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ヒロインは誰?私じゃないよね?

作者: 葉裏
掲載日:2026/03/27

思いついたまま書きました。

「アリエッタ・ドヌーブ、私はお前との婚約を破棄する」

公爵令嬢で王太子レオポルド殿下の婚約者の私は、王立学園の卒業パーティ会場でいきなり彼からのこの宣言をされた。

周囲には卒業を祝う貴族の学生たちがいたが、王太子の朗々とした声が会場全体に響いた為に、飲んでいたグラスの手を止めて一斉に私の方を見た。

明るくない冷たいスポットライトを浴びたようだった。

レオポルド殿下はこのパーティに私をエスコートするために迎えにこなかったばかりか、平民として育ち養女になって男爵令嬢になったラーナ・セロートを傍に侍らせている。

そればかりかその周りにはアントニー・マクベリー宰相令息、ギルバート・ドルゲン騎士団長令息、ノルリーク・アスバルト魔法師団長令息の面々が手に花束を持って立っている。

私はいちおうレオポルド殿下に尋ねた。

「殿下、理由を伺っても宜しいでしょうか?」

「ふん白々しい。お前が嫉妬深くて数々の嫌がらせをラーナ嬢にして来たことは明白なんだ」

「全く身に覚えはありませんが、殿下が直接見聞されたことなのでしょうか?」

「証人がたくさんいるのだ。そればかりでなくお前はラーナを階段から突き落として殺害しようとしたであろう。全く将来国母になるに値しない、醜い心の女だな、お前という奴は。」

「このことは王様や王妃様もご承知のことなのでしょうか?」

「そんなことはどうでも良い。私は心の綺麗なラーナと婚約することにしたのだ。お前なぞ用済みだ」

「ラーナ嬢とおっしゃいましたか?貴女もそう言うことで宜しいのですか?」

私に言われてラーナ・セロート男爵令嬢は私から一瞬目を逸らした。それは私から婚約者を奪って勝ち誇った顔ではなく、そのことを恥じらうような困惑しているような表情に見えた。

だが顔を上げて何か言おうとした。

「実はわたし「さあ、この4年間常に成績上位を保ち、数々の嫌がらせに耐えて来たラーナに私から薔薇の花束を贈ろう。卒業おめでとう、ラーナ」」

それを遮ったのはレオポルド王太子殿下だった。

彼は侍従に持たせていた真っ赤な薔薇の大きな花束をラーナ嬢の顔が見えなくなるほどに押し付けた。

すると次から次に彼女を取り巻いていた令息たちがさまざまな豪華な花束を卒業祝いに捧げた。

「見ろ、アリエッタ。お前には花束を捧げて祝ってくれる者は一人としていないだろうがっ。お前のような醜くて卑しい心の女には誰も祝ってはくれるはずもないのさ。はっはっは」


ラーナ嬢は一人では持ちきれないので、次々と渡された花束を、王太子の侍従の者が受け取って控えていた侍女たちに渡して代わりに持たせていた。

しかし最後にはラーナ嬢に王太子が贈った薔薇の花束を持たせたようだ。

私は侍従の服を着て隅っこでかしこまっていたトムという若者に目で合図した。

すると緊張していた彼はギクシャクとした足取りで殿下たちの方に震えながら歩いて行った。

「なんだ、あの男は?こっちに向かって来るぞ」

王太子はトムを見て咎めるのを忘れ、ただその登場を呆気に取られて見ていた。

だがラーナ嬢はトムの姿を見て知っている顔を見たようにあきらかに動揺していた。

やがてトムはラーナ嬢の前にひざまずくと懐から小さな白い花を一輪取り出して彼女に差し出した。

「ラーナ様、ご…ご卒業おめでとうございます」

そのときラーナ嬢は両手に持っていた薔薇の花束を取り落として、震える手でその小さな一輪を受け取ったのだ。

その瞬間、ラーナ嬢の周りにいた貴族の令息や王太子たちの顔はつきものが落ちたようになって、たった今目が覚めたような表情になった。

「なんということだ! ラーナ、お前は私に魅了の呪いをかけていたのかっ?!」

「「「そう言えば、俺たちも同じだ。この女に騙されていたのだ」」」

王太子殿下も宰相、騎士団長、魔法師団長の息子たちも口をそろえてラーナ嬢を糾弾し始めた。

「いえ私は「ええい、黙れ妖しい術を使って我々をたぶらかした罪は重いぞ。おい、衛兵!この女を地下牢にぶちこめ。後で打ち首にしてやる」」

それから王太子は私の方を見てハッとすると、何かを言おうと一歩近づこうとしたが、私はそのタイミングを外すように顔を逸らしてその場から退場した。

ほかの令息たちも自分の本来の婚約者たちの方に弁解しようとその姿を求めたが。

すでに会場から立ち去った後だった。


****

***

**


私は地下牢に行くと国王の王命書を牢番に見せて、ラーナを解放した。

そしてドヌーブ公爵家の馬車に載せて王都の公爵邸迄ラーナを連れて来た。

馬車の中ではラーナ嬢がしきりに私に何かを話しかけようとしていたが、私はそれを手で制した。

「なにも話さなくても良いのです。貴女の本意でないことは私にもわかっているのですから」

それから。馬車の中では二人とも沈黙していた。

私もどうやって彼女に説明しようか頭の中で何度も反芻はんすうしていたのだ。


****

***

**


公爵邸の私の私室で、ラーナ嬢と向かい合って紅茶を勧めながら私はぼそりぼそりと話し始めた。

何故自分を助けてくれたのかというラーナ嬢の問いに答える形で。

「まず、あなたの態度は自分の境遇に戸惑っていたようだったこと。そしてあなたの持っている『魅了』は特定の人間に対するパッシブスキルということ。自分の意思ではどうにもならなかったということですね。まして平民上がりの男爵令嬢ともなれば、王太子はもちろんその他の高位貴族の子息たちの好意に対して拒否することなどできなかったから。あなたは彼らにどんな言葉を言えば彼らが救われるか知っていたのもあるけど、敢えてそれを言わないでおくことは無理だった。そうじゃない?」

「はい、それを言えばあの方たちの心が私に傾くことを知っていながら、抑えることはできませんでした。気づいた時には口からそんな言葉がでてしまっていたたのです。ゲームとしてならそれなりに楽しんでいましたが…・・・あっ、これは」

思わずラーナ嬢は口に手を当てたが、もう遅かった。

「そうね、あなたは転生者で乙女ゲーム『ときめき学園ものがたり』を前世でやっていた。そうですよね?」

「何故、アリエッタ様はそれを?」

「私も転生者で『とき学』のゲームをやり込んでいたからよ。でも私のやっていたのは『とき学Ⅱ』の方。

そのヒロインは初版のときは男爵令嬢のあなただったけれど、Ⅱの方は悪役令嬢の私だったの」

「えっ???」

「初版が出た後、批判が出たのよ。婚約者のいる男性を攻略して誑かし逆ハーするなんて、道義上問題があるだろうって、その後Ⅱが出て泥棒猫にざまぁをするのが流行ってね。私はその世代だったの」

泥棒猫の言葉にラーナは反応して顔を赤くして俯いてしまった。

「あっ、ごめんなさい。あなた個人のことを言った訳ではないの。あなたはここが『とき学』の世界でその中で役割をもたされるために転生させられたのだと思うわ。しかも本州以南の郡部に住む人で初恋の人にある花を贈られた思い出がある子、さらに『とき学Ⅱ』が発売前に転生させられている。そういう条件で貴女は敵役かたきやくとして、この『とき学Ⅱ』の世界に呼ばれたという訳、ひどい話だよね」

「私がこっちに来てから向こうではⅡが発売されていたのですか?」

「そう貴女は初版の世界の積りでいたけれど、実は違った。でも貴女はおごり高ぶらず、常に胸を痛めていた。だから私は貴女を王様に頼んで助命してもらったの」

「アリエッタ様が……」

「そう、大勢の前で婚約破棄をされて恥をかかされた私に対するお詫びの形として一つだけ願いを聞いて貰ったの。そうそう、いま貴女の幼馴染のトムを呼ぶわね」

私は侍女長のマーサに目で合図した。

するとマーサはトム青年を連れて来た。

「卒業パーティの一週間前に彼が門番に追い返されそうになりながらも私への面会を頼んでいたのを見て、話を聞いたの。彼は貴女とは幼馴染で恋仲だったんですってね。そのときに貴女に多年草の野草白十字の花を贈ったとか。実は同じ花ではないけれど、貴女の故郷に咲いていた百合山葵ゆりわさびにそっくりな四つの花弁の白い花でしたのね。百合山葵の花ことばは『覚醒』つまり魅了の呪いを解呪する意味があるの。あなたがトムとの思い出に目覚めた時、王太子たちにかかっていた魅了も解呪されたという訳。これは『とき学Ⅱ』の王太子ルートの筋書きなのですよ。王太子殿下も自分の幻想の中の『真実の愛』から覚めてしまうのだけれど、王族である以上、そして貴族である以上、あの人たちの婚約者への裏切りは呪いだけのせいにはできない筈。あら、ごめんなさい。トムさんを呼んでおいて、私ばかり喋っていましたわね。」

「あのう……私たちはどうしたら?」

黙って寄り添うトムを見てラーナ嬢は私に問いかけていた。

「そうね、あなたはそれほど積極的ではなかったけれど、私の婚約者を誑かしたその罪を償って貰うわ。国外追放にしてあげる。だってあなたはもう今回のことでセロート男爵家から縁を切られていますからね。ごく一人の平民の娘としてその男と一緒にこの国から出て行くのが良いわ」

「こ……国外追放?!」

するとトムがラーナに囁いた。

「ラーナ、僕は商人として国の内外に拠点を持って動いているから心配しなくて良いよ。」

「あっ」

おっと私は肝腎なことを聞き忘れていた。

「そうそう、トムさんは貴女のことを今でも思っているけれど、貴女は彼のことどう思っているか聞くのを忘れていましたわ。で、どうするお積り?」

「もちろん……アリエッタ様、これが真実の愛です」

ラーナ嬢は真っ直ぐな目で私を見てそう答えた。

「ごちそうさま。この世界って本当に私がヒロインなのかしら? なんか腑に落ちないわ」


私はそう言ってから二人を見送ってやったのだ。

ざまあを期待した人がいたらごめんなさい。

おほほほ……むなしい。







またどこかでお会いしましょう。

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