3.偽りと真実?
前回のあらすじ
少女は同僚に怒られました。
セレナは机に突っ伏している。
かれこれ数時間。ずっと書類をまとめていたのだ。
おかげで資料箱と本棚は綺麗になった。
だが、机の半分には資料と本がまだ山積みになっている。
だがマシな方だ。
いつの間にか、太陽の光は反対へ沈み、月の光が街を照らしていた。
──もう夜か。ランプをつけないと。お湯沸かさないと。お夕飯、どうしよう。…いらないかな。
頭の中で次にする事をポンポン上げていく。
まだ、寝れそうにはない。
「主。これなんだ?」
ユリは机にある書籍の上に乗った。
セレナは書籍を引き寄せる。片付けをしていたら本棚の奥の方から出てきた本だ。
月の光が表紙を照らす。
表紙はユリの羽のようなコバルトブルー。
一度も開いていないかのように新品同様だ。
表紙に書かれている言葉はこの王国の言葉では無い。
「…整理していたら出てきたの。医学書だよ」
「いがくしょ?【いがく】ってなんだ?」
セレナは表紙を撫でる。
「えっと、人間の体について知るもの…かな。お医者さんになる為に医学を学ぶ人もいるの」
「ふーん。主はその【おいしゃさん】に成りたいのか?」
ただの疑問だった。ユリにとってはそれだけだった。
「……さぁ、どうだろうね」
返された言葉は小さく、不安定なものだった。
✿✿✿
「…疲れた」
セレナは体を布団の上に預けていた。
隣には教科書が荒れているまま。
ローブも放ったらかしだ。
片付けないと、とは思うがそんな気力は今のセレナに存在していない。
ユリは夜の散歩だ!と言って外に行ってしまった。
無事に帰ってきてくれるなら良いのだけど。
はぁ、と思わずため息が出る。腕で両目を覆う。
そうすると何故か目に浮かんできたのは今日の授業。
『魔術とは技術だ。才能では無い』
『差が出るのは、魔術への理解と制御だ』
あの時、思ってしまったのだ。
──違う。
技術でどうにかなる問題ではない。
才能がある人が上に立ってしまう。
理解していても、使えない。
制御していても、使えない。
そう、思ってしまったのだ。
「…嫌なこと思い出しちゃったな」
セレナにとって学園は行かなくていい場所だ。
目立つのが嫌で3組に入れるように動いた。
1年生の時もなるべく人に巻き込まれないように動いてきた。
正直、辞めようとすら考えていた事がある。
(一体、わたしは何がしたいんだろうね)
仕事はそれなりに好きだ。
あまり人と関わらないし、黙々と進められる。たまに一部の同僚達に小言を言われる事も有るけれど大体自分のせいだから大人しく言わせている。
竜討伐と魔物討伐は苦手だけれど。
何よりも文字を見ることができる。
セレナは文字を芸術だと思っている。
文字は人柄が出るもの。
文字が完全一致する人はいない、その人の個性が出る。
だから好きなのだ。
セレナは本棚に手を伸ばし、適当な論文を取った。
月明かりだけを頼りに読み進めていく。
黙々と。淡々と。
紙がめくれる音が響く。
文字の世界に没頭している。
そうしているうちに、ゆっくりと意識は沈んでいった。
「──主にしては珍しいな」
ユリは開けっ放しの窓の隙間から入ってきた。
セレナは寝落ちしている。
いや、寝落ち自体は珍しくも何ともない。
布団で寝ている事が珍しいのだ。
仕事や読書に没頭し過ぎるセレナはよく机の上で力尽きている。
「何読んでたんだ?」
枕元にある、広げたままの論文を覗き込む。
「何とか、何とか、何とか…?何書いているんだ」
ユリは少し読んでみようと苦戦したが、諦めた。
満月が天を通り過ぎて少し。
セレナとユリの住む家に静寂が訪れた。
風が吹き、論文を床へ飛ばす。
with a normal family
✿︎ ✿︎ ✿
『セレナ、魔術はどんな人が上手く使えるかわかるかな?』
『えー。天才な人!』
『天才か。考えたものだね』
『違うの?』
『違うとは否定しないよ。ただ、私は才能と技術だと思うな』
『才能?技術?どういう事なの?』
『簡単に説明すると。才能が器。技術は水だよ。器が大きければ大きい程入る水は多いだろ?反対に小さければその分、入る水は少ない。でも、どのくらい水を入れるから人の自由だ。容器いっぱいに入れることも、半分入れることも、全く入れないこともできる。つまり、そういう事さ』
『えー、セレナには分からないよ』
『才能という器は変わらない。私たちは決められた器をどう使うかを見られているんだよ。だから、セレナ。お前は─────』
本作はフィクションです。
実際の人物、団体、作品などには一切関係ありません。




