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ため息

日が暮れ始め、夫と街歩きがてら新居の近くで買い物をして帰宅した私は、晩ご飯の支度に取りかかった。


今夜は豚のしょうが焼きだ。


豚肉をたれにつけこむ時間を利用し、

みそ汁を作りながら私は先ほどあった出来事を思い出していた。



普段めったに履かないヒールの高いブーツで街歩きを1時間以上していた為、

足のかかとが猛烈に痛くなっていた私は夫に休憩を提案し、

たくさんの人で賑わっているカフェに入りカフェオレとチョコレートパフェを注文した。


パフェをおいしそうに食べる夫をよそに、

私はカフェオレを飲みながら窓際の席から街を行き交う人々や車の流れを眺め、

今まで住み慣れていた九州の田舎の事を思い出し、ずいぶんと遠い所にやってきたものだと感慨にふけっていた。



そんな時だった。


「あっ、財津さんだ!」


私の背後から若い女性の声がした。


私たちの姓は財津だ。


私はその声にビクッと反応し、

それまでパフェをニコニコしながらおいしそうに食べていた夫は、

一瞬で感情のこもっていない笑顔を作り、



「鈴木さん、こんな所で会うなんて偶然だね」



などと、あたりさわりのない会話をし始めた。

どうやらこの女性は夫の職場の後輩らしい。



「もしかして財津さんの奥様ですか?」



といきなり声をかけられた私は、

無意識に夫の方を見て



「は、はい。」



と緊張して答えた。


結婚して一週間、人から“奥さん”や“奥様”と言われたのはこれが初めてだった。


「先週ご結婚されたって聞いて、同僚の女の子たちと奥様はどんな方なんだろうって話してたんですよ〜。」


「は、はぁ。」


「あ、もしかしてデート中でした?

お邪魔してしまってごめんなさい!

それじゃ財津さん、明日会社で!」


と言い、女性は私たちのテーブルから去って行った。


私たちの声が聞こえないぐらいの距離まで女性が離れると、


「あの女、俺に気があるみたいで仕事中に何かと用事作って俺の所に来てさ、スゲー迷惑してんの。

でも奈津子のおかげで明日から大人しくなるかも。」


とニコニコしながら言い、夫はまたパフェを食べ始めた。


その後カフェのトイレに入っていた私の耳に先ほどの女性の声が聞こえてきた。


「財津さんの奥さんブスでビックリして吹き出しそうになっちゃった!

財津さんってブス専!?

奥さんがアレなら私財津さん奪っちゃおうかな~!」


私はショックを受けた。




夫に関わると人は私をブスや不細工と言う。


夫があの女性にたとえ奪われたとしてもどうだっていい。

でも自分の顔をけなされるのは正直辛い。

こんなにブスブス言われたのは小学校の時以来ではないだろうか。


たしかあの時も夫が原因だった。


女性が連れとトイレを出た後、

傷心の私は席に戻り夫にちょっとした八つ当たりで


「あの人あんたを私から奪う気満々みたいだよ」

と笑顔で言ってやった。


ニコニコ顔の夫はとたんにゲッという表情になった。


それを思い出した私は大きなため息をつき、

タレにつけていた豚肉を焼く作業に取りかかった。


夫は考えが甘い。

あの女は今まで以上に夫にベタベタするだろう。



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