思った。
すると今朝の夢の中年風男の声がした。
「そうか。なかなか頑張ったんじゃないか?
どうだ?死ぬ気分は?」
剣は、突如湧いてきた、理不尽な怒りを、夢の男に吐き出した。
「あんたは、そうやって傍観者のつもりか!
見てないで助けろ!」
だが、その矛先が幻聴という事実に失望した。
だがそのとき、
デカい眼は剣とは真逆を見つめ始めた。
そこで、初めてデカい眼がデカいのは眼だけじゃなく、身体全体だと気付く。
デカい眼が見つめるその方向には、少し見渡しの良い場所があり、
暇な日はよくお世話になっていた。
デカい眼の視線が離れた事実に気づき、剣は逃げ出そうと足に力をいれた。だが足は全く動かず、重い腰は驚くほどあがらなかった。
しばらくデカい眼の見る外を見つめる。
すると鋭い光が剣を包み、剣は意識を失った。
頭上に月を浮かべながら、巨大な鎧が立ち上がった。