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1 絶望は白い闇と共に




2012年4月25日

午前4時半

東京の空は白く濁っていた。矢代剣が住んでいる共同団地の12階のベランダからはまだ眠っている街がよく見えた。



肌寒い風に独特な白い髪を踊らせ、首を縮めていた剣はふと、リビングでついているテレビ番組に目をやった。


そこそこ大きいテレビには7人の人物が一列に並んでうつっており、

討論を交わしているようだった。

ふてぶてしく座る腹の膨れた小柄の中年男性と小さく座るまだ20代半ばであろうかという青年が両端に座っており、

対照的な可笑しさを生み出していた。


討論のテーマは

「仙台で落盤事故!破滅の予兆か!?」だった。


こんな番組前にも見たなと、剣は右手で左の頬をさする。意味もないこの癖は、特に気にもしていなかった。


前の番組では年内に世界が終わると言っていたが、世界はとても平和に続いている。


核戦争は起きていないし起きる気配もない。


いつか核ミサイルで騒がれた某国も、打ち上げに失敗してからはのほほんと各国とにらめっこしているようだ。


妹が言うには前にもこんな事があったらしい。


1999年、

アンゴルモアの大王が来るやら何やらで、

世界は面白おかしく騒いでいたと。


当時剣は5歳で、

妹は3歳だったので、

2人とも

よく覚えていないが、

両親が世界が終わる前にとビデオを撮っていたようで、妹は大掃除でそれを見つけ、1人で見たという。


そのビデオには、

笑顔の両親が幼い子供へ愛情を注ぐ様が映っていたと、嬉しそうに言っていたのが印象的だった。


その両親は5年後、

2人で事故にあって帰らぬ人になっているので、妹にとって両親の姿が映るビデオは宝物らしい。




「どうしたの?」


後ろから声をかけられ、剣はビクリとした。


そして振り返り、

声の主である妹の御子に答えた。


「かなり早く目がさめちゃって、二度寝できなそうだったから空を見てたんだ」


剣を見る御子はパッチリした二重のせいでか、

15歳にしてはまだ幼さが残っていて、肩甲骨まである長い黒髪は兄の目から見ても綺麗だった。


「そっか。

また寝ぼけたのかと思ったよ。兄ちゃん寝ぼけると怖いから」


「わるかったな。

御子はどうしたんだ?

何で起きてる?」


「私もなんだか目がさめちゃって。

それで寝ようとしたら足音がして、

追ってきたら兄ちゃんがベランダにいたの」


「そっか。んで御子は二度寝するのか?」


「そうしま〜す。

眠くなってきたしね。

おやすみ」


「よく寝ろよ」


寝室に向かう妹の後ろ姿を見送りながら、

剣は昔の事を思い出していた。


幼い頃から2人で過ごしてきたからか、

御子は反抗期が無かったと思っていたが、

御子曰わく、「一時期凄く荒れていた」らしい。


そう語る御子は何故か自慢げだった。







いつの間にか綺麗に澄み渡っていた空を見て、

剣は朝食を作ろうと決意した。

それと同時に、御子が起きてきた。


御子は眠そうな顔でリビングに入り、テーブルについた。


「兄ちゃん…

哀れな妹に朝飯を〜」


剣はおどけて答えた。


「今日は鮭の塩焼きとワカメの味噌汁でございます」


「今日はっていつも鮭とワカメの味噌汁じゃん。飽きたよ〜」


「飽きるのは人間が贅沢だからだ。野生の動物はいつも生肉でも文句を言わずに食べる」


「じゃあライオンは年内にはベジタリアンになるね」


「そんなバカな事になるなら熊はフィッシュライクになってるよ」


「もうなってるよ」


「そんなバカな」




「ご馳走さま&行ってきます!」


と走り出す御子を見送ってから少しの間、剣は仮眠をとることにした。



仮眠中の夢で剣は真っ白い空間にいた。

辺りには何もなく、

足下には水面が広がっていた。


剣が辺りを見回していると、後ろから声をかけられた。


「もうそんな時期か。

全く時という奴は過ぎる事に躊躇いをしらん。」


剣が振り返ると後ろにはそう遠くない所に真っ白いスーツに真っ白いコートを着て、真っ白い中折れ帽子を深くかぶった、中年風の男がいた。


まるで旧知の友人との再会を喜ぶような男の喋り方には気味の悪さを感じた。


男はコッチを気にせずに喋り続けた。


「いやはや、

もう逃げ道は無いな」


そういう男の顔には彫ったようなシワが刻まれていた。


剣はここはどこか?

アナタは誰か?など思いつく疑問を投げかけたが、男は聞こえもしないように遠くを見ている。


剣は業を煮やし男に近づこうと歩みよった。


すると水面に足が沈み始め、あっという間に剣を飲み込んだ。




遠くからけたたましくアラームの音が聞こえ、

剣はソファーの上で飛び起きるように目を覚ました。




東京の空には雨雲が居座っていた。






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