プロローグ 出会い
「マサト、今度来る子をね、学校まで案内してやってくれない」
母さんから言われたのはそう言われたのは週末の土曜。
せっかくの休みで僕は携帯ゲームにハマりこんでた最中だった。
「え~」
生返事しながら気が乗らない。
「今度来る子って……?」
「双葉第二に転入してくる男の子がいるのよ。その子のお母さんとお仕事で知り合いで……ほら最初は一人で通うとなると分かんないでしょ。そこの東都マンションだから」
画面からは敵の城が開けてて音楽が鳴ってる。もう少しでお宝ゲットできそうなのに……
「学校ぐらいそんな遠くないじゃん」
「いいでしょそのぐらい。こっちは初めてらしいから」
「う~ん」
「それにね、あんたと同じ五年二組になるそうよ」
その言葉に少し気が変わる。
「ほんと?」
思わず顔を上げる。だとすると関係も近くなる。ずっと付き合うかもしれない。
同じクラスに入ってくる新入りの顔を見たい気もあった。
「仕方ないなあ」
僕はゲームを終了させて立ち上がった。
母さんに連れられて行った東都マンション。一階の応接ロビーで待つ。
近所で「お金持ちマンション」と言われてるだけあって、エントランスも大理石がピカピカ。足がすべりそうだった。
「ほら、きたわよ」
母さんと同じぐらいの年のおばさん。色白で目元がやさしい感じで結構美人だった。
「マサト君ね、今日はごめんね~」
「はい」
ちょこんと僕は頭を下げた。おばさんは後ろを振り返る。
「ほら、シュウ、こっち」
「…………」
入ってきた子を見て僕は息が止まった。
背は僕と大して変わらない。でも……
黒髪が綺麗に整えられてほっぺた辺りまである。黒い瞳ががぱっちりと大きくて睫毛が長い。
おばさんに似て色が白くて顔立ちが凜々しいっていうんだろうか、左右対称で整ってる。その上身体もすらっとして手足が長くて……
「…………」
一瞬見惚れてしまいそうになるのを視線をそらした。
僕は慌てて母さんの袖を引いて囁く。
「なんで女の子……」
「えっ」
「女の子なら女の子に案内してもらえばいいじゃん」
正直胸がドキドキしてた。
もう小さい頃とは違ってる。なんだか最近は急に女の子が苦手になってきてる。
幼稚園からの幼馴染み女の子も居るし、昔はクラスの女子とも平気で遊んだりふざけあってた。お互いにケンカもよくした。
それなのに、最近は女の子がそばに居るとなぜか落ち着かない。
幼馴染みのさやかでも同じで、なんだかそわそわしてきて変な気持ちになっちゃう。
クラスの女の子も……特に少し気になってる子と喋ると上手く言葉が出てこない。
何か気になってしまって。可愛い子が近くにいるとなんだかドギマギする。そんな自分がおかしい。
目の端っこで相手を見やる。
こんな美少女ならクラスで評判になるかもしれない。正直嬉しい気持ちもちょっとある。でも二人っきりで案内するってなると……心が落ち着かない。
恥ずかしい気持ちが先に立ってしまって……
「僕、男だけど」
後ろで響いた声。とっさに返事できなくて振り返る。
「え……」
目の前に迫る顔。つぶらな黒い瞳がまっすぐ僕を見てる。さらさらの髪が揺れた。あごの形もなだらか。
(キレイ……)
本気で思った。
確かに声は女の子にしては低め。
(マジで男……?)
こんな美しい男の子なんて会ったことない。
「ふふ……また。シュウはよく初対面の人に勘違いされちゃうのよね」
おばさんが朗らかに笑った。
「可愛い顔してるものね」
母さんもシュウ君を見ながら言った。シュウ君は女の子扱いされて少し不機嫌になっていた。
「あっ……そうごめん」
間近でその整った顔立ちを見ながら僕は言った。なぜか胸の動悸が収まらない。
「まあ……いいけど」
シュウ君はやれやれといった感じだった。そのまま急に僕に近寄る。
腕を僕の背に回して抱くようにして言った。
「よろしく……これから同じクラスだし」
「う……うん」
差し出された手を僕は挨拶のように握って振る。
なぜか胸の動悸がひどくなった気がした。




