6.逃走劇
前回のあらすじ
少女は面倒事に巻き込まれました
説明会は一度解散となった。
学園側は倉庫爆発の原因を探るべく、急遽休みとなった。
ほとんどの生徒は既に帰宅している。
そんな中、セレナは一人静かすぎる校内を歩き回っていた。
(どこ行ったの。捕まった…なんて有り得ないよね)
本当に捕まっていたら大惨事だ。少なくともセレナの学園生活は終わりを告げる。
早く見つけないとセレナ自身も不味いことになる。
三十分ほど前に門は閉まった。つまり、まだ残っていることがバレたら説教を食らう。
それに、今日は揉め事も起こしてしまった。
明日は怒られる事が確定しているのに更に怒られるなんて耐えきれない。
さっさと見つけて帰ってしまいたいのがセレナとしての心境だ。
旧校舎をグルグル回っていると、職員室の前に来てしまった。
三人の教師が職員室で話をしているようだ。
直ぐに通り過ぎようと思ったが、思わず聞き耳を立ててしまった。
「──倉庫ですが、全焼した可能性があります」
「そうですね。外からの侵入者の可能性というのはどうなのでしょうか」
「それは無いと校長先生は仰っております。ここは貴族も通っている為警備は万全。それに、天八座結界術筆頭殿が結界を張っております。」
「それでしたら内部説が有力…になりますね。考えたくもありませんが」
「しかし、この事件を大事にする訳には───」
そこまで聞いたセレナは職員室から離れた。
(…普通の結界の中で魔術を使えば音の原理と同じように魔術は反響する。ただ、この学園の教育方針的に、【結界術筆頭】さんは魔術を使っても反響しない結界を張っているはず。ただ、そうすると外部からの魔術干渉からの侵入も容易になる。となると──)
思考の世界に入り込んだセレナは、気付かなかった。
後ろから誰かが着いてきている事に。
(──この学園の警備体制はどうなっているっけ。確か、門の前に警備員がいて、学園内にも数十人巡回しているはず。そうなると侵入は不可能に近い。じゃあ、内部と考えてみる?いや、警備員も居るし、簡単には……。警備員?)
思わず足を止める。複数人の足音が廊下には響いている。
学園は警備体制がかなり強固だ。
門が閉まっても、抜かりは無いだろう。倉庫破壊の件もあり更に強くなっている。
その事実にやっとセレナは気付いたが、遅かった。
廊下の角から警備員が現れたのだ。
直ぐに逃げればよかったのだが、目が合ってしまった。
もう、誤魔化せない。
「おい、そこの女子生徒!何をしている!下校時間は過ぎたぞ‼︎──まさか、今日の倉庫破壊したのお前だな。ちょっとこっちに来い」
ジリジリと警備員は近づいてくる。
「いえ、あの、わた、わたしはただ、忘れ物を取りに来ただけで…」
すごく適当な誤魔化し方をした自覚はあった。
ただここで犯人にされるのは不味い。名誉的にも、今後の影響的にも。
「ほう、そうですか。と帰せる訳ないだろ。大人しく職員室についてこい」
有無を言わせない圧を感じた。警備員に手首を掴まれた、と思った。
「えっ」
「いいから、走って!」
手首を掴んで居たのは警備員では無い。ルナだった。
後ろから警備員の声が聞こえる。
なりふり構わず、ルナは廊下を全速力でかけて行く。セレナの方が着いていくのに必死だった。
階段を駆け上がり、普段は入らないであろう科学準備室に入った。
ルナは内側から鍵をかけた。
手首を離されたセレナは床にへたり込んだ。
ゼーゼーと息を切らしている。
そんなセレナとは反対に息一つ乱れてないルナ。
「…ごめんなさい。大丈夫…じゃないね」
ルナはしゃがみ、セレナと視線を合わせる。
「…うん、じゃなくて、はい。大丈夫です。お手を煩わせてすみません」
ルナはお貴族様だ。平民のわたしは彼女を敬う義務がある。
その為、敬語を使ったのだが、何故かルナは不満そうな顔をしている。
セレナは敬語を正しく使えている自信が無い。
…もしかして、結構失礼な使い方をしたのかもしれない。
一度考えたら止まらないのはセレナの悪い癖だ。
先程は、学園の警備体制。
今は、目の前のお貴族様を怒らせた事。
オロオロし始めるセレナを見て、何か察したのかルナは困った顔をしている。
「私は怒っていないわよ」
…そのセリフは怒っている。という意味では。
あぁ、怒らせてしまった。本当にどうしよう。
しかし、セレナにはどうしてもルナに聞きたいことがあった。例えこれが、ルナを更に怒らせるとしてもだ。
「…どうして、ルナ様はまだ、学園に残っているのですか?下校時間はとっくに過ぎていますよ」
「…それは、貴方にも言えると思うのですが」
正論で返されてしまった。やっぱり怒ってる…?
それにしても、怒り方が誰かに似ている…?気のせいかな。
そんな事を思いながらセレナは詰まらせながら拙く話し始める。
「えっと、わ、わたしは、忘れ物を取りに来ていた?」
「何故疑問形ですの⁉︎」
案の定突っ込まれた。そりゃそうだ。自分でも変な言い訳だなと思いながら言ったのだから。
ただ、ここで本当の事を言うと大変な目にあうのも事実。
それだけはなんとしてでも避けたい。
必死で頭を回転させ、更なる言い訳を考える。そんなセレナを不思議そうにルナは見ている。
「…ここってさ、色々な調剤道具あるよね」
ルナは独り言を呟いていた。目の前のセレナに聞かせる訳でもなく本当にただの独り言。
口調もご令嬢が使うものではなく、セレナが普段使うような言葉使いになっていた。
「学園の資金で買ったものも多いみたいだけれど、生徒が勝手に持ってきた物もあるみたいだよ。隣国産の油とか。ハーブとか。卒業生の人が科学の先生にプレゼントした物もあるみたい」
「…プレゼント」
独り言に反応されると思っていなかったのか。ルナはびっくりしている。
(…わたしには関係無いはず。さっさとユリを見つけて帰るのが安全。でも、もし、これが本当なら。…確信が持てない。)
セレナはグルグルと考える。ある程度目星は着いたようだ。
ただ、それに自信が無い。
だから、絶対的な確信を持つ為勝負に出る事にした。
「…失礼承知で聞きます。もしも。もしも、目眩しをしたい時。ルナ様なら何をしますか?」
ルナはその問いに戸惑いつつも、指を顎に当て考えている。
「そうですね。私なら…」
科学準備室を見渡しながら、ルナは答えた。
「この学園の物を使いますわ。そうですね。この中だと…これですわ」
答えは出た。




